2025年のグローバルM&Aの見通し 

2025年、グローバルM&Aは、移り変わる経済状況、変化する政府政策、急速な技術変革、及び戦略的優先事項に関する再評価の中で形づくられています。 

北米、ヨーロッパ、アジア及びラテンアメリカといった主要経済地域のMAチームの責任者たちは、この状況を慎重ながらもおおむね楽観的に見通しています。金利、地政学的な緊張及び規制の不確実性といった懸念材料が依然として存在する一方、いくつかの追い風により、慎重な姿勢が続いていたMA取引が再び活発化すると期待されています。これら見解を総合すると、2025年は戦略の再調整、運用の厳格化及び変革的なM&A取引を通じた成長への注力が想定される年になることが示唆されます。

徐々に改善しつつも依然として複雑なMA市場

米国からヨーロッパ及びアジアに至るまで、2025年、M&Aの市況はMA取引が緩やかに増加すると示唆しています。北米では、プライベート・エクイティ(PE)ファンドが記録的に高水準の手元資金を抱え、取引の実行が急務となっています。資本コストの改善、潜在的に低下傾向の金利水準及びより有利な財政政策によって、事業会社及びPEファンドがともにMA市場へ戻りつつあります。その一方で、関税をはじめとする米国の政策や民族主義的感情の高まりが買収や事業のカーブアウトを通じた事業の再編や多角化を企業に促しているため、サプライチェーンの相互作用は依然として注目されています。

ヨーロッパでは、MA環境は全面的な拡大というよりもむしろ安定化しているという傾向が顕著です。ヨーロッパ大陸M&A の取引件数は少なくなっているものの、取引バリュエーションは拡大しているという傾向に落ち着いています。例えば、ドイツ、オーストリア及びスイス(DACH)地域では、テクノロジー、メディア及びテレコミュニケーション(TMT)の取引件数が少ないため、より広域な欧州市場にやや遅れをとっています。同時に、最近の政治的変化によって経済的信頼が強まった英国には、楽観的な理由があります。この地域全体で、PEファンドの売却案件の積み残しと変革的な取引へのニーズがM&Aの活動を促進する見込みがある一方で、正確なタイミングはまだ不透明です。自動車産業などのエネルギー集約型産業に対する継続的な圧力は、投資の意思決定や業界特有の逆風を乗り切る必要性に影響を与えるでしょう。

アジアでは、韓国のようなM&A市場が貿易や安全保障をめぐる緊張など、地政学的・政策的リスクの高まりに対応しています。高金利及びバリュエーションギャップの継続によってM&A取引が制約されているため、回復は遅いと予想されます。しかし、このような慎重な状況下でも楽観的な見通しが浮上しています。最終的には、世界的な選挙、金利動向及び政治的不確実性の漸進的な解消が、2025年後半から2026年前半にかけてM&Aの加速化へと道筋をつける可能性があります。

ラテンアメリカの見通しは、インフレの安定化の追求、事業移転・アウトソーシングの機会、及び製造・技術・エネルギー・物流への戦略的投資などに関する多くの世界的な相互作用を反映しています。政治的安定と経済改革は、勢いを維持するために極めて重要であり、メキシコやブラジルのような国々はサプライチェーンの移転と天然資源主導の成長に乗じることができます。ラテンアメリカ全域の企業がテクノロジーを導入し活用するにつれ、国境を越えた視野を持ち、国際的なパートナーシップを構築して競争優位性を獲得しようとするでしょう。

変革的な取引と戦略的優先事項の転換

すべての地域に共通するテーマは、従来のコストシナジーを超えた変革的な取引の増加です。新しいビジネスモデルへの転換、デジタル機能の強化及び進化する顧客ニーズへの対応のためにM&Aを活用する企業がますます増えています。多くの場合、これらの買収は製品だけではなく技術プラットフォーム、AIツール、専門分野の人材の獲得を目的としています。

この変化は、企業がポートフォリオを合理化しコア事業に集中する中で、事業のカーブアウト取引や売却が急増していることからも明らかです。非中核資産を売却することで、企業はエネルギー転換、デジタルインフラ及び先進的製造プロセスといった戦略的分野への投資に資本を振り向けることができます。PEファンドは、長期化する保有期間と難しい売却環境に直面しており、金融工学だけに頼らず、事業面で価値を生み出すことへの圧力が高まっています。事業面の改善と価値創造に重点を置くことは、成長を加速し、競争力を向上させ、耐久力を強化することができる買収対象を特定したいという買い手の必要性と合致しています。このような状況では、リーダーシップ能力と結果を生む力が特に重要です。

