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人材ポートフォリオとは?重要視される理由や作成方法、活用事例を紹介
企業が持続的に成長していくためには、人材の力が不可欠です。しかし「中長期的な経営戦略の遂行に必要な人材を計画的に採用・育成できているだろうか」「社員の能力を最大限に引き出せているだろうか」といった悩みを抱える経営者・人事責任者の方も多いのではないでしょうか。
人材の重要性が高まり、自社人材の能力をより細かく把握することが求められる中、注目されているのが「人材ポートフォリオ」です。活用することで、属人的な判断や経験則・前例踏襲に頼った人事から脱却し、客観的なデータに基づいた戦略的な人材管理が可能になります。
本記事では、人材ポートフォリオの概念や、なぜ重要視されているのか、どのように作成し活用していけばよいのかについて解説します。人材戦略をより強固にするヒントにしてみてください。
INDEX
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2.1. 『人的資本経営』への注目や情報開示の国際的な流れ
2.2. 事業環境の変化にともなう経営戦略の変更
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3.1. 自社が求める人材像を可視化できる
3.2. 個々の人材配置とキャリア支援を科学的に最適化できる
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4.1. 戦略に基づき必要な人材を定義する
4.2. ポートフォリオの枠組みに基づく人材の可視化
4.3. 生じたギャップに対する打ち手を検討する -
5.1. 中長期的な視点で設計する
5.2. 従業員の特性把握を、従業員のメリットに結びつける
5.3. 継続的なマネジメントサイクルに組み込む -
1. 人材ポートフォリオとは?
人材ポートフォリオとは、企業が持つ人的資本の構成を示すものです。具体的には「社内のどこに(組織、階層等)」「どのような人材が(職種、グレード、保有スキル等)」「どれくらい(人数)」いるかが可視化されます。
自社の人的資本の現状を客観的かつ体系的に把握できれば、経営戦略に基づいた最適な人材配置や採用、育成計画が可能になります。人材ポートフォリオとはいわば、タレントマネジメントを効果的に推進するための「人材構成の可視化ツール」です。
2. 人材ポートフォリオが重要視される理由
人材ポートフォリオが重要視される背景には、大きく2つの理由が存在します。
- 『人的資本経営』への注目や情報開示の国際的な流れ
- 社会情勢の変化にともなう経営戦略の変更と、それにともなう人材戦略の必要性
これからの企業経営では、人材をコストではなく「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことが求められます。その羅針盤となるのが、客観的なデータに基づいて人材を可視化する人材ポートフォリオなのです。
ここからは、上記で挙げた2つの理由について詳しくご紹介します。
2.1.『人的資本経営』への注目や情報開示の国際的な流れ
人材ポートフォリオの重要性が高まったきっかけは、政府による「人的資本経営」の推進です。人的資本経営とは、人材を単なるコストとしてではなく企業価値を高める「資本」としてとらえ、積極的に投資・活用することで、持続的な成長を目指す経営のあり方を指します。
そして2022年に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営を成功させるための重要な要素として「動的人材ポートフォリオ」の計画と実践が不可欠だと示されました。
さらに、2023年3月期決算より、大手上場企業約4,000社には人的資本の情報開示が義務付けられました。そのため、人材ポートフォリオを活用して自社の人的資本の状態を客観的に把握し、投資家へ説明する必要性がより一層高まっています。
参照:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」
人的資本経営については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:人的資本経営とは?取り組む意義や人的資本の情報開示の進め方を解説
人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン「ISO 30414」も、人材ポートフォリオが注目される理由の一つです。ISO 30414は、生産性や採用コスト、スキルといった11領域において、企業が人的資本に関する情報を測定・開示するための「共通のものさし」といえます。
ISO 30414が示す指標の多くは、人材ポートフォリオの作成過程で収集・分析するデータと密接に関連します。例えば、従業員の構成、多様性、コンプライアンスなどは、まさに人材ポートフォリオの根幹となる情報です。
2.2. 事業環境の変化にともなう経営戦略の変更
