HRBP人材の育成に取り組むLINEのユニークな方法論 LINE株式会社 小向 洋誌様 

eラーニングによる学びを 最大化するためのカギがここにある!

小向 洋誌(こむかい ひろし)様

LINE株式会社

Organization Successセンター HR Business Partner室 マネージャー

2005年ヤフー株式会社入社。ショッピング、オークションの企画・営業業務を経て、2012年より人材開発・ 組織開発に携わる。2020年LINE株式会社に入社し、HR Business Partner室 HRBPマネージャーに就 任。主にマーケティングソリューションカンパニー、エンターテイメントカンパニーを担当し組織開発・人材 開発を軸に事業戦略の実現に尽力している。また、HRBPを役割とする人事社員の育成を企画・設計・運用 を担当している。

前川 尚大(まえかわ たかひろ)

マーサージャパン株式会社

組織・人事変革コンサルティング シニアプリンシパル 人材開発プラクティス プラクティスリーダー

海外に事業展開する日系多国籍企業に対し、グローバル人事戦略・グローバルタレントマネジメント構築、グローバル人事制度構築等の幅広いコンサルティングに従事。日本・欧米以外に、東アジア/東南アジア/南アジア/中南米等の新興国含め20か国50拠点都市以上に渡るプロジェクト経験。事業会社人事部を経て、6年間アセアンに駐在。現地拠点の人材マネジメント改革を担当。その後、欧米系コンサルティング会社を経て、マーサーに。2007年よりマーサー上海に出向。2011年までマーサー上海・日系企業支援チーム代表を勤める。2012年よりマーサージャパンに復帰し、現職。

(人事ポータルサイト【HR Pro】取材記事転載)

報酬、評価、タレントマネジメントから人事戦略まで、幅広い学習プログラムが用意された『Mercer College』は、人事のプロフェッショナル、とりわけHRBP人材の養成に大きく寄与するものとして定評のあるeラーニングプラットフォームだ。

今回は、その『Mercer College』を独自の手法で活用するLINE株式会社の小向 洋誌様と、マーサージャパンのコンサルタントで『Mercer College』の監修また講師も務める前川 尚大の対談から、eラーニングによる学びを最大化する秘訣を探っていく。

『Mercer College』はフラットなプログラム。だからこそ利用価値がある

前川:経営戦略と人事戦略を結び付けてビジネスの成長を目指すHRBP(Human Resource Business Partner)や、制度設計、組織開発、タレントマネジメントなど各分野で専門性を発揮するCoE(Center of Excellence)など、人事組織を機能別に整備することが日本企業の中で主流となりつつあります。

ただ、積極的に投資している企業はまだまだ少数派で、必要性は認識していても既存の手法やしがらみから抜け出せていないのが実態です。そんな中で御社は「人事に戦略機能を持たせる」という明確な意思を示していらっしゃいますね。

 

小向: LINEでは、メッセンジャーアプリ以外の事業を軌道に乗せたい、そのためには経営と人事の連携が不可欠だという方針からHRBP組織の立ち上げや育成に取り組み始めたのですが、当初は担当者も少なく、HRBPに対する理解度も不十分でした。

実務としても、労務対応や「誰かが辞めそうだから後任を探す必要がある」など、組織内で起きたことに対して素早く手を打って解決することが中心で、"事業部門の要望に応える"ことが価値提供となっていました。これはHRBP設立初期としては間違っていなかったと思います。ただ、"会社の現在と将来を予測して対処する" という機能はまだ果たせていませんでした。

 

前川: HRBPは“転ばぬ先の杖”を用意するのが本来の仕事。しかし、事業部長のオーダーに応えることを優先させる組織、各部門の小間使いで終わっている企業は多いと思います。

小向: 私がLINEに入社してHRBP に加わった際も、まさにそうでした。「まぁアジャイル的に解決していくという方法論もあるか」、「そういうやり方もアリなのかもしれない」とも考えたのですが、しばらくして「これではHRBPのバリューを十分に発揮できない」と感じ、上長と議論を重ねてもっと戦略的にHRBPを採用し、育成していこうということになったのです。

まず、HRBPとCoEの役割分担や関係構築などHR全体を企画設計し、運営していく部門を正式に作りました。HRの中に「HRを考える部署」を作る企業は、なかなかないと思います。次の課題が HRBP 人材を計画的に育てていくこと。LINE のように常に状況が変わることを前提としている組織では「スピード感」はとても重要でしたので、ここは“じっくり”ではなく、なるべく早くHRBPに関する共通の言語や価値観、考え方のフレームを身につけてもらおうという方針を立てました。

