ココナラにおける『総報酬サーベイ』の活用法を探る 

上場企業として透明性を持った報酬制度を構築する

マーサージャパンが提供する『総報酬サーベイ』は、業界ごと・ジョブごと・等級ごとといった多様な切り口で、市場の報酬と自社の現状とを比較検証できるデータベース。この『総報酬サーベイ』を積極活用し、報酬制度改定に反映させているのが、個人の知識・スキル・経験を売り買いする国内最大級のスキルマーケット「ココナラ」を中心としたウェブサービスの提供を行う株式会社ココナラだ。

今回は株式会社ココナラ 人事戦略部の坂本 成正氏と、マーサージャパンの増渕 匡平氏、太田 早紀氏による対談を実施。ココナラが新たな報酬制度に込めた思いや、『総報酬サーベイ』の利用を通じて得た知見などについてお伝えする。(以下敬称略)

※HRプロ転載記事

坂本 成正氏

株式会社ココナラ
人事戦略部 ピープル&コミュニケーショングループ マネージャー

大手CATV系通信会社で、カスタマーサービスの現場経験から統括組織におけるマネジメント、人事系のプロジェクトマネージャーを歴任。2018年からフリマアプリを提供するメルカリへ入社。3拠点600名を超えるカスタマーサービス部門においてHR全般のマネジメントを担う。2020年1月よりココナラへ。現在は「ビジョン・ミッションを実現するための人事ポリシー」に連動して、人事企画、労務・総務領域を横断で手がける。

増渕 匡平

マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 代表

代表日系証券会社の営業部門および人事部門を経て、2010年にマーサージャパン入社。総報酬サーベイに関する、既存顧客の運用支援や新規顧客の導入支援に従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。日本で3,000社を超える同部門のクライアントに対して、組織人事領域における典型的なイシューを特定し、標準化されたソリューション(プロダクト)を通じて支援している。

太田 早紀

マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門
カスタマーサクセス/コンサルタント

新卒で金属製品を扱う専門総合商社に入社。ライフイベントをきっかけに日系大手商社に転職し、輸出入部門で活躍。その後、企業の人事制度の仕組みなどに興味を持ち始めたことをきっかけに2019年にマーサージャパンに入社。入社後は報酬サーベイを中心とした報酬・福利厚生関連プロダクトの管理を担当。その経験を活かし現在はカスタマーサクセスとして契約されたクライアントの継続支援を担当している。


新たな報酬制度に反映させるため、総報酬サーベイで市場感を幅広く確認

増渕:『総報酬サーベイ』は、参加企業からご提供頂いた報酬データを、各社が汎用的に活用できるようにデータベース化し、産業別、企業規模別、職種・職位別といった複数視点の掛け合わせで比較分析できるプロダクトです。市場の水準と自社の報酬分布を比較検証出来ることから、世界で40,000社以上、日本国内でも1,000社以上にご活用いただいていており、ココナラ様にも2021年からご利用いただいています。そのきっかけは何だったのでしょうか。

 

坂本:2020年2月、弊社では6年ぶりにバリューを改訂しました。上場を目指し、事業の多角化に取り組み、社員も増えていく中で「社内のカルチャーを再構築しておく必要がある」と考えたためです。

内容としては、「チームとして大切にしたいこと」、「個人として大事にしてほしいこと」、「会社を支える基盤としての価値観」を謳ったものですが、これらを社内に浸透させるためには、バリューと人事制度を連動させる必要があると考えました。そこで人事評価制度もアップデートすることになり、まずは、「グレード(職位)定義」にグレードごとに期待する「バリュー発揮」を明文化するなど全体を作り直しました。

続けて、「パフォーマンス」に対する評価に「バリューの実践」に対する評価を加え、50:50のウエイトで評価する仕組みに移行したのです。ただし、実際の運用についてはメカニズムに落としきれておらず、たとえば昇給についてはまだまだ属人的な要素が強く改善の余地があったため、ガイドラインを作り、ロジカルかつフェアに評価することが求められていました。

そこで報酬制度の改定、昇給メカニズムと報酬レンジの見直しに取り組んだのですが、見直しにあたりどんな形・数字が正しいのか、客観的な指標として市場感を反映させることが不可欠だと感じ、総報酬サーベイの導入へと至ったのです。

 

