自社報酬水準の “健康診断” 受けていますか?- 実例から学ぶ報酬サーベイの活用方法 

自社報酬水準の “健康診断” 受けていますか?~実例から学ぶ報酬サーベイの活用方法~

09 10月 2023

人材獲得競争が続く中、企業の報酬・タレントマネジメントに求められる客観的な視点

昨今、世界的な物価上昇や人材の獲得競争を背景に、ベアをはじめとする賃上げ等の取り組みが企業から発表されている。中には、10%前後の昇給を実施する企業も見受けられるなど、これまでの日本企業における“横並び”の動きではなく、自社の状況・戦略に従って打ち出す独自色のある対応が特徴的だ。経団連は、「2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)」*1として、毎月決まって従業員に支給する月例賃金の引き上げアップ率が3.99%と発表し、1993年以来30年ぶりの引き上げ率となった。

 資料出所
 *1 2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)


このように、マーケットが動き出すと、いつの間にか自社が考えていた、「これくらいなら大丈夫!」という基準と世間(マーケット)基準にギャップが生じ始め、予期せぬ問題に直面する可能性がある。その問題が深刻化する前に、早期発見・定点観測をすることが重要であり、実際に足もとの当社報酬サーベイにおいて、客観的なマーケット報酬水準を活用する日系企業がめまぐるしく増加している。

報酬サーベイとは、調査参加企業からご提供いただいた報酬データを、各社が汎用的に活用できるようにデータベース化し、産業別、企業規模別、職種・職位別、年齢別といった複数条件の掛け合わせで比較分析できるサービスである。年に一度実施しているマーサーの報酬サーベイは、日系外資を合わせた2023年の総参加企業数が1,238社、日系企業の参加企業数は579社に達する見込み(10月12日時点見込み)であり、後者に関してはここ5年で約10倍に増加した。

本コラムでは、当該サーベイを導入・継続利用し、自社の報酬マネジメントやタレントマネジメントに活用されている2社の具体事例を以下でご紹介する。

同社を取り巻くビジネス環境は、M&Aや資本提携、また、新たなテクノロジーによって目まぐるしく変化しており、国内同業界のみならず異業種×グローバルというフィールドで戦うことが求められている。その環境下において、マーサーの報酬データを活用いただき、ゲーム開発・インフラエンジニア・アプリケーションエンジニアなどの特定職種のベンチマークのみならず、制度改定時の報酬分布シミュレーションや現職者の離職リスク分析などを行われた。結果として、人材の確保・定着、そして社員のモチベーション向上に寄与できたとマーサーとしても考えている。報酬サーベイによって課題が顕在化した後においても、「では、どうするか?」といった次のアクションがより重要であるため、改善策とその効果を経年的に定点観測していくことは重要な取り組みだといえるだろう。
人事制度の見直しをきっかけに報酬サーベイをご利用いただいた同社は、改定した新たな報酬制度を社外にも公表している点が特徴的だ。報酬レンジをオープンにすることによって、ジョブやグレードごとのスタート値と上限値を示し、現在の年収からの伸びしろを従業員自身で理解することができる。例えば、「ライフステージの変化で必要となる報酬水準がある場合に、どのような期待役割や職務レベルに達することができるよう、何に注力すれば良いのか」と部下から相談される上長も、現実的なキャリアプランも含めた会話ができ、従業員自身も具体的な期待値に向かってキャリアを描きやすくなる効果がある。また、各人が自分の報酬を低い・高いと「感覚的に」感じるのではなく、自分の市場価値を「客観的に」意識してもらうため、新報酬制度の説明資料にマーサー社の総報酬サーベイを利用していることを記載することで、根拠をもった適正報酬であるという納得感を醸成しやすくなった。継続的な報酬データの活用が、同社の採用力強化と社員のキャリア意識醸成につながっているのではないだろうか。

報酬課題の早期発見・定点観測のために

各社の報酬サーベイの活用例を振り返りたい。スクウェア・エニックス社は自社を取り巻く経営環境や人材獲得競争の変化をいち早く察知し、その課題の所在を明らかにし、今後の施策を投じることによって従業員にとって魅力的かつ持続的な報酬マネジメントを行われている。また、ココナラ社は継続的に報酬ベンチマークを行い、その結果を対外的にも公表することによって透明性を担保し、従業員それぞれが自身のやりたいこと、「Will」を叶えられるよう、ライフプランやキャリアプランに寄り添って活用している。このように、客観的な報酬データを用いて具体的な取り組みを進めている企業がマーケットの変化に応じて増えてきた。「まだ大丈夫!」、「本当に大丈夫かな・・・?」と少しでも半信半疑の思いがあれば、報酬課題の早期発見・定点観測のためにも、ぜひ自社の健康診断を受けてみてほしい。
著者
山崎 悠真
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