ただ、恥ずかしながら私自身もHRBPのすべてを知り尽くしているとは胸を張って言える状態ではなかったので外部の優良なコンテンツを使おうと考えたのです。

『Mercer College』を選んだ決め手は、コンテンツがフラットであること。HRBPが効果的に機能するためには、多彩な考え方を持っておく必要があります。ところが人事の教育系コンテンツは「こうあるべし」というタイプが多いように感じていました。人事領域に関する一般知識や考え方をフラットに学べて、なおかつ豊富な事例など深さも感じさせるコンテンツは『Mercer College』以外に見当たりませんでした。

前川: 『Mercer College』は、まさにLINEのような課題を抱えている企業のために作られたサービスで す。人事戦略からタレントマネジメントまで、人事のプロとして身につけておくべきHR関連の知識を網羅し、かつ実務につながる形で整理されているeラーニングプラットフォームだと自負しています。

「こうあるべし」という押し付けや、膨大な事象とデータから法則性や理論を導き出すアカデミックなコンテンツだと、どうしても事業の現場のリアルと乖離が生まれます。事業によって何が正解かは異なりますし、必要な人事施策や組織も変わるはず。『Mercer College』は、そうした思想から作られています。

 

小向: 確かに「こうしろ」と言わないですよね。「いまのあなたたちの事業フェーズや組織なら、どうしますか?」と問いを投げかけられているような気がします。

 

前川: 各プログラムの設計と講義は、私をはじめ、その領域で豊富な経験を持つコンサルタントが担当していま す。どのコンサルタントも多彩なプロジェクトに携わってきたので、事業によって最適な方法論は異なること、単一の「べし」が通用しないことを分かっている。上手くいった例もあれば失敗例もあります。そうした現場で得た知見が積み上げられているので、結果的にフラットな内容となっているのでしょう。

「見る」だけではなく自社の状況に落とし込んで考察する。 勉強会の効果は絶大

小向: とはいえ、eラーニングだけでは身につきません。各自に努力させる必要もあります。せっかく費用をかけて導入したのだから「とことん使い倒そう」という思いもありました(笑)。

そこで採り入れたのがオンライン勉強会です。HRBPの担当者が十数名と、「人事内のHRBP以外の部門でも興味があるなら参加して」との呼びかけに多くの社員が手を挙げてくれて、現在は計38人の会になっています。

ペースは2週間に一度で1時間ずつ。各回のファシリテーターを各HRBPが担当し、学習プログラムについての考察を発表した上で「問い」を参加者に投げかけて参加者がダイアログ(対話)をするというスタイルを採っています。全員があらかじめ同じ動画を見ているため、解説や要約は不要。そのプログラムをどれだけ理解し、深い考察を披露できるかが問われます。

たとえば『パフォーマンスマネジメント』であれば「今後のLINEを考えたとき、評価制度をどうメンテナンスすべきか? その効果や狙いは何か?」、『ジョブ型雇用』なら「仮に100%ジョブ型へと移行する場合、検討すべきことは何か?」など、他の会社での事例やLINEの現状などを整理・考察し、発表します。20〜30分程度の発表後、参加者を3、4人ごとに分けてダイアログを実施し、最後にみんなの考えを共有する、という流れになっています。

 

前川: eラーニングはインプットのプラットフォーム。それを「LINEに当てはめるとどうか?」という形でアウトプットに転換し、学習の定着を図っているわけですね。各プログラムをHRBP視点で解釈し、かつLINEの現状に落とし込んで考察する。なかなかレベルの高い活用法で、講師としても、ここまでやっていただけると嬉しいものです。

100社あれば100通りの課題と解決策があります。ある会社にとって正解となる手法も、他の会社では通用しません。ご提供した情報や知見の中から、自社に合ったフレームをどう抽出していただくかがeラーニングを開発する際のテーマでした。ですからLINEの方法論は、本来我々がやりたかったことだといえます。フラットなコンテンツだからこそ、こういう活用も可能だったのでしょう。

eラーニングは、その手軽さゆえ、見流し・聴き流しの個人的インプットになることが多いものです。ところが御社では、個々の学習をそれぞれが仕事に生かすだけではなく、集めて学ばせて議論させ、場合によっては新しいアクションにつなげる、いわば組織開発的な手法に取り組んでおられる。他の会社にも真似していただきたいと思いますし、弊社のコンサルタントにもやらせたいくらいです。

 

小向: 勉強会の参加者のうち半分以上はCoE担当の社員。例えばペイロールの専門家に人事戦略を考えてもらうこともあるわけですから、かなり大変だと思います。しかし、今後のキャリアを考えると損はないはずです。