増渕:報酬制度は企業戦略を反映する重要な要素ですが、労働市場も大きく変化する中、どうすれば魅力的で競争力のある報酬制度を構築できるか、お悩みの企業様も多いと思います。総報酬サーベイを導入することで、従業員の自社報酬データと市場報酬データを組み合わせた分析、すなわち内部公平性と外部競争力のバランスが取れた分析が可能になります。

 

坂本:ビジネス職とエンジニア職では市場感は異なりますし、エンジニアだけ見てもジョブによって市場感には高低がありますので、そのあたりをフェアに捉えるべきだという思いを持っていました。その点で総報酬サーベイは、 ジョブとグレードを掛け合わせた細かな分類でデータを確認することが可能ですので、報酬制度設計のエビデンスとして活用させていただきました。 

太田:ココナラ様には、報酬サーベイの中でもハイテク産業に特化した『ハイテク報酬サーベイ』を主にご利用いただいています。具体的にはどのような企業を比較対象・ベンチマークされたのでしょうか。

 

坂本:まずは同規模のいわゆるベンチャー企業と呼ばれる企業で比較をしました。しかし、それ以外にも規模の大きいメガベンチャークラスの企業など、採用の競合として考えられる会社は参考にしています。その他にも従業員数や売上規模、日系・外資系などいくつかの切り口で分類し、6パターンくらい比較企業群を作り、傾向を俯瞰しました。

 

太田:採用の競合となる企業の報酬をピンポイントで見ようとされるお客様も多いのですが、同じ職種・ポジションでも切り口を少し変えると傾向は大きく異なります。そのため、分析の際にはさまざまなパターンのデータを総合的に俯瞰することが重要になります。ココナラ様がそうした取り組みを実践していらっしゃることは、すばらしい活用度だと思います。

 

報酬制度の公開は、採用力強化と社員のキャリア意識醸成につながる

増渕:そうして改定した新たな報酬制度を、ココナラ様は社外にも開示する方針を立てられました。これは勇気のいる決断だったのではありませんか。

坂本:「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」が弊社のビジョン。その実現のために「オーナーシップをもって行動する人材を、ココナラはエンパワーメントする」という新人事ポリシーを打ち出し、「会社と個人は対等である」と明示しました。

当然、会社としてはビジョン・ミッションを実現すると同時に、社員それぞれが自身のWillを叶えられるような体制を作らなければなりません。また、社員がライフプランやキャリアプランを思い描けることが必要です。たとえばこれから家庭を持とうという人なら、どのような職務を果たせばどの程度の収入を得られるのか知りたいはず。報酬レンジや昇給の条件を開示しないと「会社と個人は対等である」とは言えないのです。

また、今回の報酬制度改定では、ジョブごと・グレードごとのスタート値と、上限値を示すことによって今の年収からの伸びしろを自ら理解することができます。

加えて、上位グレードと近接する「期待値が変わるゾーン」を設けています。これにより、同じグレードであっても高めのオファーを出す場合は、「期待値も一段高い」ことの目線合わせをおこなうことができるため、入社後も期待値ギャップなくスムーズにオンボーディングが進む可能性が高まると考えています。また、市場感に負けていないという自信もありますので、報酬レンジをオープンにすることには、採用力の強化というメリットもあると思います。

 

増渕:現在のジョブやグレードを新しい報酬制度に当てはめたときにレンジからはみ出てしまう人には、どう対処されているのでしょうか。

 

坂本:まず上限値をオーバーしていたメンバーには、昇格の期待値をセットして地道に支援を行うことで、適正なグレードに整えていきました。加えて、報酬レンジにおいての伸びしろが大きい人には昇給スピードを上げつつ、「期待値が変わるゾーン」に達してもグレードの期待値相当にとどまる場合は昇給率が一段低くなるという考え方によって、過度な昇給インフレを防ぎつつも、メリハリのついた設計を取り入れました。

また、各人が自分の報酬を低い・高いと「感覚的に」感じるのではなく自分の市場価値を意識してもらうため、新報酬制度の説明資料にマーサー社の総報酬サーベイを利用していることを記載しました。それにより客観的な根拠をもった適正報酬であるという納得感を醸成しやすくなりましたし、例えば「ライフステージの変化で必要となる報酬水準がある場合に、どのような期待役割や職務レベルに達するよう頑張ればよいのか」と相談される上長も、現実的なキャリアプランも含めた会話ができるのではないかと思います。

