統合(Integration)をきちんと考える 

23 5月 2019

M&Aには、買収後の統合がつきものなのですが、何をどこまで統合するのか、というのは難しい問題です。上手な選択をするには、それなりに慣れる、つまり原理・原則を理解し、実地経験を積むことが必要です。

しかし、最初に例えば図のような選択肢の広がり(Spectrum)を見ておけば、今回のこの案件の場合は具体的にどうするのがよいのか、イメージしたり、議論したりする時にとても助けられます。

実はこの図は、マーサーのM&Aチームで、ずっと以前から、グローバルでクライアントとの最初の討議で使ってきたものです。議論を触発するためのものですから、そんなに作り込んだものではないです。しかし、逆に、その目的に照らすと実によくできていて、眺めているだけで面白い、と思います。

さて、この類の図は当然、左から右に視線を走らせますから、10年ほど前にアメリカ発のこの図を初めて見たときには、「ああ、やっぱりグローバルのM&Aは完全統合(Full Integration)が基本なのだな、完全統合が最初に考えるべきことで、そうでないとするとどんなモデルが合理的に許容されうるか、と考えていくのだな」と、図に込められた暗黙のメッセージを、あたかも日本向けに用意されたものであるかのように、勝手に感じ取ったものです。

ところがつい先日、思いもかけずに再びこの図を目にした時には、どうにも苦笑を禁じ得ませんでした。グローバルのトレーニングチームがやってきて、この図を画面に出したのですが、なんと、いつの間にか左右が見事に逆転していたのです。つまり、統合しないところから考え始めて、どこまで統合できるのか、という構成です。異業種、先端分野で、重要性が高くて強く統合するのにはなじみにくいM&Aをどんどんやるようになった(そして、彼らも経験からいろいろ学んだ)のが、どうもこの背景にありそうです。

「基本は統合せず」だと、日本人や日本企業としては、なぜか直観的に理解できますし、不得手だと思ったら、やらずに済ませてしまってよい気さえしてきます。「なんだ、それだったら最初からちゃんとそう言ってくださいよ、余計な心配しちゃったじゃないですか」という話ですね。

しかしもちろん、ポイントは、日本人や日本企業は統合すべきものを統合したがらず、ざっくりその他の人たちは基本的に真逆で、統合すべきでないものまで統合したがる、というというところにあります。なぜこうなのか説明するのは、正直、難問です。なので今は、「そうなんだから仕方がない」とだけ申し上げておきます。

もうちょっと付け加えると、M&Aの多くは、何らかの強い統合を必要とするものだ、というところが大事です。自社のコア事業かその周辺でM&Aを行う限り、組織は分離・独立状態を維持する場合であっても、一枚岩で経営しないと、とても買収価格を正当化するだけの高い業績に至らない、というのがその中核的な理由です。そうするためには組織・人事の観点から何が必要なのかも、相当明確になってきています。

件の図のタイトルに書いてある「Design Depends on Deal Thesis」とは、組織の姿はディールの目的次第だ、という意味です。ディールの目的から合理的に考えれば、統合のグランドデザインも定まります。組織・人事的には、グランドデザインを受けた最終形の作り込みと現状からの移行、そして移行後の運営が腕の見せ所です。これらすべてを正しく、上手にやり切るかどうかで、業績に大きな差が生まれているのですね。

著者
竹田 年朗

    関連トピック

    関連インサイト