カルチャーDDをやろう
16 1月 2020
DDとはM&A用語でDue Diligence(デューデリジェンス)、つまり、取引対象になっている企業や事業についてあらかじめ相当な注意を払って調べる、という意味です。ですから、DDの範囲はなにも会計、税務、法務に限るわけではなく、組織・人事、IT、環境、事業なども含まれます。もちろん、すべてを調べ上げようとするのではなく、各分野の大事なことに当たりをつけて合理的に実施します。
さて、「カルチャーDD」のカルチャーとは、企業文化などの狭義の直訳になじまない、もっと広範な概念を指します(図1)。調査では、「カルチャーの適合や統合の問題」が原因で30%のM&A案件において業績目標の達成に失敗し、67%の案件で買収効果が出るのが遅くなり、43%の案件で買収合意が遅れたり買収合意できなかったり、買収価格に悪影響があったことが明らかになっています1(図2)。
1 2018年マーサー調査、日本を含む54か国、延べ4,000件のM&Aに関与した専門家1,438人の回答(うち人事826、人事以外612)。
https://www.mercer.com/ja-jp/insights/people-strategy/mergers-and-acquisitions/culture-risk-in-m-and-a.html
このように高い確率でカルチャーの問題がM&Aに財務的なインパクトをもたらすのですから、これに対する合理的な帰結は、カルチャーDDの位置づけを大きく引き上げ、これを積極的に実施し、M&Aの意思決定に活かす、ということになるでしょう。
これまでも、M&Aにおいてカルチャーの諸問題が重要である、との考えから、一部の案件でカルチャーDDが実際に行われてきました 2。しかし今日、その重要性の認識が大きく高まった(なので調査の対象となり、無視できない大きな数値であることが確認された)のは、買収後の統合にこれまで以上に神経を使う案件がグローバルに増え、また、人材が生み出す価値の重要性の認識が高まり、いろんな意味で学習が進んだためなのです 3。
2 例えば、「クロスボーダーM&Aの組織・人事マネジメント」(中央経済社、2013年 p46~55)
3 例えば、「 統合(Integration)をきちんと考える」(マーサーコラム“Big Picture“、2019年)
カルチャーDDの位置づけは、売り手にとっても同様に高まります。以前は、買い手から要求があっても全体の中で対応の優先順位を下げていたところが、案件によってはカルチャーDDに積極的に対応し、よりスピーディーに、より高い価格で、より好ましい買い手に買ってもらうほうが得をする、ということになるのです。
もちろん、カルチャーDDは興味本位の紐解きではなく、期間や工数やできることに制約があるDDなのですから、上手なやり方を採用し結果をよく考えて活かすことが必要です。その第一歩は、買収価格を正当化するだけの高い業績をどのように実現するのか、そのためには何をどのように統合するのかしないのか、事業上の要請(Business Imperatives)を大きくぶれないところまで最初に練ることです。
どのような統合でもそれは大変な変革です。カルチャーのSimilarities(類似点)はおそらく拠って立つ共通基盤として活用でき、逆に大きなDifferences(相違点)は、買収後に集中的に取り組む課題および取り組みのアプローチの大きなヒントとなるでしょう。カルチャーDDによって早い段階でこれらの重要なポイントを調査し、機会とリスクを理解しておく意義がここにあります。