「とりあえず、スタンドアローンで」から抜け出して(前編) 

13 8月 2021

多くの場合、M&Aの状況下では極めて短いタイムラインでのシナジー創出が求められる。

組織改編もしくは現行組織の維持という選択

同業他社の買収の場合、組織・人事の観点からは、大幅な組織改編とそれに伴う大規模な人員適正化がシナジー創出の主要なピースとして買収計画に組み込まれていることは珍しくない。しかしながら、大量の失業者を生み出すこうした施策は、従業員や地域社会からの強い抵抗を免れ得ないものであり、特に新しくやってきた親会社の外国人たちが大ナタを振るったとなれば、なおさらである。クロスボーダーM&Aにおける組織・人事に関する取り組みの中でも、最も難易度が高いものの一つだといえる。

その一方、同じくシナジー創出の観点から、当面の間はあえて組織・人事に手を付けないと決断するケースもある。独立した事業体(スタンドアローン)にしておくことにメリットがある、または急いで統合するデメリットが大きい場合がこれに当たる。例えば、競争力の源泉となっている独自のカルチャーを維持したい、自社で保有しない事業の買収のため今すぐには受け入れ先がない、キー人材の流出を防ぐために従業員の動揺を誘いたくない等の理由が考えられる。また、買収先の事業・組織・人材の実情が不明であり、現実問題として手を付けられないという場合もこれに該当する。

組織改編を行うのか、現行組織をできる限り維持するのか。いずれにしても、その決断はビジネス上の必要性に応じて行われるものであって、組織・人事としての唯一無二の正解があるわけではない。

ディールの目的にアラインしたDay1組織をデザインできているか

あらゆるM&Aにはディールを通じて達成しようとする固有の目的があり、それにアラインする形で買収後の組織がデザインされる。目的達成に求められる組織統合の深度を見定め、必要な組織体制・サイズを定義し、それに基づく適正な人員数を導き出すことにより目指す姿を描くのである。ただし、M&A完了時点(Day1時点)の組織デザインでは、ディールの最終目的よりもクイックウィンの実現にフォーカスし、シナジー創出のために最低限何が必要なのかという視点から体制・人員数を決めざるを得ない場合も少なくない。

Day1組織は、大別すると以下のいずれかを取ることが多い。

(1)買収先組織を大きく変えない(実務上も変えられない)もののトップポジションのレポートラインを組み替えるなどして既存組織に組み入れる

(2)ひとまず買収先組織をスタンドアローンにしておいて経営者のコントロールを通じて経営に関与する

ただこの時、ディールの最終目的を見据えながら意思を持って(2)を選ぶのではなく、残念ながら「とりあえず、スタンドアローンで」という結論に出くわすことがある。いずれ組織統合の検討が必要と理解しているが、現組織に大きな問題が無いことはデューデリジェンスで確認できている。時間がない中で余計な波風を立てず現経営陣に気持ち良く続投してもらいたい。そのような気持ちが見え隠れする。
文字通り「とりあえず」であって、いずれはディールの目的の実現に向けて動き出すのなら問題はない。

しかし、元々そのつもりだったはずが、お互いのカルチャーやタレントマネジメントに過度に配慮してしまい、同一の事業を営むにも関わらず、数年経っても当初想定していた重複機能の一本化も人材流動化もほとんど実現されないままになっている事例も見かける。こうなると結局、バラバラな状態が固着化してしまい、いつまで経ってもシナジーが実現されない=ディールの目的が達成されない。

後編では、「とりあえず、スタンドアローンで」から抜け出し、ディールの目的を見据えた組織づくりに向けて、具体的にどのように取り組んでいくのかについて、組織・人事の観点から考えてみたい。

著者
小原 広太郎

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