グローバル化する投資家 

18 11月 2021

投資家による企業選別は、確実にグローバル化が進行している。資本市場が整備され、外国人が自国と同じように株式を売買できるとなれば、投資家にとって、どこに上場しているかは問題ではないからだ。企業活動もグローバル化できるとなればなおさらだ。企業はより有利な市場を求めて進出し、より有利な地域に生産拠点を移すことができる。投資家は国境をまたいで企業を比較し、眼鏡にかなうものに投資する。企業はそうしたグローバル投資家の要求に応えなければならないのだ。

マーサーの資産運用コンサルティング部門では、実際に企業選別を行う株式ファンド・マネジャーの投資行動や実績を取材等により収集し、企業年金等のアセットオーナーの資産運用を支援している。本稿では、資産運用の現場から、投資家のグローバル化という視点で見えてくることを、何点か記してみたい。

集中投資が進むグローバル株式運用

資産運用業界全体としては、インデックス運用への傾斜が進んでいる。これは、東証株価指数などルールに基づいて算出される指数への追随を目指す運用で、ファンド・マネジャーによる積極的な選別は行われない。アナリストの行う企業調査やファンド・マネジャーによる選別に運用報酬を支払っても、結果としてインデックス運用を継続的に上回る実績を残すことができていない、という認識の広がりが、アセットオーナーを消極的にインデックス運用に向かわせているのだろう。

しかしその対極にある傾向として、集中投資化が進んでいることも見逃せない。かつてはアクティブ運用といえば、200銘柄以上に分散投資する戦略も多く、400~500銘柄に薄く広く投資する「エンハンスト・インデックス運用」が成果を上げていた時期もあったが、グローバル金融危機を境に、「本当に良い企業だけを厳選して持つ」運用戦略が広がっていると感じる。例えば、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで世界の株式市場は大きく動揺したが、この期間でも優れた実績を上げたグローバル株式運用戦略のほとんどが、保有銘柄数50以下の集中投資型だった。これらの戦略は下落局面で耐性を示しただけでなくそれ以前から成績は良好で、また市場が反転すると、インデックス以上の目覚ましい回復を見せたものが多い。

こうした運用戦略が厳選保有している「本当に良い企業」とは、何があっても安心できる大企業、のことではない。来るべき社会変革と望ましい未来を見据えた時にその実現に欠かせない企業や、新しい未来像を提示しそれを実行に移すことのできる企業を、指数に採用されている・いないに関わらず、ファンド・マネジャーはそれぞれの視点で探している。そして少数厳選の方が、投資先企業との「建設的な対話」にも力が入る。アセットオーナーもこうした戦略を受け入れるようになった。保有銘柄を分散しすぎるアクティブ運用はインデックス運用に替える一方で、集中投資型に期待を寄せることでメリハリをつけているのだ。

指数に採用されることも重要だが、何よりグローバル投資家の心を動かす魅力に磨きをかける努力を、企業には期待したい。

情報開示の意味

グローバル投資家が企業を選別する上で、拠り所となるのが開示情報だ。開示情報が、企業の現在の状態をありのままに正しく表していることが投資家にとっての大前提であり、会計基準の改定や共通化もそのために行われてきたといえる。

開示情報の透明性が重要なのは、株価に全てを織り込ませる必要があるためだ。企業利益の将来見込みに下方修正を迫るような材料が発生した時、あるいは、その不確実性が高まった時には株価は下落するだろうが、逆に、良い材料も悪い材料も全て織り込まれた状態で、新たな材料が発生しない限り、株価は、配当の権利確定日に向けて毎日上昇しても不思議はない。では、1990年代に日本の株式市場が長期にわたり継続的に下落したのは、日々新しい悪材料が出ていたためかというと、そうではなく、大きな悪を隠しながら小出しに市場に伝えていたためではないかとも思われる。

例えば上場株式ではないが、米国不動産ファンドは、2020年の新型コロナウイルス感染症対策による行動制限を受けて保有不動産価値の再評価を余儀なくされた。価格評価は四半期ごとに行われるが、2020年6月期に再評価に伴う2%程度の損失を出して以降、9月期、12月期はおおむね巡航速度に回帰している。必ずしも上方修正があったわけではなく、不動産の稼働状況やその見込みが6月の再評価時点から大きく変わらなかった、すなわち、6月時点で全て織り込み済みだったからと考えるのが妥当だろう。

認識済みの膿は一度に出し切らなくては、投資家は疑心暗鬼になり手を出しにくい。会計基準の改定等により、「いずれ良くなった時に処理する」ことは難しくなったが、企業は、さらに積極的な情報開示を心掛けられたい。

企業年金運用のグローバル化への道

企業年金の株式投資は伝統的に「国内株式」と「外国株式」に区分されることが多かったが、株式自体への投資が縮小していることもあり、これらを統合して「グローバル株式」や、単純に「株式」として管理する顧客も増えてきた。それが直ちに企業選別のグローバル化を意味するわけではないが、少なくとも日本企業と外国企業はそれぞれの土俵で戦わせなければならないという心理的制約から解放されつつある。

むしろ遅いぐらいに思われるかもしれない。企業選別のグローバル化が進まない要因としては、国内企業の方が投資先としてイメージしやすくファンド・マネジャーに対する牽制が利きやすい、為替リスクを負わないなど、「ホーム・アセット・バイアス」も指摘できるが、運用戦略を提供する運用会社側の態勢も一因だろう。「国内株式」と「外国株式」を区分しているアセットオーナーが大勢である限り、運用会社も「グローバル株式」運用を開発・提供、あるいは紹介する動機がない。そして、企業年金側にも、既に取引のある運用会社の品揃えから運用商品を選択する傾向があることから、ますますグローバル株式運用にたどり着かないのだ。

株式投資管理の内外統合がさらに広がれば、運用会社の姿勢も変わってくることが期待される。また、数年前に、100億円以上の積立資産を擁する企業年金への資産運用委員会の設置が義務化されたことで、「既に取引のある運用会社の品揃え」に商品選択を限定する必要はないのではないか、という議論が生まれてくることにも期待している。

著者
今井 俊夫
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