報酬における比較指標と構成 

23 1月 2014

「467.6」。この数字は何を表わしているかご存じだろうか。

国税庁が2013年に実施した民間給与の実態調査結果*によると、2012年の正規雇用の給与所得者の平均給与は男性が520.5万円、女性が349.6万円、男女平均が冒頭の467.6万円とのことである。

* 平成24年分民間給与実態調査結果

こうした調査が公表されたときに、受け手側のよくある反応としては、「平均より高い」「平均より低い」などの給与の高い低いという議論である。だが、ちょっと待ってほしい。その平均値は本当に比較検討として相応しい指標なのだろうか。

平均値というのは、我々が何かを測るときに非常に便利な指標である。平均身長、平均年齢、平均参加率、社員平均給与・・・我々は何かを比べるときに、平均という概念を当たり前のように使っている。この平均値の算出方法は、全ての値を合計し、それを対象数で割ることで決定される訳だが、算出時には、値の中に飛び抜けて高い値が含まれていないかどうか、値の分布にばらつきがないかどうかに注意する必要がある。高い値が含まれていたり、分布にばらつきがあると、どうしても平均値は上振れする傾向がある。

例えば、年収を例にとって考えてみよう。年収3億円の人が1人いて、その他29人の年収がゼロだったとする。上記の算出方法では、平均給与は1000万円ということになってしまう。ほとんどの人が、収入がゼロにもかかわらず。

平均が上振れの傾向があるとすれば、代替する指標にはどのようなものがあるのだろうか。我々が実際に報酬水準などを測るときによく用いるのが、%ile(パーセンタイル)という指標である。

表1:パーセンタイルの説明

パーセンタイルでは、全ての値を大きい値から順に並べたときに、上位25%に位置する値を75%ile、ちょうど中間に位置する値を50%ile(中央値)、下位から25%に位置する値を25%ileと表現する。このような指標を用いると、値の分布から全体が上振れ傾向があるのか(突出して高い値が存在する)、下振れ傾向があるのか(突出して低い値が存在する)を把握することができる。

なお、冒頭の調査においては、平均値は算出しているものの中央値は公表されていないが、大よそ300万円~400万円の間かと思われる。

給与に関する誤解としては、指標だけでなく、その構成要素についてもあてはまる。昔の私の恥をさらす様で恐縮だが、大学時代、就職活動をしていた際に、

友人 「あの会社は福利厚生が手厚いらしい。それだけでなく住宅手当や家族手当もあるから、可処分所得はそれなりの水準になるはずだ」
私 「そうか、だからあんなに基本給が高いのだね」

という様な、全く噛合わない会話をしていた記憶がある(何事もなく話を続けていた友人も今考えるとよくわかっていなかったのだろう)。

報酬構成については、社会人であっても混同していることが多いが、マーサーでは以下の図の様な考え方を採用している。

表2:報酬構成の説明

上記の会話で友人が手厚いと話した福利厚生は、現金支給ではないので年間総報酬に含まれる。また、住宅手当や家族手当は現金支給なので、年間固定現金報酬になる。一方で私が基本給と言っているのは、年間基本報酬の中の固定賞与を除いた金額のことである。これらの各々の言葉は知っている人も多いと思うが、ではそれがどの報酬構成に該当するのかまで正確に把握している人は意外に少ない。 そのため、これも報酬の比較を行うときに起こりがちなことだが、報酬構成の全体像を把握していないために、報酬額の多寡を誤解することがある。

例えば、日系大手企業の中には、年間基本報酬は他社と比べて低い水準にあるものが、諸手当+福利厚生が年間基本報酬と同じ比率のため、年間総報酬としては他社よりも高い水準にあるという企業も存在している。報酬構成やその中の項目には各社各様の特徴が存在しているのが実情だ。

これまで述べてきたように、一律に平均年収での比較を行うことや報酬構成のある部分を取り上げて給与の多寡を比べることには無理があることが、ご理解頂けたのではないだろうか。

こうしたことは人事部門の方々の多くは当然ご存知だが、一般の方にはそれほど認識が深まっていないのが現状である。我々のサービス提供を通して、多くの方々にこうした報酬に関する正しい認識を伝えていきたいと考えている。


 

執筆者: 片岡 匠 (かたおか たくみ)
プロダクト・ソリューションズ シニアコンサルタント

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