DEI

グローバルビジョンの実現に向けたダイバーシティ&インクルージョン推進 

DEI ロールモデル対談 第8回

山田 実和 様

積水ハウス株式会社
執行役員 ESG経営推進本部ダイバーシティ推進部長

一般職として入社後、事務職を経て分譲マンション営業に従事。その後、総合職に職群転換し、人事部にて人材開発、法務部にて人権啓発を担当。2020年2月よりダイバーシティ推進部長、同年6月よりESG推進委員会 社会性向上部会長を務める。2021年4月に執行役員に就任。社外では、2021年6月より関西経済連合会D&I専門委員会副委員長も務める。

インタビュアー:中島 なつみ
組織・人事変革コンサルティング部門 アソシエイト

女性の活躍なくして会社の成長なし ― 男性社会に女性ならではの目線を取り入れ、全員が働きやすい環境へ


D&Iを経営戦略と位置づけ、取り組みを始めた背景には、どのような考え方がありましたか

積水ハウスでは、ダイバーシティ推進方針の3つの柱として「女性活躍の推進」「多様な人財の活躍」「多様な働き方の推進」を掲げています。あらゆる職種・階層において多様な人財が活躍できる状態を目指す一方、住宅業界はもともと男性社会でした。そこで2005年に、「女性の活躍なくして会社の成長なし」という考え方から女性活躍推進を本格化し、営業や施工の現場で女性が活躍できるよう取り組みを始めました。

私自身、過去に分譲マンションの営業を担当していた際に、女性の単身のお客様から「営業担当者が男性ではなく女性だったから、リラックスしていろいろなことを話せた」と言ってもらえたことがあります。その時に、お客様の多様なニーズや感性に応えるためには、会社にも多様なメンバーがそろっていることが重要だと実感しました。


現場の女性活躍推進については、具体的にどのような施策を進められたのでしょうか

営業職では、2005年当時は女性の新卒採用をほぼ実施していなかったので、まずは100人単位での女性の積極採用から始めましたが、せっかく入社しても辞めてしまうという採用後の定着が課題となりました。そのため、2007年から「全国女性営業交流会」を実施し、女性同士の横・斜めのつながりをつくることで何かあった時に相談できる体制を構築しています。今では、営業職の中で女性の割合が3割を超えている職場もあります。女性の目線ならではのお客様へのアプローチや、営業スタイルが実現されるようになったと感じています。

技術職では、もともと設計職に女性を採用していたため、施工監督職における女性の職域拡大に注力しました。施工現場では特に男性社会の色が強かったため、女性の目線を取り入れながら、ユニフォームやトイレといった環境を改善しました。女性が働きやすい環境、つまり性別に関わらず全員が働きやすい環境を目指しています。また女性施工監督の交流会や、女性施工監督の活躍推進委員会の立ち上げなど、組織として女性を歓迎し、育成する体制を整えています。

その後、女性管理職の育成にも取り組みを広げられていますね

現場の女性活躍推進を通じて若手女性が育ってきたタイミングで、2014年からは女性管理職の育成を強化しました。主任クラスの女性を対象として、「積水ハウス ウィメンズ カレッジ」という2年間のプログラムを実施しています。マネジメントスキルの学習や、実務を通じた課題解決を組み入れたプログラムで、最後は経営層に対するプレゼンテーションを行うのですが、経営層は若手目線での課題解決のアイディアを聞けることを楽しみにしています。本人にとっても、アイディアを発信することがその後の活躍機会につながったり、プログラムを通じてネットワークが広がったり、とても良い機会になっています。

子供は母親だけではなく、父親にも育てられる権利がある ― 男性の育休取得を通じて、「本人と家族の幸せ」を実現

男性の育休取得にも、早期から取り組まれていますね

「本人と家族の幸せの実現」を目標として掲げ、2018年9月から、全ての男性従業員に対して1カ月以上の育休取得を推進しています。当初は、「自分は外で働き、専業主婦の妻が家で育児・家事をするという役割分担ができている」と考える従業員も多くいました。一方、子供目線で考えると、彼らには母親だけではなく父親にも育てられる権利があります。「親目線の思い込みによって、子供の権利を奪わないように」という考え方をベースに、男性の育休取得を促進してきました。

取り組み開始から今年で4年目ですが、男性の育休取得が働き方改革につながったり、接客における共感力や提案力の向上につながったりと、様々な波及効果が見えてきました。また男性従業員のパートナーである女性が、職場復帰や第二児の出産・育児を前向きに考えるようになったなど、家庭へのポジティブな影響もあります。

 

社外からの反応はどのように変わってきましたか

早期から男性の育休取得に注力したのもあり、最近では他社や自治体からのヒアリング依頼が増えてきました。昔の論点は「男性が育休を取得するか否か」でしたが、最近は「どうしたら男性が育休を取得できるか」に変化してきました。

