クロスボーダーM&A
26 2月 2019
日本企業は今、組織・人事面で二つの転換期にある。「少子高齢化」「デジタル化」「グローバル化」の三つの事業環境の破壊的変化(Disruption)に見舞われる中で、一つはグローバル競争に打ち勝つために事業と組織の構造改革を痛みも伴う形で本格的に決めて動かす時期にあること、もう一つは、グローバル競争において足かせとなっている日本型の人材マネジメントを根本から考え直す時にきていることである。
2018年の日本のM&Aのマーケットを概観すると、2017年に引き続き日本企業の事業見直しに伴う事業・子会社の売却の増加が見られる。また、少子高齢化で人口減が加速、大型の事業再編が進まずに国内市場が飽和する中で、グローバル化を本格的に進める日本企業の海外企業買収・投資が増えている。さらに、デジタル化の加速に伴い、IoT/AIなどデジタル技術・人材の獲得を目指したベンチャーへの投資も増加傾向にあることが分かる。
2018年に日本企業が関わったM&A件数は、前年比26.2%増の3,850件と過去最多となり、買収・投資金額も前年の2.2倍の計29兆8,802億円と、19年ぶりに過去最高を記録した。日本企業の事業・子会社売却では、TモバイルUSによるソフトバンクグループの米スプリント・コーポレーションの統合をはじめ外資への大型の売却案件が複数発生し、また投資会社(ファンド)によるM&Aも最多だった2017年を件数で25.4%上回り増加している。日本企業の海外企業投資・買収(Outbound M&A、"IN-OUT"のM&A)は、件数で前年比15.6%増加、投資・買収金額は2.5倍となっている。日本企業同士の投資・買収("IN-IN"案件)も件数で最多だった2017年を29.1%上回っているが、ベンチャー企業へのM&A件数やオーナーや社長等が一定規模の株式を売却する事業承継案件が前年比増加する一方で、大型の業界再編は低調であった(出所:MARR 2019年2月号)。
マーサーでは、前述の未曽有の二つの転換期を迎えている日本企業のグローバル化支援に今まで以上に力を入れ、オーガニックグロースに加え、投資・買収、売却、再編を含む、日本企業の全ライフサイクルにおける変革を、中長期でご支援している。
売却においても買収においても特に難度の上がりやすいクロスボーダーM&Aにおいては、買収・投資においては退職金・年金、福利厚生(ベネフィット)等の人事関連債務、経営者・幹部やキー人材・コア人材のリテンションやオンボーディング、昨今PMIの成功のみならずM&Aの成否にも影響を及ぼしていることがマーサーの調査(『2018年 M&Aの価値を高めるためのカルチャーリスク対策』レポート)においても明らかとなっている企業/組織文化・カルチャー(Culture)やコミュニケーション等に焦点を当てる。特に年金、ベネフィット、保険を含む組織・人事関連機能・プログラム・システムの切り離しや新設、人材の移管が発生するカーブアウト型案件においては事前の整理と抜けもれのない周到な細部までの落とし込みが鍵となる。
売却においては、売り物にならない程業績が悪化する前に決断し、事前に事業構造改革や組織・要員の適正化、DB(確定給付型年金)制度のデ・リスキング(De-risking)による財務リスクの圧縮、保険制度の統合によるベネフィットコストの削減をしたり、買い手に指摘される前に売却対象会社のリスクを把握し必要な手当をしたりする等の事前準備を行い、高く、早く、従業員にとって不利益にならない形で売却プロセスを売り手優位な形で進めることを目指す。
その後のPMIやグループ会社の再編・ガバナンス強化においては、経営者・幹部のコントロール(任免、評価、報酬決定の人事三権の強化)を含むグローバル人事プラットフォームの整備をどの水準で、どの事業・地域で、どの優先度で行うかのロードマップを早めに描くことが重要となる。この点は、特に海外拠点の人材獲得・活用において、既存の日本型人材マネジメントとどう切り離すか、あるいはそれを変えていくかが喫緊の課題である。今後それぞれにつき、ご紹介していきたい。