グローバル視点で考えるHRコスト削減・最適化と成長施策(第2回) RespondからReturnへ:HRコストの最適化 

17 8月 2020

3つのRにおける施策

感染拡大期における対応(Respond)のタイミングから、経済活動を再開する(Return)タイミングにかけては、即効性のある施策を打つことが重要だ。図1はRespond/Return/Reinventのそれぞれのタイミングで、講じるべき各種人事施策の例をまとめたものである。

施策については、要員、報酬、福利厚生、人事機能コストの4つのカテゴリーに分けている。人事コストを検討する際には、「要員数」×「一人当たりの人件費総額(報酬・福利厚生)」×人事オペレーションコストの3つの要素に分けて検討することが求められる。RespondからReturnのタイミングでは、キャッシュを確保するためにも短期的に効果の出る施策を講じる必要がある。採用の停止という比較的実施しやすい施策もあれば、昇給・インセンティブ・賞与の支給停止や削減等の実施が難しい施策もある。

図1:

*補足(図1の施策)

Respond

  • 要員:採用停止、ギグワーカー・契約社員の削減、外部出向・要員のシェアリング、有給休暇取得の推奨
  • 報酬:昇給の削減・停止、一時的なベースサラリーのカット、昨年分のインセンティブの支給削減・停止、自由裁量の一時金支給の削減
  • 福利厚生:DCプランのマッチング拠出の削減、退職プランへの拠出金の削減


Return

  • 要員:無給休暇・強制的な休暇・短時間勤務
  • 報酬:本年分のインセンティブの支給削減・停止、退職一時金の減額
  • 福利厚生:アウトソーシングに対する投資の管理、被保険者の削減、従業員とのコスト負担の変更、社用車および手当ポリシーの再評価
  • 人事機能コスト:ベンダーの統一/マネジメント、人事プロセスの最適化


Reinvent

  • 要員:整理解雇、早期退職、拠点の閉鎖・分離、自主退職
  • 報酬:恒久的な降給、恒久的なLTIPの変更
  • 福利厚生:福利厚生水準の削減、年金のリスク低減、国際プーリング・ブローカーの統一
  • 人事機能コスト:HRサービスモデルの調整、HRデジタルトランスフォーメーション

HRコストの可視化

いずれの施策を行う上でも、まず重要なことは、グローバルレベルでHRコストを可視化することだ(図2参照)。要員数や全体の人件費の総額の把握・可視化は当然のことながら、各国別の職種別人員数、階層別人員数、それぞれの人件費の内訳を把握することが重要だ。人件費といっても、キャッシュの報酬だけでなく、福利厚生・医療保険・退職金等のベネフィットや、社会保険のように各国で定められている法定福利厚生費用の金額を把握することが望ましい。要員数や人件費の把握ができていないままに施策を検討することは困難であるばかりか、誤った施策を講じてしまい、コスト削減効果が限定的に終わってしまうだけでなく、人材の離職・流出にもつながりかねない。コスト削減の目標を定めるためにも、対象となる要員・人件費の可視化が何よりも重要だ。

図2:

前提条件・リスク等の把握


次に、施策を講じる上での前提条件・規制・制約を把握することだ(図3参照)。法令・規制は当然押さえるとして、組合・労使協議会との合意事項、更には、経営陣との雇用契約で定められた事項を押さえることも重要だ。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各国が様々な規制や助成金制度を設けているため、最新情報を入手する必要がある。また、他社動向や社員の意識・状態を適切に把握することも欠かせない。レピュテーションリスクにも十分に配慮する必要がある。

図3:

HRコスト最適化のアプローチ

上記を押さえた上で、具体的な施策を検討することになる(図4参照)。事業戦略・方向性と共に、具体的なタイムライン、目標とするコスト削減額等を定め、場合によっては要員削減あるいは事業再編(事業の統廃合、事業売却、経営統合を含む)を検討することになる。
その上で、具体的な施策の検討に移る。その際に重要なことは、できるだけ多くの施策のオプションを洗い出し、それぞれの施策を実施した際の効果、メリット、デメリットを検討することだ。

図4:

とりわけ、要員削減や事業再編等の大きな施策を講じる場合、最終的な施策(解雇や事業売却)を講じるまでに一定の時間がかかってしまう。その前に、実施できる施策を多面的かつスピーディーに実施することが肝要だ。また、これらの施策は社員を含めた「ひと」を相手とするため、キーパーソンの巻き込み、チェンジマネジメントやコミュニケーション戦略を入念に準備することも忘れてはならない。実施段階になっては、モニタリングが重要だ。当初の目標値に対して進捗を確認しつつ、軌道修正や追加施策を講じることも必要になる。また、会社・社員にとってインパクトの大きい施策を講じる場合は、残った社員の意見、声に耳を傾け、適切な対応を講じることも大切だ。

HRコストの最適化の施策において、要員・人事コストの可視化や、海外法人の経営陣の雇用条件や労使で定めた合意事項等の把握は不可欠である。当たり前のことだと思われるだろうが、果たして、皆さんの企業では上記はできているだろうか。ReturnからReinventへ、持続的な成長を続けるためには、HRコストの最適化は必須であり、グローバルレベルでの人事の可視化はそのための第一歩となる。

著者
鈴木 康司

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