ジョブ型雇用
ジョブ型人材マネジメント
ジョブ型雇用
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、「担うべきジョブを会社と個人が合意し、個人はそれを遂行し、会社はそれに見合った報酬を提供する雇用関係」である。
会社は、経営や事業の必要性に応じて必要なジョブを規定し、そのジョブに適切な人材を起用する。
個人は、希望するジョブに就くために、スキルアップやリスキルをしながらキャリアを自律的に形成する。会社と個人は原則として対等な関係、すなわちお互いに選び・選ばれる関係として向き合うことになる。
人事制度、人材フロー、人事運営までのシステムが有機的に連動することで機能するエコシステムとなっている。
<連続性のあるエコシステム>
メンバーシップ型 | ジョブ型 | |
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基本的な考え方 | 会社主導のキャリア形成+キャリア保証 会社と従業員は、保護者・被保護者 |
個人主導のキャリア形成+取引関係 会社と従業員は、対等な取引関係 |
人事制度 | 「人」を起点とした人事体系
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「ビジネス」を起点とした人事体系
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人事フロー | 会社主導のキャリア形成
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個人同意を原則としたキャリア形成
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人事運営 | 年齢・年次構成を基礎とした長期的運営
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事業計画に基づく短・中・長期的運営
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ジョブ型とメンバーシップ型の違い
ジョブ型は、はじめに、戦略があり、戦略実現に必要な組織・ジョブを決め、ジョブに最適な人やアサインを行う仕組み。ビジネス・戦略実現に責任を負う事業が主体で人事管理を行う。
メンバーシップ型は、はじめに、長期的観点で育成してきたヒトがあり、そのヒトを活用して、組織が対処すべき仕事を割り振る仕組み。内部公平性の観点から、人事が集権的に人事管理を行う。メンバーシップ型もその初期の段階では、戦略に基づき仕組みが形成されたが、長い歴史を経た現在、実際上はヒト起点で戦略や仕組みが構築されることが多い。
日本の人材マネジメントのジョブ型への歴史
高度経済成長期において、恒常的な人手不足の中、企業は安定した労働力を確保することが求められていた。企業はその労働力を豊富な若年労働者に求め、大企業を中心に、年功序列+長期雇用という制度の中で効果的に活用していた。その後、オイルショックを経て職能主義、バブル崩壊を経て成果主義という要素を高めた。
しかし、多くの日本企業では、同時期に確立された既得権にしばられ、その制約条件下で可能な範囲でビジネスニーズに応えるという対応が主流となっていった。
現在、ジョブ型に対する志向性が高まっている背景としては、ビジネス環境の変化がますます激しくなっている中、制約条件を抱えたままの対応では限界が来ているということがある。
「人材マネジメントは、あくまでもビジネス目標達成のためにある」という本来の目的をより追求していく中で、ジョブ型への注目が増している。
ジョブ型雇用のメリット
会社にとってのメリット
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ビジネス起点で、新しいテーマに取り組む際にベストメンバーを組みやすい会社として新しいテーマに取り組むにあたり、自社の制約条件に必ずしもとらわれず、必要な人材でチームを組むことができ、生産性を追求しやすい
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所属している人員構成に、組織運営が左右されにくくなる会社に所属している人材の属性(年齢、過去の経験等)に大きく左右されることなく、その時の会社への貢献度に基づく配置や処遇を実現することができる
個人にとってのメリット
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会社の都合ではなく、自らのキャリアを自ら選べる自身の専門性・スキルを高めていくための仕事を自律的に選択することができる
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自身の処遇を自律的に高める機会が持てる自身の処遇を自律的に高める機会が持てる
ジョブ型雇用のデメリット
会社にとってのデメリット
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会社都合の任用・異動・配置がやりづらい会社固有のスキルやノウハウを身につけさせるための任用や異動・配置を会社だけの都合で実施することがやりにくくなる
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人材調達機能をレベルアップする必要がある人材の確保・調達において、必要な時に適切な人材を確保するための仕組みの構築が必要になる。特に入社・引留め・退社において、従来よりも緻密な対応が必要になる
個人にとってのデメリット