また、お客様からの期待も変わってきました。昔は「お客様のために休みを取らずに働く」といった考え方もありましたが、今は「家族を幸せにしている人に自分の家を任せたい」といったお声を時折いただきます。男性の育休取得を進めることで、より選ばれる会社になってきたと感じています。

今後は積水ハウスの中だけでなく、社会全体で男性の育休取得が当たり前になってほしいと考えています。そのため、毎年9月19日を「育休を考える日」とし、社外向けの「男性育休フォーラム」の実施や、「男性育休白書」の発行に取り組んでいます。

カギは、全従業員を巻き込む働きかけ、経営トップのコミットメント、結論を求めない対話

D&Iの取り組みを進める上で、どのような考え方を大事にされていますか

「一部の従業員だけでなく、全従業員に常に新しいチャレンジを」というアプローチを大事にし、全従業員を巻き込むため、あらゆる方法を活用して従業員へ働きかけています。例えばD&Iに関する様々なテーマでの研修を実施しているほか、今年から全管理職を対象とした「ダイバーシティマネジメントフォーラム」では、「育児・介護・病気の治療など、様々な事業を抱える従業員をマネジメントするためには上司の役割が重要」といったメッセージを発信しています。

また経営トップのD&I推進に対する強いコミットメントを、従業員へ伝える機会を多く設けているのも、全従業員を巻き込むためのポイントの一つです。研修や交流会などで経営トップからのメッセージを発信したり、その様子を動画で全社に配信したり、工夫を凝らしています。

全従業員を巻き込んで取り組みを進める中で、ハードルを感じられることはありますか

D&Iは成果が見えにくいため、従業員がなかなか意義を感じづらい側面があります。そのため、D&Iが進んでいる職場とそうでない職場があり、課題も異なります。各職場のステージや課題に応じて、アプローチを変えながら対応するようにしています。

例えば女性活躍推進については、まだ女性が定着しにくい職場も一部あるのが現状です。その背景には、女性本人ではなく、本人を取り巻く職場や上司の理解に課題があると考えています。こういったケースでは、結論を求めない対話を通じて、実体験を交えて取り組みの目的や意義を上司に腹落ちさせていくことが効果的だと考えています。

D&Iの推進とは、働き方の選択肢を増やし、従業員がいきいきと活躍できるようにすること。従業員の幸せが、お客様や社会の幸せにつながっていく

最後に、グローバルビジョンの実現に向けて、D&Iを推進することがどのような役割を担っているかを教えていただけますか

“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンの通り、私たちは、住まいを通じてお客様に幸せを提供する仕事をしています。分譲マンションの営業を担当していた際に、お客様に「このマンションにはこんな設備や機能がある」という情報だけではなく、「この設備や機能を使ってこんな生活を実現できる」と伝えることが大切だと学びました。ライフスタイルや家族構成、価値観も多様なお客様に対して、「ここに住んだらいかに幸せになれるか」を考え、住まいを提供することが求められます。

そしてお客様に幸せを届けるためには、まず従業員が幸せでなければなりません。D&Iの推進とは、働き方の選択肢を増やし、従業員が自律的にキャリアを選択していきいきと活躍できるようにすることだと考えています。例えば、男性の育休取得を推進する背景には、必ずしも「結婚して子供を持つことが幸せ」という考え方があるわけではありません。子供を持つという選択をした従業員に対して、男性が当たり前に育児に参加できる選択肢を用意することが本人の幸せにつながるという考え方から、男性の育休取得を推進しています。

D&Iを語る際に、そのメリット・デメリットを問われることが多くあるように感じます。一方で、積水ハウスがD&Iを経営戦略と位置づける根底には、「従業員の幸せのため」というシンプルな考え方があります。経営目線の裏に従業員目線を持って取り組みを進めることが、従業員の幸せ、そしてお客様と社会の幸せにつながっていくと考えています。

 

2022年10月19日 対談実施

写真撮影のために一時的にマスクを外しています

【編集後記】

積水ハウスでは、従業員の幸せにフォーカスし、D&Iを経営戦略として位置づけています。山田様のお話を通じて、その根底には、「自分たちはお客様や社会に何を提供するのか?より良いものを提供していくために何が必要なのか?」といった、シンプルな問いがあることに気づかされました。また、「必ずしも『結婚して子供を持つことが幸せ』という考え方があるわけではない」というように、幸せのあり方自体の多様性を捉えながら、その選択肢を広げることがD&Iの推進であるという点が印象的でした。

「D&Iを経営戦略として位置づける」と聞くと、何か複雑な議論のように受け取られることがあるかもしれません。そうではなく、シンプルな問いに対する答えや、従業員の幸せを実現するビジョンを持ってD&Iを語るからこそ、そこに納得感が生まれ、取り組みの強い推進力につながるのではないでしょうか。

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