DEI

ダイバーシティ&インクルージョン施策のコアとなる「社員ネットワーク」 

DEI ロールモデル対談 第6回

笠井 直緒 様

野村證券株式会社
取引法務部 4課長

野村證券株式会社に新卒で入社。海外の中央銀行等に対する債券営業を経て金融商品の契約書等を作成する企画部門(現在は法務部門)へ異動。様々な金融商品や金融サービスに関するリーガルアドバイスを提供する役割を担い、2015年7月より3課長として、その後2020年9月より4課長として組織を統括。また、2022年1月よりダイバーシティ&インクルージョン(D&I)ネットワークの一つであるライフ&ファミリーネットワークにおけるリーダーも務めている。私生活では2児の母。

大谷 英子 様

野村ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進室 ダイバーシティ&インクルージョン推進課長

野村證券株式会社に新卒で入社。入社後成城支店でリテール営業に従事。本社へ異動後、ライフプランサービス部での制度営業・年金に関するソリューション営業や富裕層向けのサービス提案等の仕事などを経て、現職。「あらゆる人材が最大限に自らの力を発揮できる環境を整えたい」という思いから、野村のD&I浸透の各種活動を行っている。私生活では2児の母。

北村 裕介 様

野村ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進室 ダイバーシティ&インクルージョン推進課 ヴァイス・プレジデント

映像製作会社、産業科学技術系翻訳会社でプロジェクトマネージャーとして勤務後、2015年より野村證券株式会社に入社。入社後は人材開発部のダイバーシティ推進チームに所属し、現在はサステナビリティ推進室ダイバーシティ&インクルージョン推進課に所属。ダイバーシティ&インクルージョン施策の企画・戦略と社員ネットワークの事務局を担当。国家資格キャリアコンサルタントを取得。ゲイであることを公表して勤務している。


インタビュアー:須藤 実彩
組織・人事変革コンサルティング部門 アソシエイト

周囲を巻き込み、チーム全体で成果達成を目指すスタイルへ

笠井様のご経歴及び現在のお仕事について教えてください

(笠井様)2003年にアメリカの大学を卒業後、野村證券に新卒で入社し、今年で19年目になります。入社当初は債券セールスとして、海外の中央銀行に日本の国債などを販売する業務をしていました。その後、現在の部署である取引法務部に異動し、お客様へ金融商品を販売するための資料や契約書作成、金融サービスに関するリーガルアドバイスを提供する業務に携わっています。7年前に課長になり、これまで2つの課をマネジメントしてきました。

キャリアのターニングポイントとなった出来事について伺えますか

ターニングポイントは4つあります。1つ目は若手社員の頃の出来事です。実務経験をとにかく積もうと思い、新しいこと・難しいことに果敢に挑戦していたところ、残業時間が長くなり体調を崩してしまいました。その時、継続的にパフォーマンスを上げるためには健康が大切であり、自分一人で頑張るのではなく、自分が得た知識や仕事のノウハウを周囲に伝え、チーム全体として成果を最大化する必要があると気付きました。そこから、自らがやるべきことの優先順位をつけ、周囲のメンバーにも仕事を分散し、必要に応じてフォローするように仕事に取組むスタイルが変わりました。

2つ目のターニングポイントは、1人目の子供を出産した時です。復帰した際に、上司に「あれも、これもやりたい!」と話したところ、「肩の力を抜いて楽しみなさい。あなたが、どのようにキャリアを築いていくのか、周りの人は注目している」と言われ、ハッとしました。出産前の仕事へのスタイルを変えずにあれもこれもと手を出すのではなく、時間に限りがある中においてもパフォーマンスをしっかり追求するという姿を周囲の方々に見せたいと思い、効率的に業務をこなし成果を出すことを自身への挑戦に位置づけ意識的に仕事に取組みました。

3つ目は、仕事にも慣れ「省エネ最短距離」での落としどころが見えるようになってきた頃に、当時の上司から「結論ありきでなく、いろいろな選択肢を考え、ロジックを詰めて最善の判断をするべきだ」という指摘をいただいたことです。それまでは、最短距離で落としどころを見つけようと考えていましたが、様々な観点から検討し、時間をかけてロジックを組み立てた上で利害を調整する重要性を教えてもらいました。

