「管理職」とは何者か? 

31 5月 2024

そもそも、「管理職」とは何者なのかーー

この問いに対し、明快な答えを持っている方はいらっしゃるだろうか?

我々コンサルタントがお客様の企業に対し人事制度設計等を支援する中でも、「管理職」として位置付けられ相応の待遇を受ける社員について、一般社員との違いの明確化が必要な局面は少なくない。本稿では、日本の法的要件、一般的に求められる職務内容、ドラッカーやミンツバーグが提唱する学術的な概念などから、「管理職」の定義や役割を整理するための視点を提供したい。

「管理監督者」の法的要件とは?

法的には「管理職」というものは規定されておらず、労働基準法第41条に「管理監督者」の規定既定が存在する。これを要素分解すると下記事項として整理できる。すなわち「管理監督者」とは、自社の経営目標実現に向けてビジネスを牽引し適切に人材管理を行う者であり、出退勤での裁量が認められていることから時間外勤務や休日出勤が発生したとしても労働時間分の手当は支給されないが、一般社員とは一線を画す処遇が適用される対象である。

⚫︎ 責任と権限

  • 業績目標達成と組織力強化に対して責任を負う
  • 業務執行権、予算執行権、人事権が一定以上認められている

⚫︎ 職務内容

  • ビジネスを牽引するリーダーとして、組織や事業の目標設定、業務計画立案、事業運営上の管理を行う
  • 組織/人材マネジメント上のリーダーとして、組織力向上のための施策や人材育成計画等の立案を行い、経営層や人事と連携する

⚫︎ 出退勤

  • 自身の労働時間や休憩/休日の取り方について、一定程度の裁量が認められている
  • 部下に対する勤怠管理上の指揮権限がある

⚫︎ 処遇

  • 基本給や賞与の金額について、非管理職との差が明確である

「管理職」として、一般的に求められる責任・権限や職務内容とは?

実務上は処遇や勤怠管理上の要件も重要な論点だが、比較的判例や先行研究が豊富なため、本稿では議論になりやすい責任・権限や職務内容の在り方について考えていきたい。

ピープルマネジャー(People Manage、以下PM)であれば具体的に管掌組織があり、全社目標と連動した形で当該組織の目標設定を行い、達成に向けて業務そのものや社員のパフォーマンス管理が明示的な責任として求められることなどが要件となる。

これに対し、「管理職」として位置付けられながら専門的な職務を担い、個人貢献者(Individual Contributor、以下IC)として機能する社員は、管掌組織を持たず直接的な部下を持たないが、PMとして機能するライン長とある程度の階層までは同等水準での役割を担う場合があり(経営に近いポジションは明示的な管掌組織を持つPM限定とするケースが多いため)、人事制度設計上も重要論点の一つとなる。

専門領域での価値発揮とはどのようなことだろうか。当該専門性の市場価値や他社優位性、企業価値の源泉となる自社コア技術との関連度合い等が判断要素となり、ICとして機能する管理職社員が遂行する業務の専門性の高さや希少さ、アカデミックな裏付けや対外的な認知度等がそれらを測る尺度としてポイントとなる。

ドラッカーやミンツバーグによる考察を踏まえた「管理職」の役割類型

著名な経営学者も、管理職(マネジメント/マネジャー)を研究テーマとしている。ドラッカーの著書『マネジメント 基本と原則』では、マネジャーに共通する仕事を目標設定・組織化・動機づけとコミュニケーション・評価測定・人材開発として定義している。また、ミンツバーグの著書『マネジャーの仕事』では、マネジャーの活動は対人関係・情報伝達・意思決定に大別できるとし、それぞれの下位項目として10の役割があると指摘している。

これらの内容に、マーサーが定義している管理職上層部に必要なコンピテンシーを加えて整理を試みたものが下記図である。全社目標の実現に向けて自らのチームの方向性や目標を定めること、方向性や目標を裏付ける顧客/市場への見識や高い専門性を持ち社外でも第一人者として認知されていること、目標を達成するために日常業務を全うすること、さらに高い目標を達成するために人材を適切に配置して高いパフォーマンスを引き出し育成すること、の4つで「管理職」の役割を類型化している(主として管理職上位層を念頭に整理)。

 

図. 『管理職』の4つの役割類型

出所:マーサージャパン

◾️ 戦略を立て、実現に導くビジネスリーダー

  • 全社目標に基づき、顧客や市場、競合への分析・洞察を踏まえ、チームの目標を設定する
  • 目標達成に向けた新たなアイデアやアプローチを創出し、具体的な業務計画を立案する

◾️ 市場開拓/対外代表者

  • 顧客や市場への理解と洞察に関する独自の意見や視点を持ち、ステークホルダーからの信頼を得ている
  • 自身の専門的な技術や知見を対外発信し、業界や関連する学術機関から認知・評価されている

◾️ 業務を完遂する責任者

  • 事業推進上のモデルとなって日常業務を推進し、業務運営上のQCDやリスクを適切に管理する
  • 不測の事態に際しては上位者とも連携し、迅速かつ明確な対応方針を示す

◾️ 組織強化を担うピープルリーダー

  • 会社のミッションやビジョンを現場に浸透させ、あるべき組織文化を醸成する
  • 組織力強化の観点に基づいて部下の能力開発計画を定め、必要な成長機会やサポートを与える

 

これらの内、1つの類型のみを担うのではなく、PM・IC共に、役割や状況によって複数の類型を担当していく。例えばPM上位層であるほど、「業務」よりも「戦略」「対外代表」や「組織・人材育成」のウェイトは高まり、IC上位層であれば「対外代表者」として顧客や市場が注目する技術や知見を対外発信し、「ビジネスリーダー」として基礎研究や概念を中長期的スパンで事業化するための責任が増す。

またPM・IC共に、上位層ほど自社は社会に対してどのように貢献するべきか、社会問題の解決にどう役立つのか、自社の存在価値は何か、ということへの説明責任が増加する。利益は企業の目的ではなく条件(妥当性の判定基準)であるとドラッカーが言及した通り、「管理職」には、営利追求という条件を満たしつつ、いかに組織のミッション・ビジョンを実現していくか、その実現に向けて社内を鼓舞し、社会的・経済的価値の実現に向けてリードしていくか、が期待されている。

自社への適用に向けて

「管理職」をどのように区分し、各階層でどのような役割を求めるのかは、産業特性や個社の戦略、及び組織・人材マネジメント方針によっても変わるべきだが、管理監督者としての法的要件に忠実になりすぎて、特にIC系の役割については、実務上、位置づけの整理に苦労するケースは少なくない。

本稿で提起した4類型は一例に過ぎないが、このように「管理職」の役割を類型的に整理すると、PM/ICの区分や階層などに応じた様々な組み合わせに対応することができる。今後の「管理職」の定義や役割について考えていく上で、一つの材料・視点としていただければ幸いである。

著者
斉藤 佐喜子

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