2025年にM&A取引を成功に導く要素

M&A 取引が活発化するにつれ、成功を収めた取引の特徴がますます明らかになっていくでしょう。地域を問わず、M&Aチームの責任者たちは以下の重要性を強調しています。
  • 戦略の明確さ
    M&A戦略は、より広範な企業の成長戦略と密接に整合していなければなりません。最も成功した買収企業は、技術、人材または市場での存在感のいずれかにおいて、自社のコアである強みの強化や重要な能力のギャップの解消をすることができる買収対象を特定します。特にPEファンドの買い手は、既存の投資資産を補完し戦略的な優位性をもたらすポートフォリオを求めるでしょう。
  • 厳密なデューデリジェンス
    財務、事業、人的資本に関するデューデリジェンスが重要となります。これは従来の貸借対照表の精査の範囲を超えています。企業は、取引が成立した後に統合された組織が収益シナジーと業務効率を迅速に実現できるよう、リーダーシップ、従業員の能力、企業カルチャーの適合性を評価しなければなりません。特に主体的な独占禁止体制を持つ法域における地政学上の不確実性と規制当局の監視の強化により、徹底的なシナリオ計画とリスク軽減に向けた戦略が求められています。
  • 優秀な人材とリーダーシップに焦点を当てる
    急速に変化する環境では、優秀な人材を確保・維持し権限を付与する能力は、主要な差別化要因となります。これまで以上に、組織構造、スキルギャップ、カルチャーの適合性に関する理解が求められるでしょう。M&A取引が加速する中、早期に適切な人材を配置することで統合を迅速化し、士気を高め、より迅速な投資回収を実現することができます。
  • スピードと機敏さ
    Time-To-Value(TTV)は最優先事項です。魅力的な買収対象をめぐる競争が激化しテクノロジーが意思決定を加速させる中、買収者はデューデリジェンスから買収対象の統合へと迅速に移行しなければなりません。そのためには、M&Aチーム内の合理化されたガバナンス、明確に定義された手続き、明確な役割分担が必要となります。また契約書のレビューの迅速化、潜在的なターゲットの分析、膨大なデューデリジェンスデータの管理を目的としたAIなどのツールの戦略的な活用も欠かせません。
  • 現地市場の理解
    特にラテンアメリカやその他の新興市場では、現地の洞察力と規制に関する知識が不可欠です。現地でのパートナーシップを構築し、M&Aのアプローチを地域の状況に合わせて適応させることで、これまでアクセスできなかった成長の道が開かれ、市場参入に伴うリスクを軽減することができます。

M&Aにおけるテクノロジーの役割の変化

すべての地域・業界において、テクノロジーはサポート機能からM&Aにおける戦略的優位性の中心的役割へと進化しています。企業は、業務の合理化、生産性の向上、成長機会の特定のために、AIやロボットによるプロセス自動化などのデジタル・ツールへの依存を強めています。AIを活用してデューデリジェンスの精度とスピードを向上させたり高度な分析を要員計画に活用したりと、テクノロジーがMA戦略を再構築しています。&買収者はまた、技術的能力を構築するためのより迅速な道筋として、デジタル・トランスフォーメーションの取り組みを加速させることができるチーム、プラットフォーム、ノウハウを獲得することができる取引に注目しています。

例えば英国では、フィンテック、AI、サイバーセキュリティーなどを含むダイナミックな分野で、テクノロジー投資がさらなる追い風となることが期待されています。一方韓国では、デジタル・トランスフォーメーションはまだ比較的初期段階にありますが、企業はプロセスを最適化し生産性を向上させるために、AI主導のソリューションを採用し始めています。これは世界的な真実を浮き彫りにしてます。明日のM&A市場における勝者は、テクノロジーを効率化に活用し戦略的な差別化にも活用できる企業です。

変化する地政学・規制環境を乗り切る

残る不確定要素は地政学環境です。複数地域のMAチームの責任者たちは、ナショナリズムや保護主義的な感情がM&A取引の流れを形成し、サプライチェーンや取引バリュエーションに影響を与える可能性があると警告しています。そのため、企業は警戒を怠らず、状況の変化に応じて柔軟に対応し、方向転換できる準備をしておかなくてはなりません。

例えば米国では、行政方針の変更がクロスボーダーM&Aを促進する可能性もあれば、抑制する可能性もあります。同時に、高まる地政学上の緊張が企業による的を絞った買収を通じた新たな市場やサプライヤーの開拓を促す可能性も高いです。英国の積極的な規制の立場とEUの変化する競争環境を踏まえると、規制に関する考慮事項を当初からM&A戦略に織り込む必要があります。

変革と成長に向けて

グローバルのM&Aチームの責任者たちのコンセンサスは、2025年は慎重な楽観主義と豊富な戦略的機会に彩られた重要な年になるだろうというものです。状況は徐々に改善しています。PEファンドが蓄積した流動性は、売却する必要があります。企業は自社のポートフォリオとビジネスモデルを見直し、規模の拡大をもたらす買収を模索し、意義のある変革をもたらそうとしています。テクノロジーは、M&A取引の発掘、実行、統合の方法を再定義し続ける一方で、人的資本に対する論点はますますMAの最優先事項として浮上しています。

複雑さと可能性によって形作られた環境の中、戦略の明確さ、業務の精査、技術的な洗練性、カルチャーの整合を兼ね備えた企業が2025年のM&Aにおける真の勝者として現れるでしょう。

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