前川: 単純に「動画を見る」だけではなく、考え方のフレームと自社のリアルを結び付ける作業ですから、血肉になるでしょうし、理解の深まりも全然違うでしょう。個人のキャリアという面でも、確かに意味があると思います。そのせいか、勉強会のオンライン画面はみなさん楽しそうですね。

HRBPのクオリティ向上と、 ビジネスパートナーとしてあるべき姿を目指す

小向: 教える側に立つことでHRBPのスキルは向上したと思いますが、それ以上に感じるのがHR内でのコミュニケーションの質の変化です。HRBPとCoE は、ともすれば敵対関係になりがちですが、勉強会でのダイアログを経験した者同士だと、同じ知識やフレームを持ち、それぞれの立場を理解した上で正しい議論や建設的な対話ができるようになります。また、もともと事業側にいた人にとってHRのリアルは、目から鱗のようです。

社内における HRBP のプレゼンスも大きくなったと思います。ただ、いまでも事業部人事的な仕事をしていることも事実です。それでも3-5 割くらいは戦略的な仕事に取り組めるようになったのではないでしょうか。

 

前川: 事業戦略と人事戦略をリンクさせないと会社は上手くいかない、という健全な危機感をお持ちで、真剣に取り組んでおられるからこそ、そういう変化も表れているのでしょう。

小向: HRBPとしてのアウトプットのクオリティアップが、これからの課題と考えています。事業、プロジェクト、プロダクトの現状と目標のギャップを埋めるための検討、いわゆるビジネスレビューにリソースの50%を割こう、というのが現在の合言葉です。

コーチング的なコミュニケーションによって、事業側に“気づき”を促すことも大きな仕事となるでしょう。事業やプロダクトごとにフェーズは異なり、それぞれに最適な人事施策があるはず。たとえ嫌われたとしても「現在の事業課題に、その手法はミートしていますか?」などと問いかけ、ビジネスを成長させていくのがHRBPの仕事だと思います。

前川: HRBP は文字通り「ビジネスパートナー」ですからね。事業サイドと対等に向き合うことが重要です。

 

小向: そのためにもフラットな考えを持って多彩な提案をできることが大切です。自分の好き・嫌いで「こうすべき・すべきではない」と語るのではなく、状況に応じていくつも武器を使えたり、提案をできる方がいい。だからこそ『Mercer College』を利用させていただいているのです。

ですが、コンテンツに対する要望もあります。近年は在宅勤務が多く、育児しながら勉強会に参加している社員もいます。すると、1時間ずっと動画モジュールを見続けるのは難しい。YouTubeなどの影響でみんなショートコンテンツに慣れていますしね。また、PCではなくスマホで視聴するケースも多いので、文字のサイズも工夫していただきたいところです。

プログラムのテーマは日々増えて充実していますし、基礎知識や抽象概念の解説はかなりレベルが高いと思いますので、今後は個別の手法とその結果、事例など、具体的な情報も拡充していただければと思います。

前川: 確かに中核となるテーマ/プログラムはほぼ出そろったので、実例や手法のバリエーションを増やすなど、実務者にとってヒントとなる情報、一段深掘りした形のコンテンツ設計を進める段階に入ってきました。引き続き、受講者様が迷わないようきっちりと構造化し、系統的に学んでいただけるよう心がけて開発を進めていきます。

視聴時間については、これまでも短いモジュールに分けてご提供してきましたが、育児しながらや通勤時など、多様な学習機会を想定して再編集した方が良さそうですね。貴重なヒントをいただきました。

また、LINEの勉強会が成功していることもヒントとなりそうです。『Mercer College』では、いわゆるオフ会を開催し、質疑応答やグループディスカッションといったアクティビティもご提供しているのですが、こうしたリアルな接点を増やした方がいいのかもしれません。単一のクライアントだけでなく複数の企業が参加できる勉強会を実現できれば、それぞれにとって刺激にもなるでしょう。

 

小向: 勉強会やHRBP人材育成のためには、やはり「べき」ではなくフラットであることが大切です。また、これまで様々な学習コンテンツに接してきましたが、HR関連の書籍を読めば十分という一般論に終始しているものも多いという印象があります。

その点、『Mercer College』は本を読むだけでは得られない情報が充実しています。お世辞抜きに優秀だと思います。

 

前川: ありがとうございます。確かに、コンサルタントの経験や知見をここまで幅広く整理しているコンテンツは他にないはずです。お客様にとって価値あるものだと思いますし、自社内にあるメソッドを体系化できたこと、メソドロジーの観点からも意味のある取り組みでした。

我々としては、日本の企業に元気になってもらい、事業成長してもらうことが第一の望み。それを使命として、今後もより良いコンテンツをご提供できればと思います。小向さん、本日は貴重なお話ありがとうございました。

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