企業年金におけるガバナンスプロセスの向上を考える~OCIOの活用~

企業年金の運用は、運用機関に委託し行われるが、資産配分や委託先の決定等、運用結果に大きな影響を与える投資判断は企業年金自身で行う。運用結果の90%以上は企業年金の投資判断によるものと言え、「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置」は企業の財務状況にも大きな影響を与える。

コーポレートガバナンス・コードの改訂と企業年金の資産運用におけるOCIOの活用

2018年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとして機能発揮】として「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組み」が求められるようになった。

確定給付型の企業年金の資産運用は運用機関に委託し行われているが、資産配分、委託する運用機関および運用商品の決定等の運用結果に大きな影響を与える投資判断は、企業年金が行っている。運用結果の90%以上が、委託された運用機関の投資判断ではなく、企業年金の投資判断によるものであると言えるため、「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置」は運用結果に大きな影響を与え、企業の財務状況にも大きな影響を与えることになる。

その重要な「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置」には、社内での人材育成、外部から専門人材を採用する、外部の専門家の力を借りるという3つの方法がある。社内での人材育成については、大多数の企業にとって本業ではない資産運用の専門人材を育成することは容易ではない。外部から人材の採用についても、資産運用業界の仕事は細分化されていること等から、企業年金の運用に必要な幅広い知識、経験等を持つ適切な人材を見つけ、採用するのは難しい。3つ目の外部の専門家の力を借りるのが最も望ましく、現実的な選択肢であると考えられ、金融庁の投資家と企業の対話ガイドラインも、「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置(外部の専門家の採用も含む)」となっている。

外部の専門家の力を借りる場合、これまではコンサルティング会社を採用し、アドバイスを受けながら、企業年金が資産配分、委託する運用機関、運用商品の決定等の投資判断を行うというのが一般的であった。欧米では、更に一歩踏み込み、企業年金が行っている投資判断を専門家であるコンサルティング会社にアウトソースするアウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー(*OCIO)が急速に広がっている (図表1)。

(図表1)OCIO運用残高の推移
この動きには、金融危機の経験、その後の低金利環境等から、より複雑な資産運用、迅速な投資判断と実行といった企業年金の資産運用の高度化が必要となり、それを解決する方法として、企業がアウトソース(OCIO)を採用したという背景がある。実際、米国におけるOCIO採用理由として、半数以上の基金がガバナンスプロセスの向上をあげている(図表2)。日本においても、コーポレートガバナンス・コードへの対応、資産運用の高度化の対応の選択肢の1つとして企業年金の資産運用のアウトソースを検討するべきであり、それが最終的には株主、従業員といったステークホルダーにとっても有益であると考える。
(図表2) OCIOマネージャーの採用理由

「OCIO」とは何か?

そもそも、「OCIO」は、年金運用に関する意思決定、投資実行、そしてその後のモニタリング等の全部あるいは一部を、基金に代わって執り行うサービス提供者、或いはサービスそのものを指している。

前述の通り、年金は限られた人的リソースの中で、高い専門性とその継続性を維持し、効果的な運用成果を達 成する必要がある。OCIOはその目的を達成するために特化した包括的な運用支援サービスである。OCIOは、狭義ではマネージャーオブマネージャーを通じた運用委託形態や運用手法を指していることもあるが、その本質は、特定の資産クラスにおけるマネージャー選択、アセットミックスに関する意思決定、そしてその実行の高度化を目指すガバナンス支援サービスである。

例えば、人的リソースを十分に確保できない年金基金の場合には、基金の意思決定のより広範な仕事をOCIOマネージャーに委託することができる。一方、すでに専門性をもった運用人材を組織内で有する年金においては、運用執行やコスト管理など自社で内製化出来ない専門性や業務を選択的にアウトソースすることも可能で、年金投資家ごとにカスタマイズされることが特徴である。

さらに、こうした運用における意思決定の高度化は、近年は年金だけではなく運用の専門チームを有した機関投資家も、OCIOの一部の機能を使い運用プログラムの高度化を追求しており、年金向けサービスからより広範な投資家への適用が拡大している。

コンサルタントの役割とOCIOの活用方法

企業年金が資産運用コンサルタントの助言を活用しな がら、投資意思決定を行うことは、海外や日本では一般的なプラクティスとして浸透している。それではコンサルタントを採用している企業年金基金がOCIOも採用する場合にはどのような意思決定に違いがあるだろうか。一般的な年金基金は、コンサルタントから助言を受けて、最終的な年金の意思決定は、資産運用委員会や理事会など公式の意思決定の場を通じて行われる。最終的なポートフォリオは、年金基金が各運用会社と個別に締結する投資一任契約等を通じて構築される。(図表3)
(図表3) 従来の年金意思決定モデル
(図表4)OCIOの意思決定と執行モデル

OCIOの委託形態

それでは具体的に年金基金のポートフォリオのうち、どの部分をOCIOマネージャーに委託することになるのだろうか。欧米では資産のすべてを委託するフル(全体的)アウトソース型が約70%程度を占めると言われているが、日本においては総幹事のような広範なサービス提供者がいるため、フルアウトソースが普及するかは今後の進展を見守るしかないが、マーサーでは、現在日本でのOCIO普及には、主に以下のような2種類の部分的アウトソースが有力な検討選択肢であると見ている。

まずはマルチアセット型のOCIOである。日本の資産運用において、バランス型運用は従来から提供されており、一部ではマルチアセット型が進んでいる。それらとマルチアセット型のOCIOサービスとは何が異なるのであろうか。その答えはガバナンスであり、運用の高度化である。外形的にはバランス型運用の委託に見えるのであるが、OCIOの本質はガバナンスの高度化サービスである。大規模年金投資家であれば、これらの資産配分や採用マネージャーは高度にカスタマイズされ、まさに年金基金が意思決定し、それらを執行して、構築すべきポートフォリオそのものを提供しているのである。その過程における意思決定の高度化、執行の迅速化、その後のモニタリングのアウトソースを通じて、年金の意思決定を支援する。これがOCIOの使い方である。

部分的アウトソースモデル(1):マルチアセット型
また、日本においては、特定の資産クラスにおいても、OCIOモデルが普及すると考えている。例えば、外国株式やオルタナティブ資産におけるアクティブ運用会社の採用、契約、モニタリングと入れ替え、そうしたものを外部の専門家に委託することで、年金基金はより重要な意思決定に業務上のリソースを活用することができる。
部分的アウトソースモデル(2):アセット特化型
今後、日本市場の固有性を考慮しつつ、投資家とサービス提供者の双方が工夫しながら、OCIOサービスが日本でも発展すると見込まれる。
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