ここまで情報開示について説明しましたが、さらに大事なのが、企業経営そのものについて考えることです。事業を取り巻く環境が急速に変化していることこそ、人材ポートフォリオが重要視される大きな理由です。将来の事業環境が見通しにくい現代において、企業は常に経営戦略の見直しを迫られます。
事業の方向性を大きく変える際には「どのような人材が必要か」というあるべき人材構成も当然変化します。例えばDXを推進するならば、DXのあり方を構想し、業務変革を実現できる人材の比率を高める必要があるでしょう。
このような戦略の変更に対応するには、現状の人材構成を把握し、理想とのギャップを可視化する人材ポートフォリオが欠かせません。そして、そのギャップを埋めるために必要なタレントマネジメント施策を実施することが、経営戦略の達成につながります。
不確実な時代に戦略を実行する上で、人材ポートフォリオの重要性はますます高まっていくでしょう。
3. 人材ポートフォリオを作成するメリット
3.1. 自社が求める人材像を可視化できる
3.2. 個々の人材配置とキャリア支援を科学的に最適化できる
4. 人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオの作成は、次の3つのステップで進めます。
- 戦略に基づき必要な人材を定義する
- ポートフォリオの枠組みに基づく人材の可視化
- ギャップへの打ち手検討
やみくもに作成しても意味のあるポートフォリオは完成しません。自社の目指す姿を明確にし、そこから逆算して必要な人材を定義し、現状との差分をいかに埋めていくかが重要です。
4.1. 戦略に基づき必要な人材を定義する
人材ポートフォリオはあくまで経営目標を達成するための「手段」であり、作成自体が目的ではありません。「会社としてどこを目指すのか」というゴールを明確にすることで、初めて人材ポートフォリオ作成の目的や軸が定まります。
どのような情報を収集し、どのような軸で人材を分類すればよいのかが明確になれば、人材ポートフォリオが戦略的な意味を持つようになります。戦略との連動性を欠いた人材ポートフォリオは、分析するだけで終わってしまうでしょう。
次に、どのような人材が必要かを定義し、分類するための基準を作成します。以下にいくつかの分類方法とその特徴をご紹介しましょう。
4.1.1. 職種×ジョブグレード
しかし、こうしたジョブのマップを自社独自の基準だけで客観的に設定するのは容易ではありません。マーサージャパンでは、世の中に一般的に存在するジョブをカタログ化した「Job Library」や、グローバルスタンダードな職務評価手法「IPE(国際的職務評価法)」を活用した分析サービスを提供しています。
精度の高い人材ポートフォリオを作成したい企業様は、ぜひ詳細をご確認ください。
4.1.2. 志向性×業務特性
もう一つは、従業員の「志向性」と担当する「業務特性」を軸にする分類です。
- 縦軸に「創造(新しい価値を生む)⇔運用(決められた業務を遂行)」
- 横軸に「個人(自分の成果を重視)⇔組織(チームワークを重視)」
このように、従業員の志向と業務内容のマッチ度を測るのに有効です。
「海外ビジネス強化のため、グローバルに適性があるリーダー人材を発掘・育成したい」「従業員一人ひとりの強みやキャリア志向を活かした適材適所の人材配置を実現したい」などの場合に適しています。
マーサージャパンでは、人材戦略・人材マネジメントの課題特定・解決に役立つピープルアナリティクスコンサルティングをご提供しています。詳しくは下記のページをご覧ください。
4.1.3. 人材の価値×人材の希少性
3つ目は、自社にとっての「人材の価値」と、市場における「人材の希少性」で分類する方法です。
人材を「価値も希少性も高い(中核人材)」「希少性は高いが価値は限定的(独自人材)」「価値は高いが希少性は低い(基盤人材)」「価値も希少性も低い(汎用人材)」の4つに分けます。
こうすることで、どの層に投資し、どの層を外部化するかといった戦略的な判断がしやすくなります。
「企業の競争力の源泉となっているのはどの人材かを特定したい」「限られた経営資源(予算、時間)をどの人材層に重点的に投資すべきか、戦略的な判断を行いたい」、あるいは「どの業務を内製化し、どの業務をアウトソース(外部化)もしくはAIなどを活用した効率化を行うかのメリハリをつけたい」という場合に有効です。
4.1.4. 業務型式×専門性
4つ目は「業務型式」と「専門性」を軸にした分類です。
- 縦軸に「業務型式(非定型⇔定型)」
- 横軸に「専門性(高⇔低)」
業務内容そのものに着目するため、事業構造と人材の関連性を分析しやすいのが特徴です。
こちらは、「DX推進やAI導入で定型業務が自動化される中で、今後どのようなスキルを持つ人材が必要になるか把握したい」「事業ポートフォリオの転換に合わせ、従業員のリスキリング(学び直し)を計画的に進めたい」「現在の事業構造と人材の関連性を分析し、将来の組織改革の方向性を検討したい」などの場合に有効です。
4.2. ポートフォリオの枠組みに基づく人材の可視化
定義した人材ポートフォリオの枠組みが完成したら、次に行うのはその枠組みに沿った「現状の人材構成」と「経営戦略上、中長期的に必要となる人材ポートフォリオ」の具体的な可視化です。このステップでは、従業員一人ひとりのスキルや経験、志向性、現在の配置状況などを、設定した分類軸に沿ってマッピングします。これにより「現在、特定の専門スキルを持つリーダー層が不足している」といった現状の課題が明確になります。
