経営トップが主導する組織開発
経営アジェンダとしての組織開発 第2回
※本記事は、日本CHRO協会発行CHRO FORUMのために書き下ろされた記事の再掲載です
経営戦略実現のドライバーとしての組織開発
人的資本経営においては、人を通じた知恵の創出が企業競争力の源泉であり、人材と組織の両輪が効果的に回り続け、同時に担保されなくてはならない。そのためには企業価値創出に貢献するタレントを確保し、最大の効果を得られるよう配置・育成、動機付けすることが重要だ。並行して、個人の力を超えた組織力(Organizational Capabilities)やカルチャー、これらを生み出す土壌としての組織運営のあり方(Ways of Working)についても、企業の競争力の源泉としてより自覚的に取り扱わなくてはならない。
組織開発(Organization Development)は、「組織の健全さ(Health)、効果性(Effectiveness)、自己革新力(Self-Renewing Capabilities)を高めるための一連の計画的で協働的な取り組み」と定義される。組織の力が企業の競争力の源泉であるとすると、組織開発は経営トップ自らがCHROの力を借りてコミットすべき、最も重要な経営アジェンダとなる。
経営が組織開発を通じて取り込むべき三点
経営トップがCHROと共に組織開発を通じて実践すべきことは、大きく三つに分類できる。
一つ目が組織変革・新たな組織能力の獲得に向けた取り組みである。具体例として、カルチャートランスフォーメーション、デジタルトランスフォーメーション、Diversity, Equity and Inclusion(DEI)、ジョブ型人事システムへの転換などが挙げられる。
二つ目はチェンジマネジメントである。一貫した変革の実現を推し進めるための現在地の把握、ストーリーの構築、落とし込み・共創の仕組みづくり、コミュニケーション等の取り組みを指す。
そして三つ目がチーミングである。チーミングとは、不確実性をはらむ環境で、多様なメンバーから構成されるチームが学習・協働を通じてどのように目的を達成するかを指す。心理的安全性は効果的なチーミングにおける大前提である*。
上記三分類のうち、一つ目と二つ目は大規模かつ全社的な取り組みであり、こうした取り組みの成否を左右するのが三つ目にある、実際に仕事を成し遂げるためのチーミングと整理できる。
経営チームに対する組織開発の意味
経営トップ自身がそのリーダーであり、一員でもある経営チームのチーミングの意味合いは大きい。
経営チームにおいては、当然のことながら定例の会議や戦略ミーティング等を通じて戦略や戦術について検討されている。では、そうした戦略立案を担う「経営チーム」自体の効果性や健全性、自己革新力はどうだろうか?経営チームの現在地、ありたい姿、そのギャップに関する議論をはじめ、「経営チーム」という組織が最高のパフォーマンスが発揮できるように、どれだけの意図的な開発がなされているだろう?
経営チームは、組織の変革をリードし、ロールモデルとして組織へ伝播させていく役割を担う。経営チームのチーミングは、経営トップとCHROが明確な意図をもって担うべきである。
まずは経営チームのチーミングから
経営チームのチーミングは、経営戦略に照らして求められる要件を定義し、最適なメンバーから構成されたチームを組成することから始まる。そのメンバーはスキルや能力面のみならず、価値観にも多様であることが一般的だ。そのため、チームとしての効果的な相互作用、協働の基盤を作り出さなくてはならない。
経営チームとしての基盤をつくるべきは、パーパス(目的)、具体的な目標、役割、チームとしての働き方、関係性である。いずれも経営チームとしては一見自明のことに思える。特にメンバーシップ型のもと、長い時間を共にして一定の経験や価値観を共有している日本企業にとっては、あえてここに時間と労力を割く合理性が感じられないかもしれない。
一方、メンバーシップ型雇用では、経営陣の同質化、モノカルチャー化が進み、経営チームにおけるグループシンクやアンコンシャルバイアスのリスクをはらむ。そうした場合は、改めてエンゲージメントサーベイや360度評価、経営チームの直属の部下に対するフォーカスグループなどを通じて、データから「経営チームが社員の目にどう映っているか」を把握いただきたい。サーベイ結果や社員の声は、見えていない部分を映し出す鏡である。社員の認識を通すと、経営チームの効果性が高くないことが往々にして見られる。
組織には唯一無二の「現実」はない。組織の構成員が認識しているものが現実となる。経営チームは人々の思考や行動に影響を与える「現実」を理解し、自らの認識との間に橋をかける努力が求められるだろう。
チーミングの進め方
効果的なチーミングに向けては、日ごろの経営の議論とは明らかに異なる姿勢で臨まなくてはならない。オフサイトのような形で物理的に日々の仕事の場所から離れることも検討すべきだ。
経営としての日々の意思決定の現場から距離を置き、改めて会社のパーパス(目的)と自らのパーパスを問う。そして互いのパーパスを共有し、経営チームとしてのパーパスの意味を再認識する。経営としての常ではあるが、社内外から相反する要請があるような場合に、チームとしてどのように優先づけするのか、それらに立ち向かう上でのチームとしてのありたい姿、協働体制等の姿を問い直す。
難しい状況に置かれた時に、チームとしてどのように解決を図るかのプロトコルの設定も極めて有意だろう。互いを知り、チームとしてのありたい姿を定義し、実践とフィードバックを通じた学び合いから、健全で効果性の高い経営チームへの道を歩めるのだ。