 

増渕:そうすると、自分の価値を高めるためには何が求められるのか、キャリアに対する意識も醸成されますね。世の中の価値変化を捉えて成長していける人が増えれば、組織としての変化対応力も高まっていると思います。

 

総報酬サーベイの活用によって、自社のジョブやグレードも整理される

坂本:総報酬サーベイへの参加にあたっては、自社データの提出に少し不安がありました。データの提出にあたっては弊社の職種と総報酬サーベイにて用意しているジョブの紐づけが必要となりますが一般的な呼称が一致していなかったり、ジョブの定義において弊社ではその一部しか果たしていなかったり、より広い職務を担当しているなど悩む点がいくつかありました。しかし、迷った際には現場に問い合わせたこともありますし、マーサージャパン様にもこの紐づけについてはとても丁寧にサポートしていただきました。

 

太田:総報酬サーベイにデータを入力していただく際、職種やジョブの考え方に“ズレ”が生じてしまうと正しい傾向値を出せません。データの信憑性にも関わる部分ですから、弊社でも統一性の確保には力を入れています。ココナラ様はその点をご理解され、マッチングに配慮した正しいデータを提供してくださっているので、助かります。

坂本:データ提出時にこのジョブの紐づけを行ったことはメリットもありました。総報酬サーベイでは各ジョブの定義も参照出来る様になっているため、今回の報酬制度改定における職務・グレードの整理をする際に大いに参考とさせていただきました。「このジョブ、このグレードでは、こういう仕事ができるべきなんだ」と感じることが多く、弊社におけるジョブやグレードの定義に反映させています。

ジョブやグレードごとに「どのような役割・仕事を期待するか」をきっちりと定義することでフェアな評価が可能となりますし、本人にも何が必要か見えるようになります。プロフェッショナルを育てるためにも、職務の定義は重要ではないでしょうか。

 

太田:ココナラ様がそうだったように、ジョブやグレードのマッチングに配慮しながらデータを入力していただくことで、自社の現状が整理されることも確かでしょう。総報酬サーベイのご利用企業様には、マーサーが持っているジョブカタログと呼ばれる各ジョブの定義を参考にマッチングを行っていただきます。カタログでは現時点で自社にない職種も参照することができるので、新しい職種の定義づけやジョブ型への移行に活用いただくこともできるのではないかと考えています。

 

坂本:弊社では新規事業の立ち上げにも取り組んでおり、これまでなかった「営業職」も誕生しています。まったく新規の分野、新規の職種なので、どういうグレードや報酬設計をすべきなのか。他の部門との整合性も確保しつつ、いままでにない制度設計に取り組まなければなりません。

太田:総報酬サーベイでは、各社がセールスインセンティブをどの程度導入しているのか、どのようなパーセンテージを設定しているのかも確認することが可能ですので、ぜひご活用ください。

 

坂本:人事制度の変革は苦労の多い仕事です。正解がない中でも、「社員のためになるものを作りたい」という思いを持ち、「まず会社のビジョン・ミッションを実現するための人事ポリシーを策定し、それと連動した施策に取り組みたい」という筋の通った手順を踏むからこそ、折れずに貫けるのです。時間はかかるけれども、この姿勢を続けていきたいと考えています。また、自分たちのやっていることに確証を持つために総報酬サーベイのようなプロダクトを役立てていければと思います。

 

太田:総報酬サーベイによって出てくるデータは「この人にいくら払うか」という観点でご利用いただく企業様もありますが、ココナラ様のように、まず最初にポリシーがあり、それを施策に落とし込むために活用するというスタイルはすばらしいお取り組みだと思います。


「お客様の成功のために」と考えて日々模索している我々カスタマーサクセスチームにとって、非常に参考になる事例だと感じました。

 

増渕:ココナラ様は、公開された人事ポリシーの中で「マーサー総報酬サーベイを利用している」と明示しておられます。海外あるいは外資系企業ではよくある公開スタンスですが、日本ではまだまだ浸透していません。嬉しさを感じるとともに、今後も御社に継続的にご活用いただけるようにサービスの質と量を高めていかなければ、と身の引き締まる思いです。

 

本日はどうもありがとうございました。

 

    Related Solutions
      Related Insights