マーサー 「グローバル年金指数ランキング」(2023年度)を発表 - シンガポールがトップ10入り、日本を含むアジア圏の年金制度の多くが改善の兆し
2023年10月17日
- 首位にオランダ、2位にアイスランド、3位はデンマークという結果に
- アジアの年金制度の中ではシンガポールが最も高くランクし、香港特別行政区と日本がこれに続いた
- AIが年金制度を改善させる可能性がある一方でリスクも伴う
マーサーとCFA協会は、第15回マーサーCFA協会グローバル年金指数(MCGPI) を発表した。オランダの退職所得制度が首位に返り咲き、アイスランドが2位、デンマークが3位となった。
CFA協会の会長兼CEOであるMargaret Franklin氏は、次のように述べている。
「世界中の人口の平均年齢は、先進国市場を中心に、多くの市場で上がり続けています。インフレと金利の上昇は、年金制度に大きな課題を突きつける、新たな市場ダイナミクスを生み出しました。また、グローバリゼーションに関連する分裂状態も継続しています。これらは、年金基金が直面している、複雑化する課題のほんの一部であり、退職者に重大な影響を与えるものです。リタイア後の生活において、個人が果たすべき役割はますます大きくなっています。投資の専門家として、私たちはその準備を支援する必要があります。毎年発表しているこの指数は、年金制度がその機能を最大限に発揮し、受益者の長期的な経済的安定のために、多くの法域で長い道のりがあることを思い起こさせる、重要な指標となっています」
アジアの年金制度
シンガポール(76.3)は今年、総合指数を改善し、主に年金加入率の向上により初めてB+を獲得した。インドネシア(51.8)も、2022年のDからCへとランクアップした。
アジアのほとんどの年金制度で改善が見られ、タイ(46.4)やフィリピン(45.2)など、東南アジアのほとんどの制度でより高いスコアが見られた。中国本土(55.3)、インド(45.9)、日本(56.3)、韓国(51.2)、台湾(53.6)も2022年に比べ向上している。
香港特別行政区(64.0)とマレーシア(56.0)は、指数が唯一低下した2つの制度であり、後者はC+からCに格下げされた。これはマレーシアの年金制度にとって2017年以来最悪の結果であり、純所得代替率が大幅に低下したことが主な原因と考えられる。
マーサージャパンで年金コンサルティング部門 シニアコンサルタントであり、MCGPIスポークスパーソンの漆山綾香は以下のように述べている。
「資産所得倍増プラン、資産運用立国など、国として貯蓄から投資へのシフトを推し進める流れがありますが、投資によるリターンを取り込むことは、老後資産の形成においても有効です。DC型の制度で投資リターンにより年金資産を複利的に増加させている国も多くあります。企業型DC制度の投資教育は、適切な投資を行うためのファイナンシャルリテラシーを高めるだけでなく、従業員の老後への安心感を高め、企業へのエンゲージメント向上にもつながるでしょう」
拡大するAIの影響と会員にとってのメリット
本レポートでは、世界トップクラスの年金制度に加えて、年金・社会保障制度を改善し、リタイア後における生活の質を向上させる人工知能(AI)の可能性を検証している。
マーサーのシニアパートナーであり、本調査の主な筆頭著者であるDavid Knox博士は、次のように指摘する。
「資産運用会社の業務や意思決定におけるAIの活用が進むことによって、より効率的で情報に基づいた意思決定プロセスが実現し、年金加入者への実質的な投資リターンの向上につながる可能性があります。AIはまた、加入者のエンゲージメントを高め、個人の財務上の意思決定を長期的に支援すると見込まれます。いずれの進歩も、退職後の成果をあげるはずです。
しかし、本レポートでは、AIにはモデル化の課題や倫理的な懸念、最適なデータプライバシーやサイバーセキュリティの必要性など、リスクも伴うことを明らかにしました。このようなシステムを開発する際には、バイアスや不当な対応を減らすために、AIモデルに強固なガバナンスと明確な説明責任を持たせなくてはなりません。セーフガードは、年金制度が加入者の長期的な信頼を維持するために不可欠です。
AIは、それだけでは完全な答えとはなりません。常に人間の監視が求められます。このようなリスクはありつつも、AIはリタイア後の生活水準を向上させる機会を提供します。これはすべての年金制度にとって価値ある目標です」
数字で見る
世界全体では、オランダの年金制度の総合指数が最も高く(85.0)、アイスランド(83.5)、デンマーク(81.3)が僅差で続いた。最も低いのはアルゼンチン(42.3)であった。
MCGPIは、十分性、持続性、健全性のサブ・インデックスの加重平均値を用いている。十分性については、アジアで最もスコアの高い年金制度はシンガポール(79.8)、最も低いのは韓国(39)であった。持続性については、シンガポールが最高値(71.6)で、中国本土は最低値(39)であった。健全性については、香港特別行政区が最高値(87.6)だったのに対し、フィリピンのシステムはアジア圏でも世界でも最低値(25.7)だった。
出生率の低下は、一部経済と年金制度に長期的な圧力をかけ、イタリアやスペインなどの国の持続性のスコアにマイナスの影響を与えた。しかし、中国本土、タイ、シンガポール、日本を含むアジアのいくつかの制度は、過去5年間にスコアを改善するための改革に取り組んできた。
マーサー CFA協会 グローバル年金指数ランキング(2023)
マーサーCFA協会グローバル年金指数について
グローバル年金指数は、世界各国の年金制度のベンチマークとして、各制度の弱点を浮き彫りにし、より充実した、持続可能な年金給付を提供するために改革すべき領域を示している。2023年度においては、全世界の47の退職所得制度を比較し、世界人口の65%をカバーしている。2023年は、新たにボツワナ、クロアチア、カザフスタンの3つの制度が加わった。各国の制度の総合指数は、「十分性(Adequacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」に大別される50以上の項目から構成され、これら3つのサブ指数を加重平均して算出している。グローバル年金指数は、世界的な投資専門家団体であるCFA協会が主催し、モナシュ大学モナシュビジネススクールに属するモナシュ金融研究センター(MCFS)と、組織・人事、福利厚生・ウェルビーイング、資産運用のグローバルリーダーであるマーサーが協力した研究プロジェクトである。
マーサーCFA協会グローバル年金指数の全文レポートも併せてご確認ください。
CFA協会について
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