同時に、未来の事業計画や経営戦略から逆算し「5年後には、AI開発の専門家が〇名、グローバルビジネスを推進できる人材が△名必要になる」といった、将来の人材ニーズを具体的に描き出しましょう。現在の「あるべき姿」と、将来の「ありたい姿」を同じ枠組みで可視化することで、両者の間に存在する「ギャップ」が客観的に浮き彫りになります。この可視化されたギャップこそが、今後の採用、育成、配置といった具体的な人材戦略を策定する上での出発点となるのです
4.3. 生じたギャップに対する打ち手を検討する
人材ポートフォリオを作成し、現状の人材構成と将来必要な人材像とのギャップが明らかになったら、そのギャップを埋めるための具体的な打ち手を検討します。
具体的な事例を3つ見ていきましょう。
4.3.1. 事例①ギャップが見えた人材の充足
特定の分野で人材不足の課題(ギャップ)が明らかになった場合、要員計画の見直しをします。具体的には、社内人材の育成と、外部からの採用、アライアンス、M&Aでの充足、業務委託などの選択肢が考えられます。
例えば、社内人材の育成を目指す場合は、ポテンシャルのある人材を早期に選抜して戦略的な育成プログラムを実施したり、公募制度によって意欲ある人材を登用したりする方法があります。
一方、即戦力が必要な場合や、社内での育成が難しい高度な専門性を持つ人材を確保したい場合は、中途採用や専門企業からのアウトソーシングといった外部リソースの活用を計画に織り込むとよいでしょう。
4.3.2. 事例②社内労働市場の形成
会社主導の育成や配置転換だけでは、必要な人材の発掘に限界を感じる場合があります。その際の有効な打ち手がキャリア自律の促進や、本人起点での最適配置に向けた「社内労働市場の形成」です。
例えば、社内の「重要ポジション」や「不足しているスキル」を全従業員に公開し、意欲のある人が自ら手を挙げられるようにする仕組みを導入します。
こうした社内労働市場での需要を可視化すれば、これまで見過ごされてきた「隠れた適性」を持つ人材が名乗りを上げることも少なくありません。
4.3.3. 事例③成長分野や戦略領域へのリスキリング
特定の分野で将来的に価値が薄れていく可能性のあるスキルを持つ人材に対しては、安易に人員削減せず、本人のポテンシャルや意欲を見極めたうえで、成長分野や戦略領域へのスキル転換を支援する「リスキリング」が有効です。
その際、スキルマップを用いて現状のスキルを可視化し、目標との差分を埋めるための具体的な学習計画案の策定が欠かせません。従業員をコストではなく「資本」ととらえ、人材への積極的な投資で価値を伸ばす人的資本経営の考え方に沿った打ち手です。
5. 人材ポートフォリオを作成・活用する際の留意点
5.1. 中長期的な視点で設計する
5.2. 従業員の特性把握を、従業員のメリットに結びつける
5.3. 継続的なマネジメントサイクルに組み込む
人材ポートフォリオは、一度作成したら終わりではありません。その後の継続的なマネジメントに活かしてこそ価値を発揮します。人材ポートフォリオの真価は、企業の主要なマネジメントサイクルへ組み込み、継続的に運用することです。
例えば中期経営計画を策定する際には、ポートフォリオで可視化された現状の人材と将来の経営戦略に必要な人材像とのギャップを基に、より具体的な要員計画を立てることが可能です。また、グローバル人材のプールや、特定の専門領域のタレントプールを管理する場合であれば、ポートフォリオを通じて人材の出入りを把握し、定期的なアセスメント(評価)行う仕組みを構築することが重要になります。人材ポートフォリオを経営の意思決定や日々の人材管理に継続的に活用すれば、常に最適な人材の配置と育成を実現し、組織全体の持続的な成長につながります。
6. まとめ
人材ポートフォリオは、企業の人的資本を可視化し、経営戦略に基づいて最適な人材配置や育成計画を立てるための重要なツールです。人的資本経営への注目、ISO 30414の適用、そして予測困難な社会情勢の変化という現代のビジネス環境において、その重要性はますます高まっています。
人材ポートフォリオを作成・活用することで、自社が求める人材像が明確になり、現在の従業員とのギャップを把握できます。また、これにより個々に合った人材配置やキャリア支援、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
しかし、人材ポートフォリオをゼロから構築し、効果的に運用していくには専門的な知見が不可欠です。世界的なコンサルティングファームであるマーサージャパンは、人材戦略や戦略的な人員計画に関する豊富な知見とデータを持っています。
そのため、自社の課題に合わせた実効性の高い人材ポートフォリオの構築から活用まで、一貫した支援が可能です。人材戦略を次のステージへ進めたい企業様は、ぜひ一度プロの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。
また、客観的なデータに基づき、組織と個人の成長を加速させるスキルマップの活用も、戦略的な人材育成や適材適所の人員配置に有効です。こちらの記事も合わせてご覧ください。