海外福利厚生保険分野における国際プーリング制度の展望 

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21 5月 2024

拡大が進む国際プーリング制度とは

国際プーリングをすでに導入している、あるいは検討している、聞いたことがあると言う海外人事関係の方は多いかと思う。

海外に進出する国際企業にとって、ある意味唯一のスキームが確立した海外福利厚生保険分野のコスト削減手法であり、グローバルでは主に7つのプーリングネットワーク(以下、「ネットワーク」)で運用されているプログラムだ。そもそも米国系企業がヨーロッパに進出した際、保険料競争力が高い米国に比べ保険料レートが高い環境だったため、多国間再保険を活用してネットワーク内の現地メンバー保険会社で保険契約を結び、グローバルで連結決算をして国際配当を捻出することで追加のコスト削減を実現するために創出されたサービスとして、ヨーロッパを中心に発展し、アジア、中東、南米に拡大している。ネットワークが関与して提供する主なサービス概要は下表の通りである。

 

図表「Pooling networks services」

 

       
プログラム 国際プーリング グローバル アンダーライティング

キャプティブ

(プーリングネットワークは事務代行などとして関与)

総合型プール 単独プール
リスク保有 プーリングネットワーク 顧客
特徴 プール規模が小さい複数の企業が集まったプールで、プーリングを設立したばかりの企業はこちらの活用となる。損失が発生した場合基本的にネットワークが吸収する。 企業単独のプールで規模により損失が発生した場合次年度以降の黒字で相殺するタイプから毎年損失をネットワークで吸収できるタイプがある。 参加国、保険料などが一定規模以上ある場合、グローバルまたは地域で保険一括引受けを行う事で、過去の給付率などをもとに保険料割引(国際配当事前払い)が複数年保証される。 自社で設立したキャプティブ会社でリスクを保有するスキームで、補償内容などを自由に設定できる。損保商品で活用がスタートし福利厚生関連保険での活用も進んでいる。
コスト削減効果 年間決算が黒字の場合、国際配当が支払われるが配当率は低い。 年間決算が黒字の場合、国際配当が支払われ配当率は総合型より高い。 事前の保険料割引でコスト削減が確保されさらに黒字の場合国際配当が支払われる。 年間決算が黒字の場合、コスト削減が最大化できる。

MercerMarshBenefits(MMB)ジャパン作成

 

表の右側へ進むにつれてコスト削減効果は高くなるが、一方会社としての関与の高さ(ガバナンスの強さ)も比例して高くなる。多くの外資系企業で移行は進んでいるものの、日系企業においては移行が進んでいないのが現状である。

国際プーリング制度の現状と展望

昨今、国際プーリングを導入している企業より「今年も国際配当が支払われない」、「総合型プールにも関わらず国際配当金額が前より減った」といった声をよく聞くようになったが、その背景にあるのは下記のような原因があると推察される。

  • 現地レベルでの保険料競争力の激化(配当余力の減少)
  • 戦略的なグローバルでのポートフォリオ管理の欠如(ネットワークの総合型プールの管理も含む)
  • メンタルなどによる就業障害保険金支払いの増加などの保険金支払いパターンの変化

大手外資系企業を中心にキャプティブに移行する企業は増えているが、依然80%以上の企業は国際プーリングの活用に留まっている。国際プーリングを取り巻く厳しい環境下、日系企業でも“コスト削減”が大命題となっている中、海外福利厚生保険分野においてもメスを入れていかざるを得ない。ここで今後の各サービスに対する現状と今後の展望を、マーサー マーシュ ベネフィッツ グローバルの福利厚生保険ファイナンスチーム、そしていくつかのネットワークの意見を元に下表にまとめた。

 

図表「国際プーリング関連サービスの現状と展望」

プログラム 現状 今後の展望
国際プーリング
  • 受動的な管理により期待以下の結果
  • 7つのネットワークから多くのオプションを選択可能
  • 今後もグローバルソリューションの中心
  • 少数のネットワークへの収束
  • 全方位的アプローチから戦略的な活用への転換
グローバルアンダーライティング
  • ネットワークの収支悪化による取り組み姿勢の消極化
  • キャブティブへの順調な移行
  • 割引・配当などの財政メリットはないが個々の企業向けにテイラーメイドされたレポート・管理体制を提供するハイブリットソリューションの出現と仮想キャプティブとしての活用増加
キャプティブ
  • 規模が大きい国際企業は既に移行済
  • 新規国際企業からの需要増大
  • 現状はコスト削減最大化が主な目的
  • 導入基準の緩和化
  • DEI関連の保険化NGリスクカバー、
    免責調整などへの活用
  • ネットワークの注力増加
※MMBジャパン作成

コスト削減最大化のために

今後、より一層企業の能動的・戦略的な取り組みが求められるが、国際プーリング制度を自社のリソースで対応できる会社は決して多くはなく、この分野での専門家である国際保険ブローカーを活用する企業が増えている点について、留意いただきたい。私たちは、Global Benefit Management(以下、「GBM」)という国際企業をサポートするサービスを提供しているが、このクライアント数の推移は下表の通り2019年を1とすると2023年には1.7倍に増加している。  

 

図表「GBMクライアント数推移」

GBMは、プーリングの活用だけでなく、各国の現地導入保険を可視化し、グローバルの方針に基づき最適なコストで各国の保険手配をすることで、地道ではあるが確実なコスト削減を図れるサービスだ(実際に現状プーリングなどによる効果と比較しても、現地保険の最適化による効果の方が高い企業が多い)。本コラムが、GBMの活用を検討いただくきっかけとなれば幸いである。
著者
高橋 信裕

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