老後のセーフティネット ~グローバル年金指数からの示唆~
12 10月 2022
老後のセーフティネット ~グローバル年金指数からの示唆~
マーサーグローバル年金指数(MCGPI)の概要
MCGPIでは「十分性(Adequacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」の3つの観点から各国の年金制度を評価し、それぞれ約10個程度の評価項目を設定している。各評価項目については、OECD等の公のデータや各国のマーサーコンサルタントから集めた最新の法令改正事項等に基づいて評価を行い、ランク付けも行っている。しかし、残念ながら日本のランクは高くない(2021年度では43国中36位)。
主な評価項目は下表の通りである。
主な評価項目 | |
十分性 (Adequacy) | 最低保証年金の水準、所得代替率、家計貯蓄・負債率 |
持続性 (Sustainability) | 私的年金の普及率、公私の年金資産規模(対 GDP)、公的年金の平均支給期間、高齢化率、合計特殊出生率、高齢者の就業率、政府債務(対 GDP) |
健全性 (Integrity) | ガバナンスに関する評価項目(私的年金にかかる行政報告・外部積立・運用方針)および受給権保護に関する評価項目(積立基準、自己運用、会社倒産時の保護) |
各国で異なる社会システムがある中、少子高齢化が進む日本の年金制度の評価は?
所得代替率は日本政府が公表する所得代替率(現役世代の手取り収入額に対する65歳からの夫婦二人の公的年金額)とは異なり、世界基準の物差しとして、世帯単位ではなく個人単位、公的年金だけでなく私的年金についても評価対象となっている。私的年金についてはオーストラリアのように強制加入のタイプもある中で、設立が任意である日本の私的年金は低い評価となる。なお、日本で広く普及している退職一時金制度は評価対象外となっている。
持続性で日本が高評価となっている評価項目は高齢者の就業率(43国中3位)のみで、その他の評価は高くない。少子高齢化など人口構造的な問題に加え、公的年金の平均支給期間は日本が24.6年と最長で評価が低くなる。公的年金の支給開始年齢の引き上げ予定がある場合や、オランダのように平均余命の延伸に応じて公的年金の支給開始年齢を引き上げる仕組みがある場合は評価が高くなっている。日本には、同様の機能として平均余命の延伸等に応じて公的年金の支給額を調整するマクロ経済スライドがあるが、残念ながら評価の対象外となっている。
このように、各国独自の社会システムがある中で年金制度のみを比較しているため、結果が老後の生活レベルそのものを示すものではないことついてご留意いただきたい。見方を変えると評価も変わってくるという前提でご覧いただけると幸いである。
日本の年金制度、その期待値と今後の課題
例えば、日本では公的年金平均支給期間が現時点で最長であるとはいえ、高齢者の労働意欲が非常に高く、長く働くことで高齢者も公的年金の支え手となることが期待される。また、政府債務残高の対GDP比が高くとも、自国通貨建てであり、かつ高い外貨準備金があるため、持続可能性は高いと捉えることもできる。
一方で、評価対象ではないもののマクロ経済スライドは、賃金上昇率が低い環境が続けば十分に機能しないため、課題があるのではないだろうか。前述の通り、十分性については、私的年金や退職一時金を考慮すると一定条件を満たしているといえるが、その一方、税制面での有利さから一時金での取得が多くなっている現状について、税制の改正等により年金取得を促すことは、老後の確実な所得という観点では検討に値する。
老後の生活に個人貯蓄をまわす、その促進も十分性の改善につながるだろう。2022年10月より企業型DCとiDeCoが併用し易くなることに加え、「資産所得倍増プラン」で検討されているNISA恒久化はこれに寄与する仕組みである。しかし、個人貯蓄を老後に生活にどの程度まわせば良いかを自主的に考えられる人は多くはないのではないだろうか。
1つの原因として、多くの会社で退職給付制度が従業員から把握しづらい制度になっている点が挙げられる。従業員に自社の退職給付制度について正しく理解してもらう機会を設け、分かりやすい制度に見直すなど周知する取り組みが重要だ。退職後の収入全体を把握し、個人貯蓄の内どの程度を老後生活にまわせば良いかを考えるきっかけとなる。会社としては、見えにくかった退職金制度が周知されることで従業員のウェルビーイングの向上につながるため、是非実施してほしい取り組みである。
2022年のグローバル年金指数の公表にともない、老後の生活の根幹となる年金制度・退職金制度に対し今後どのように向き合っていくかを考える機会になることを期待したい。