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自己への投資を主体的に行う必要がある会社固有のスキルやノウハウ以外の特定のスキルについて、自ら自己研鑽を積極的に行うことが求められる
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仕事がなくなるリスクがある専門スキルを活かした仕事がなくなったり、価値が低下することがある
ジョブ型雇用成功のポイント
メンバーシップ型 | ジョブ型 | |
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意識の改革 | 会社に帰属する「人」を活かす | 事業に必要な「人」を求め、活かす |
マネージャー | 人事権は一部に集約された制約条件 与えられた人材という制約条件の中で目標達成への工夫をする |
必要な人事権を自ら持ち、責任を果たす 最適なフォーメーションに必要な人材を揃えることに従来以上の権利を持ち、同時に、目標達成への責任・義務を負う |
個人 | 会社の求めに最大限応える 会社から求められる仕事に真摯に取り組む会社固有のスキルを身に付けることも重視する |
自らの将来ビジョンの中で自らを磨く 自らが自らの知識・スキルをどのように磨き、会社、ひいては社会に貢献し続けるのかを自律的に考え自らを磨くことで、価値を高めていく |
人事 | 社内公平性の守護者 自社の固有事情、制度、法制に詳しいルールの管理・執行者 |
「人材」課題の解決者 現場の事業戦略・組織戦略・人材戦略の理解者であり、課題解決に不可欠なパートナー |
ジョブ型人材マネジメント
ジョブ型人事における職務記述の意義
ジョブ型人事を実現する上で、職務記述書(Job Description:JD)の整備は有効な手段の一つではあるが、その必要性の度合いはケースバイケースである。
JDは、事業戦略・組織戦略と人材マネジメントの主要なコンポーネントを結節するための「ツール」であり、その機能を果たすことが重要である。その文脈の中で、JDを詳細化・明確化することが有効な場合もあれば、他の施策を優先すべき場合もある。例えばJDの整備以外にも、職種別定義書の整備などによっても、その目的を達成できる場合もある。
ジョブ型人事における役割評価の意義
ジョブ型人事を、要員計画、人材マネジメント、人事運用へと結び付けていくためには、各々のジョブの重要度を「位置付ける」ことが必要となる。その際に有効なソリューションは、役割評価である。
役割評価を行うことで、外部労働市場水準と比較をするための基盤を得られる。その意義は、それにとどまらず、組織戦略に合わせたジョブの位置づけの確認をすることで、体系として機能させるための前提を事業と人事で共有するための基盤ともなる。
ジョブ型人事における評価・報酬
ジョブ型雇用における処遇は、会社と従業員は原則として対等な関係、すなわち、お互いに選び・選ばれる関係になるという考えに立脚するため、会社は個人との間でジョブについて合意をした上で、そのジョブに見合った報酬を支払うこととなる。
ジョブに見合った報酬は、組織戦略、外部市場、社内リソース配分という、人と切り離された要素によって決定されていく。
そのため、ジョブ型雇用における人事、人材マネジメントにおいては、メンバーシップ型の仕組みと比べて、構成員間の公平性といった観点よりも、「ヒトの成長」に焦点を当てた施策に集中することができる。
ジョブ型時代の人材・要員マネジメント
「人材マネジメントは、あくまでもビジネス目標達成のためにある」という本来の目的をより追求していくためには、新卒採用・終身雇用に基づく「ヒト」のみの理屈による要員計画については、その意義を問い直さなくてはならない。
企業が事業戦略を実現し、持続的に成長するためには、人材の質と量を把握し(要員管理・ワークフォースプラン)、ジョブを遂行できる人材を採用しつつ(通年採用・職種別採用)、十分にジョブの要件を満たせない場合には社内外を問わず新たなジョブへの挑戦を支援することが求められる。
人の施策と事業の現実の間にある「時間」というギャップを適切に埋める体系的な計画と施策の実行が、ジョブ型人事における要諦となる。
ジョブ型時代のタレントマネジメント
ジョブ型雇用では、キャリア開発においても、会社と個人は選び・選ばれる関係となる。
会社は、個人に対して、将来にわたる、キャリア開発に関する情報を広く共有する必要がある。また、個人の自律性を最大限に考慮した対応(FA制、公募制等)も重要となる。個人は、そうした情報へのアクセスとキャリアの自律性を得る代わりに、自らを磨く義務を負うという従来とは異なる緊張関係を持つことになる。
一方、会社は、個人を尊重しつつも、会社の競争優位につながる技能・ノウハウの蓄積、将来を委ねるに足る人材を育てることという中・長期的な施策が同時に必要となる。そのためには、ジェネラルマネジャーなどを確保するためのタレントマネジメントの仕掛けを持つことが必要となる。
ジョブ型時代のエンゲージメント
ジョブ型雇用においては、会社と個人は選び・選ばれる関係となることから、社員のエンゲージメントを高め、優秀人材に選ばれる組織となっていくことがより重要になる。そのためには、ジョブを通じた契約においても、処遇(契約面)、キャリア・生活の質(経験面)、目的意識(感情面)について、社員への訴求価値を総合的に設計することが有効である。
特に、目的意識の訴求価値は、終身雇用を前提とした組織での帰属意識・仲間意識のような形で形成することが困難となるため、ミッション、ビジョン、バリュー等を適切に訴求し、その浸透に継続的に取り組むことが必要となる。