解雇・失業率・雇用の流動性 -海外との比較を通じた考察-
23 7月 2024
解雇規制の国際比較
図表1. 国別解雇規制の強さ(個人に対して)
出所:OECD(Global Note:解雇規制の強さ(正規雇用・個別解雇)2019)
濃紺:欧州(解雇規制 強め)
水色:欧州(解雇規制 中程度〜弱め)
緑:アジア(解雇規制 中程度〜弱め)
ピンク:北米(解雇規制 弱め)
すなわち、OECDの評価に基づくと、解雇規制は、イギリス、デンマークなどの例外を除けば欧州で厳しく、北米では緩やかであり、日本、韓国などのアジア諸国ではその中間からやや緩やかであることが分かる。
解雇規制と失業率の関係
図表2. 国別失業率
出所:ILO(Global Note:失業率(ILO統計)2022)
濃紺:欧州(解雇規制 強め)
水色:欧州(解雇規制 中程度〜弱め)
緑:アジア(解雇規制 中程度〜弱め)
ピンク:北米(解雇規制 弱め)
国別失業率を確認すると、解雇規制が強めの欧州勢が上位を占める。解雇規制が中程度から弱めの欧州の例外国や解雇規制が弱い北米は、失業率だと中位である。解雇の規制が中程度のアジアの2ヵ国の失業率は低く、日本の失業率は最も低い。失業率は経済の状況や社会の構造にも大きく左右されるため一概には言えないが、解雇規制が厳しいからと言って、必ずしも失業率が下がるわけではなさそうだ。
また、解雇規制は、もともとは雇用を保障し失業率を低く抑えるために行なっている施策だと思われるが、解雇規制が強い国でも失業率は高まることがあり、逆に解雇規制が弱い国でも失業率は低位で安定しているケースもある。そもそも労働者保護のために解雇規制にこだわる必要は薄いのかもしれない。
解雇規制と雇用流動性の関係
図表3. 国別労働流動性
出所:データブック国際労働比較2023 第3-13-1表 勤続年数別雇用者割合
濃紺:欧州(解雇規制 強め)
水色:欧州(解雇規制 中程度〜弱め)
緑:アジア(解雇規制 中程度〜弱め)
ピンク:北米(解雇規制 弱め)
一方、解雇規制が緩やかな北米の流動性は高い。会社が雇用を保障しておらず、自分のキャリアは自分で考える習慣が強いためキャリア自律が進み、転職が盛んな可能性がありそうだ。欧州に関しては、解雇規制が強めの国も弱めの国も存在するが、いずれのケースも流動性は上位から下位まで分布している。
全体を通してみると、解雇規制が緩やかな場合、つまり北米において、それを要因として人材の流動性が高くなっている可能性はある一方で、全体として解雇規制の強度と流動性に強い関係はないようにも見える。
おわりに
ここで、日本に関する情報を再整理し、考察を行いたい。
まず、日本の解雇規制は各国と比較すると緩やかであり、アウトフローが難しい国には当たらない。しかし、個人視点でも会社視点でも「アウトフローはタブーである」という感覚が強く、必要な退職勧奨が進まない。これは、明文化されていない雇用慣行が影響しているのではないだろうか。具体的には、長らく続いたメンバーシップ型雇用では、会社が個人のキャリア(人事異動)を決定しており、「会社都合でキャリア形成をしているのだから定年まで雇用を保障すべきだ」という心理が働きやすいためである。
日本は退職率、流動性ともに各国比較で最低レベルにある。これもメンバーシップ型雇用の影響を受けていると考えられる。雇用保障が重視されるため、失業率が上がりにくく、個人がキャリア選択をしないため他の機会を探索することが少なくなり、その結果、流動性も低い。この流動性の低さは、さまざまな問題を引き起こしている。例えば、日本の給与が低水準である一因にもなっている。世界的に見て、職を変えた個人は職を変えない個人と比較すると給与が上がる傾向にある。つまり、雇用の流動化は給与水準を向上させるが、日本では流動性が低いため、労働者の給与が上がりにくいのだ。
また、流動性の高さは企業にとって新しい組織能力の確保の手段となるが、それが行われにくいため、成長に必要な人材の確保が難しい。個人にとっては、低い流動性はキャリア形成の自由度やリスキリング・アップスキリングに対してネガティブに働く。低い人材流動性は、企業にとって新しい組織能力の確保を妨げ、個人にとってはキャリア自律やリスキリング・アップスキリングの機会の喪失につながり、昇給も抑制してしまう。
これらの状況を考えると、「雇用保障はすべき」という心理的な楔から自由になり、会社としてもアウトフローの流れを作り、同時に個人がキャリア選択する機会を大幅に増やすことで、労働流動性を高める必要があるのではないだろうか。