定年延長に伴う企業年金制度への対応と留意点 

改正高年齢者雇用安定化法(2013年4月1日から施行)により、従前の「雇用する対象者を限定できる仕組み」が廃止され、企業は、希望者を原則として65歳まで、引き続き雇用しなければならないこととなった。

現在、多くの企業は、60歳定年を維持しつつ、65歳までの期間については、継続雇用制度(定年再雇用)により対応している。
 「継続雇用制度の導入」により雇用確保措置を講じている企業は81.7%( 高年齢者雇用状況報告 平成26年6月1日

労働人口減少下における労働力の確保の手段として、今後、65歳まで定年を延長する企業が増えることも考えられる。その際の企業年金制度(確定給付企業年金制度/確定拠出年金制度)における留意点を整理する。

まず、60歳を超える雇用に関して、年金制度で、どのように処遇すべきか検討する必要がある。次の3つの選択肢が挙げられる。

1. 60歳を超える勤務期間を、年金制度の算定基礎期間に含める

2. 60歳を超える勤務期間は、年金制度の算定基礎期間に含めないが、給付の支払いは、退職日以降とする

3. 60歳で打切り支給とする

選択肢のイメージ(65歳を新定年として、定年退職を前提)

一般的に必要となる、規約の変更事項は以下のとおり。

  確定給付企業年金(DB) 確定拠出年金(DC)
1
  • 資格喪失年齢を65歳とする(定年を資格喪失年齢としていれば、自動的に変更される)
  • 老齢給付金の支給開始年齢を65歳へ引き上げる
  • 60歳以上の退職者は即時の年金支給開始が可能となるように老齢給付金の支給要件を変更することが望ましい
資格喪失年齢を65歳とする
※ただし、60歳以降に加入することは、法令上できない
2
  • 定年を資格喪失年齢としている場合は、60歳に変更する
  • 老齢給付金・脱退一時金を65歳まで、本人の選択により繰下げできることとする
特になし(本人の選択により70歳まで繰下げ可能)
3
  • 定年を資格喪失年齢としている場合は、60歳に変更する
特になし

税制

[確定給付企業年金制度]

以前の55歳からの定年延長時、55歳旧定年年齢で打切り支給する場合は、通常、退職所得として取り扱われており、3 の場合のように、60歳で清算する場合であっても、その扱いは変わらないと思われる(事前に税務当局等への確認は必要)。

[確定拠出年金制度]

老齢給付金を一時金で受給する場合、退職所得控除が適用されるが、控除額算定に使用する勤続期間は、60歳を限度とする確定拠出年金の加入者期間として計算される (企業型年金加入者の資格喪失年齢引上げに関するQ&A No.24)。
そのため、1 の場合であっても、60歳以降は算入できないことに留意する必要がある。

確定給付企業年金で給付減額と取り扱われる場合

給付現価や最低積立基準額が減少すると給付減額に該当する。

1 の場合、給付現価は、60歳以降の給付の伸びと予定利率の関係で、大小関係が決まるが、最低積立基準額の場合は、一般的な算定方法であれば、減少となる可能性が高い。減額は従業員の同意があればよいというものではなく、そもそも合理的な理由が必要となるが、雇用延長に伴うもので、労働協約等の変更に基づいたものであれば、一般的には、合理的な理由と考えられる。
2、3 の場合、給付減額に該当しない。

確定給付企業年金における会計への影響

[退職給付債務]

1 の場合、 支払見込み期間の延長により、割引の要素が大きくなるため、債務を減少させる要因になるが、最終給与比例の昇給や、キャッシュバランス制度の利息クレジットは、給付額を増加させるため、債務を増加させる要因になる。
変動した金額は、過去勤務費用となり、日本会計基準と、米国会計基準では、変更日以降、一定期間で費用化、国際会計基準では、変更日に一括認識することとなる。

[費用]

1 の場合、 60歳以上となる従業員の発生に応じて、今後の費用は増加する。
2、3 の場合、影響は生じない。

60歳を超える雇用に関して、60歳までと変わらない処遇を行う場合は、1 の方法のように、年金制度も同様の処遇とすることで、勤労意欲向上の効果を期待し、逆に、60歳までに比べ、著しく給与が下がる場合は、3 の方法のように、60歳で一時金、又は、60歳から年金を支払い、収入減少を補うものとしての役割を期待する事が考えられる。
著者
浅井 将尚 (あさい まさなお)

年金コンサルティング プリンシパル 日本アクチュアリー会正会員 年金数理人

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