4つ目のターニングポイントは、課長就任です。それまでも、いかにチームとしてパフォーマンスを上げるかを意識していたため、課長になることに抵抗はありませんでした。ただ、課長として課員と同じ目線ではなく全体を俯瞰的に捉えた上での発言が求められ、リーダーになる上で必要な意識変革に取り組むターニングポイントとなりました。

管理職になることについては、どのような印象をお持ちでしたか

仕事ぶりを見ていて、楽しそうだなと思っていました。実際に管理職に就いてからは、プレイヤーとしてだけ関わる時よりも高い視座でプロジェクトに携わる局面が増えました。その分、難しい判断を行う必要があるなど苦しい局面もありますが、自身がきちんと判断・発信することで、物事が前に進んでいく局面を体感でき、非常にやりがいを感じています。

社員ネットワークの存在が一歩を踏み出す原動力に

キャリア形成に当たり、役に立った周囲からのサポートはありましたか

(笠井様)社員ネットワークの存在は大きかったです。1人目の子供を出産後、初めて社員ネットワークのランチイベントに参加しましたが、先輩社員の経験談を聞き、「普段から上司やチームメンバーとこのようにコミュニケーションすれば、子供が熱を出しても帰りやすくなる」といったTipsを学びました。以降、定期的にイベントに参加し、自身と同じような環境で活躍する周囲の姿に背中を押されました。

 

今お話に挙がった社員ネットワークについて概要をお伺いできますか

(北村様)社員の自主的な運営によるネットワークで、役員の支援のもと、情報発信や啓発イベントの企画・運営を進めるとともに、社外との合同イベントも開催しています。社員ネットワークがスタートしたのは2010年で、現在国内にあるネットワークは、①L&F(ライフ&ファミリー)②WIN(ウーマン・イン・ノムラ)、③ALLIES(アライズ・イン・ノムラ)の3つです。日本の登録メンバーは約2,500人で、社内イントラネットにイベント情報を掲載する他、メールで情報を配信しています。

 

社員ネットワークの運営はどのように行われているのでしょうか

(北村様)社員ネットワークの運営メンバーはそれぞれ10名ほどおり、全員公募を通じた立候補です。リーダーに関しては、適任の方を事務局から推薦しており、笠井さんにはL&F(ライフ&ファミリー)のリーダーを引き受けていただいています。

 

ライフ&ファミリーでは具体的にどのような活動を行っているのでしょうか

(笠井様)育児・健康・介護それぞれのトピックに関し、取り上げるテーマを決め、講習会や座談会の形式で定期的にイベントを実施しています。参加者からは、イベントを通じて、通常業務では見えない側面を互いに知ることができた等の嬉しいメッセージをもらいました。私たち運営メンバーは、参加者に少しでも気付きを与え、また、より多くの人と関わる貴重な機会の提供を意識し、活動に取り組んでいます。

社員ネットワーク開始から10数年経ちますが、社内文化の変化を感じることはありますか

(大谷様)私が初期リーダーで、笠井さん達が次世代のリーダーです。私たちの話を聞いて、今リーダーを引き継いでくれている、というつながりが素晴らしいなと感じます。以前は、登壇者を探す際に、育児をしながら仕事をしている社員を見つけ出すことが大変でしたが、今は「私の話で良かったら話すよ!」と誰もが自分の経験を話してくれるようになってきました。仕事と育児の両立が特別ではなく普通のことになり、悩みを共有できるメンバーが増えてきたなと思います。

(笠井様)私が一番初めに参加した社員ネットワークのイベントで、キラキラ輝いていた方が大谷さんでした。大谷さんをはじめとする方々がキャリアを構築して下さったからこそ、自分たちの世代が一つ上のキャリアを目指すことができているので、本当に感謝しています。

 

ライフ&ファミリーの今後の展望をお聞かせいただけますか

(笠井様)社員ネットワークの活動は、目に見えて成果が上がるものではないと思います。そのため、地道に活動を続けていくことをモットーに、より多くの方々に興味をもっていただき、皆で社員ネットワークの活動を共創していければと思っています。また、オンライン開催により、全国の支店の方々が参加できるようになったメリットもありますが、対面と比べ自分の同志となる社員を実感しづらい、という意見もあったため、今後はオンラインとオフラインイベントの両方を同時開催するなど工夫していきたいです。

