仕事の未来×組織の未来 - Work without Jobs - 新しいOSが個人の能力を100%引き出す 

03 4月 2023

本年の世界経済フォーラム(World Economic Forum)の年次総会(ダボス会議)においては、仕事や働き方の根本的な見直し等、Future of Workの議論が世界の分断や気候変動への対応等と共に大きなテーマの一つだった*1

*1Skills First: Unlocking Employment for All > World Economic Forum Annual Meeting | World Economic Forum (weforum.org)
Work's great reboot: Reflections on Davos 2023 | Mercer

 

日本企業では今、「メンバーシップ型雇用」、「ジョブ型雇用」という言葉が頻繁に論じられている。

メンバーシップ型雇用とは、会社は従業員に雇用を保障し、従業員は会社から与えられるどんな仕事にも従事するというもので、年功賃金や終身雇用が伴うことが多い。グローバル化、デジタル化、少子高齢化に伴う労働人口の減少、働く個人の多様化といった時代の大きなうねりの中で、その変革を迫られており、ジョブ型への取り組みを進めている日本企業も多い。

ジョブ型雇用とは、事業戦略を実現するための組織を構成するジョブを定義し、ジョブをベースとして、ジョブに人材を採用・アサインするという考え方だ。従業員は特定のジョブの履行を企業に約束し、企業はジョブの内容に見合った適正な対価の支払いを約束する雇用システムである。海外、特に欧米においては、日本で言う「ジョブ型雇用」は当たり前(このため、「ジョブ型雇用」という表現もない)で、既にその一つ先を行く議論がされている。すなわち、欧米で伝統的な組織の中のジョブ(ポスト)に人をアサインする仕組み=「伝統的なワーク・オペレーティングシステム(伝統的なワークOS)」の先を行く新しい考え方-「新しいワークOS」-を採用すべきであるという議論が出てきている*2

*2 Jesuthasan, Ravin and Boudreau, John W. “Work without Jobs : How to Reboot Your Organization’s Work Operating System.” The MIT Press, 2022
レヴィン・ジェスタサン、ジョン・W・ブードロー著、マーサージャパン訳『仕事の未来×組織の未来』、ダイヤモンド社、2023

新しいワークOSとは

人材の最適活用の新潮流として出てきている新しいワークOSの概念は、会社がパーパスを追求し事業戦略を遂行する上で、社内外の人的資本をどのように調達・投資・形成していくか、その選択肢の多様化を推奨している。伝統的なワークOSと新しいワークOSでは、企業(組織)が人材を活用するときの「仕事と個人の紐付けのあり方」-どのような人材がどのような働き方をするのか-が異なる。

「新しいワークOS」では、①組織を構成するジョブ(職務、ポスト)を、タスクやプロジェクトといった構成要素に分解し、一方で、②働く個人を、現在と過去の職務やポストだけで見るのではなく、能力やスキルを解像度高く把握した上で、③分解した仕事(タスクやプロジェクト)と人(能力やスキル)を最適な形に組み直す。また、新しいワークOSのもとでは、組織構造や個人の所属等にとらわれず、ジョブと個人の分解と新たな組み合わせ(再構築)が継続的に行われ、組織にもリーダーにも働く個人にも、はるかに柔軟な選択肢が与えられる。

企業と個人に求められる変化

新しいワークOSへの移行は、企業サイドから見ると、組織の構成や働き方を再定義することである。その際、会社全体で一つのソリューションを見つけるのではなく、事業の内容やステージ、階層や職種等によってそれぞれの最適解を模索することになる可能性が高い。また、一度決めたら終わりではなく、変化に対応しつづけなければならない。

伝統的なワークOSでは、従業員について、特定のジョブ(職務)の要件に合致するか否か、それ以上の情報を会社が認知していないことが多い。それに対し、新しいワークOSは、働く個人の全体(whole person)を捉えようとする。ジョブ(職務)と個人を一対一対応させるのではなく、ジョブを分解した複数のタスクと個人が持っているさまざまな能力・スキルを多対多で対応させることで、最適なマッチングを実現するためだ。

事業環境も、働く個人に求められる能力やスキルも、激しい変化にさらされている。事業戦略を遂行するためにどのような組織・ジョブが必要なのか、それに必要な人材をどこから調達するのか。人材獲得競争も激化する中で、社内でも社外でも、ある職務の全体に完璧にマッチする人材を見出すことは難しい。繰り返しになるが、仕事をタスクに分解した上で、個人の能力とのベストな組み合わせを探る必要がある。必要な人材は必ずしも正社員とは限らない。業務契約者、契約社員、パートタイマーかもしれないし、ギグワーカーかもしれない。

このような仕事の未来を働き手の立場から見ると、キャリアの選択肢が大きく広がる世界である。現在定義されているジョブ(職務)を任される正社員として雇用されることに限らず、自分は何ができるのか、得意なのか、スキルは何か、将来的に目指すキャリアを実現するために何を高めていったらよいのかを特定し、人間性を含めて磨き、蓄えていくといったキャリア自律が求められる。

仕事の未来×組織の未来に向けて

もちろん、自社の現時点の従業員の特性・強みは何か、それを最大限活用するにはどうしたらよいかを考えることも必要であり続ける。常に大きな割合で人材を社外市場と入れ替え続け、新たな人材にゼロベースで自社のパーパスを共有し、価値観を浸透させるのは容易ではないからだ。

一方で、自社・組織の事業環境の変化、戦略の発展に合わせ、社内外の(かつグローバルな)労働市場から幅広く、またさまざまな働き方の人材から、最適な人材を選定することも重要になってくる。

仕事のあり方の変化、AI、ロボティクス等を含む仕事の進め方の選択肢の増加・多様化の中で、社内外の人的資本をどのように組み合わせて、活用していくのか。複雑で多様な選択肢の中から常に最適解を考え続ける必要があるのではないだろうか。

 

『仕事の未来 x 組織の未来 WORK WITHOUT JOBS』(発行:ダイヤモンド社)の詳細も併せてご確認ください。

著者
松見 純子

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