政策アセットミックスのフレームワークとリバランス・ルールの再考 

『オルイン』(2025年春号 掲載)

2024年を振り返ると、株式相場は非常にボラタイルであったが、グローバル株式投資は米国の堅調な経済指標や企業業績と円安を背景に好調を維持している。その結果、ポートフォリオ全体に占める株式のウェイトが上昇し、政策アセットミックスで定めた配分比率を超過したことでリバランスの検討を行った企業年金も多かったのではないだろうか。リバランス運営は資産運用におけるリスク管理の根幹の一つであり、モニタリング頻度、許容乖離幅、抵触時の対応などあらかじめ定められたルールに沿って執行することが一般的となっているが、ここではその前段としてリバランス対象とする資産クラスの検討に焦点を当てたい。

伝統4資産による政策アセットミックス構成が主流であった頃には、リバランスというとオーバーウェイトとなっている資産を売却し、アンダーウェイトとなっている資産を購入するというシンプルなものであったが、投資対象資産の拡充や分散投資の高度化が進んだ昨今ではリバランス・ルールの設定にも一工夫が必要だ。例えば、オルタナティブ投資を政策アセットミックス上で独立した資産クラスとして定義している場合は流動性に制約があるため売買による配分調整といった手法はとることができない。さらに、プライベート資産にはキャピタルコールや償還のタイミングが読めないという不確定要素もある。すなわち、投資対象ごとの配分比率を厳密に管理することが難しくなってきているのだ。

そこで最近採用が増えてきているのが、政策アセットミックスの資産クラスを投資対象ごとに区分するのではなく、目的別(安定収益/収益追求など)やリスク水準別(ローリスク/ミドルリスク/ハイリスクなど)に大別し、その大枠で配分比率の管理を行うスタイルだ。低流動性資産のウェイト変動に対応して、同じカテゴリーに位置付けている流動性資産のウェイトを調整してバランスをとるような運営は、リバランスの本来の意義である「ポートフォリオ全体のリスク量を政策アセットミックス策定時に想定した水準に保つ」ということを実現する効率的な管理方法といえる。

一方で、ポートフォリオ全体の流動性の確保には留意が必要だ。給付超過となっている年金制度では、流動性資産は自然体でも減少していくため、長期的な観点から流動性資産がどの程度必要かを把握しておくことが望ましい。プライベート資産を導入している企業年金のなかには、こういったポートフォリオ全体のリスク管理について課題認識はあるもののしっかり整理できていないケースも散見される。

多くの企業年金は政策アセットミックスの見直しを財政再計算のタイミングに合わせて実施している。年度後半から始動しても既存のフレームワークを維持して配分比率を見直すだけであれば十分かもしれないが、政策アセットミックスのフレームワークの再構築からリバランス・ルールの整備といった管理方法の再考まで含めると検討に相応の時間を要する。来年度にかけて政策アセットミックスの見直しを予定している企業年金は従来よりも早い時期から着手し、リスク管理全般について見直す機会を設けることをおすすめしたい。

著者
林 辰幸

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