行動計画達成に向け、多様な角度から複数の施策を実施


貴社のD&I推進施策について教えていただけますか

(大谷様)女性の管理職比率の引き上げはもちろんですが、今後は部店長に占める女性の比率を引き上げ、若い世代からキャリアへの不安を除いていけるようにしたいです。具体的には、行動計画の通り、2025年4月までに女性部店長比率10%を達成することを目標に、上級管理職向けのコーチングに取り組んでいます。

(北村様)また、多様なキャリアの経験や、視野を広げることを目的に、管理職手前の社員(転居を伴う異動をしない職種を含む)を対象に、1年間本社業務の経験ができるようなトレーニー制度を設けています。

 

D&Iをさらに推進していくために有効だと思う施策はありますか

(大谷様)多様な人材が活躍できる職場風土づくりを行うにあたり、組織における管理職の影響は大きいと考えています。上司の思い込みが部下の成長経験を阻害しないよう、管理職向けの研修等のアプローチが重要だと考えています。また、グループCEOがD&Iの中でもインクルージョンが大事であるというメッセージが、D&Iを推進していく追い風となっています。

(笠井様)上司が子育てをしている部下に過度に気を使ってしまい、チャレンジングだと思われる課題について「やってみない?」という声掛けさえもしないケースもあると思います。「プライベートが大変だろうから時間外業務を頼まないようにしよう」など過度に気を遣う方が減っていくよう、意識変革が必要だと思います。

(大谷様)上司の行動や意識の変化も必要ですが、自分から発信し挑戦してみることも大事ですね。

(北村様)自分の意志や希望を開示するタイプもいれば、言わないタイプの方もいるので、どう引き出すのかも大事だと思います。男性マネージャー向けの傾聴スキル、コーチング研修もより充実させていきたいです。

リスクを考えず、まずは一歩踏み出すことが肝要


最後になりますが、読者へメッセージを頂けますか

(笠井様)新しいことをやる時、まずは何も考えず「倒れるように」一歩踏み出そうと意識してみてください。今の自身のステータスを変えるのは勇気が必要です。必要以上に「もし失敗したら・・・」や「時間の制約があるから・・・」などネガティブに考え込んでしまい、機会を断ってしまうのは残念なことです。いざやってみると、自身が苦手な局面に出くわしたとしても仲間が盛り立ててくれたり、時間の制約があったとしても、意外と時間もやりくりできると思えるはずです。また、同じ立場の人に工夫の仕方を聞くなど、自ら情報を取りにいくことで解決できるかもしれません。考え過ぎず、まずは一歩踏み出してみてください。

(大谷様)情報過多の現代、情報頼りになり固執してしまうのは良くないと思います。私自身も、キャリアの中で苦労が多かったですが、今は伏線回収のように、「あの時があったから」と思えることが多いです。人生は長いので、その瞬間で見たら辛くても、振り返ってみたら将来の糧になるはずです。笠井さんも言っているように、まずは一歩を踏み出し新しいことに挑戦してみてください。

 

2022年5月12日 対談実施

写真撮影のために一時的にマスクを外しています

【編集後記】

本インタビューでは、前段で笠井様のキャリアストーリーをお伺いし、後段で社員ネットワーク及び野村ホールディングス株式会社のD&I推進施策についてお伺いしました。同社においては、社員一人ひとりが活躍できる環境をつくるべく、トップダウン及びボトムアップの双方向で、D&I推進に向けた施策が進んでおり、環境が整備されていることを実感しました。

また、情報社会を生きる世代にとって、一次情報を深読みしすぎた結果、行動に制限をかけてしまった経験は誰もがあると思います。新たな機会に対しすぐに飛び込むことを難しいと感じる際には、「倒れるように」一歩踏み出し、その先は挑戦してから考えれば良い、と感じました。

同性のロールモデルがなかなか存在しなかった時代においても、周囲のサポートを得ながら女性活躍の門戸を開いてくださった方々のバトンを受け継ぎ、次世代の我々が新たな一歩を踏み出す時が来ているのではないでしょうか。

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