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エージェンティックAI到来時代の人材マネジメント - ジョブ×スキルの両軸で、組織の変革を加速させる  

09 4月 2026

1. AIで効率化しても人は減らない ── 効率化パラドックスの教訓

DeNA会長の南場智子氏は、AIにオールインして開発の生産性を最大20倍に向上させたものの、新規事業への人材シフトが想定どおり進まなかった経験を率直に語った[1]。AIで楽になった分、社員は「やりたかった仕事」を詰め込み、効率化の余白は組織に自動吸収される[2]。南場氏の結論は「先に枠を動かす乱暴なリーダーシップ必要だ」──スキルアップだけでは組織は変わらず、ジョブの枠組み自体をトップダウンで再定義する覚悟が要る、というものだった。

一方、米国を中心に、AIを端緒とした大規模な人員再編がテック業界にとどまらず金融業界や法律業界にも広がっている。以下はその主な動きである。

【図表1】AI関連の主な人員再編事例(2025〜2026年)

企業(業種) 規模 概要
HSBC(金融) 約20,000人(10%) AIによるミドル・バックオフィス業務の自動化。3〜5年の中期計画として検討中(2026年3月報道)
セールスフォース(テック) 約4,000人 CEOが「AIで人手が減った」と公言。カスタマーサポート部門を9,000人から5,000人へ(2025年9月)
アマゾン(テック) 約30,000人(10%) 本社部門の管理階層削減。2025年10月に14,000人、2026年1月にさらに16,000人
メタ(テック) 約15,000人超(20%) AI基盤投資の原資確保と効率化を目的とした再編(2026年3月報道)
ブロック(フィンテック) 約4,000人(40%) CEO「AIで小さなチームで動く会社に」(2026年2月)
ベーカー・マッケンジー(法律) 600〜1,000人(10%) リサーチ・マーケティング等の支援業務をAIに移行(2026年2月)
出所:Bloomberg[3]、CNBC[4]、Crunchbase News[5]、Programs.com[6]等の報道を基に筆者作成

これらの動き自体は各社の経営判断であり、一概にリスクとは言えない。だが懸念されるのは、削減のスピードを優先した結果として生じる副作用である。AIがジュニアスタッフの業務を代替するようになれば、若手が実務を通じて成長する機会が失われ、後継者育成のパイプラインが機能しなくなる。長年かけて蓄積された暗黙知の継承ネットワークも断たれかねない。

人口減少が進む日本では、一度流出した人材を再び採用市場から確保する難度は米国以上に高い。したがって筆者は、ジョブの再定義は必要だが、それを「削減」ではなく「再配置」の設計として行うべきだと考えている。

個人のスキルに基づく最適な異動先の設計と組み合わせた人材マネジメントへの転換が求められる。

2. エージェンティックAIが変える「働き方」 ── ブレンド型ワークフォースの到来

エージェンティックAIは、自ら計画・判断・実行する点で従来のITツールとは質的に異なる[7]。ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、正社員・フリーランス・外部委託・AIが混在する「ブレンド型ワークフォース」の概念を提唱した[8]。マーサーも同様に、人間の労働とAIの稼働を統合管理する「トータル・コスト・オブ・ワーク」の枠組みを提案している[7]

こうした変化はすでに現実の数字に表れている。マーサーの「グローバル人材動向調査 2026」によれば、AIと業務再設計を融合させなければ最大の人材投資リターンは得られない──グローバルの経営幹部の63%がそう認識している[9]

 また、「2025/2026スキル・スナップショット・サーベイ」では、調査対象企業の91%がAIによるワークフォース変革を認識し、スキルを軸とした対応を計画している[10]。現時点では米国・グローバルが先行するが、日本企業にとっても近い将来において直面する課題である。

3. テクニカル×ヒューマン ── 求められるスキルの二層構造

WEF(世界経済フォーラム)[11]の「Future of Jobs Report 2025」は、AIやビッグデータの活用・運用に関わるテクノロジー系スキルの需要が急速に拡大すると予測する[12]。だが注目すべきは、同レポートが創造的思考やレジリエンスといった人間固有のスキルも引き続きトップ10に含めている点である。

しかも、これらのスキルの重要度は上昇している。WEFの同レポートによれば、リーダーシップ・社会的影響力をコアスキルに挙げた企業の割合は2023年版から22ポイント上昇し、レジリエンス・柔軟性も17ポイント上昇した。 AIが定型的な分析や文書作成を担うようになるほど、人に残る仕事の中核は、ゼロからの論点設定、倫理的判断、変化への心理的耐性といった、AIには代替しにくい領域へとシフトする。結果として、これらの能力を持つ人材の市場価値が高まる構造が、データにも表れている。

マーサーの「グローバル人材動向調査 2024-2025」調査(12,200名+HRリーダー1,800名パルス調査)も、同じ方向を指し示している。同調査では、部下を持つマネージャー層の育成(ピープルマネージャー育成)が全16業種・17地域でHR部門が取り組むべき最重要テーマとなった[13]。WEFが示すリーダーシップ・社会的影響力の急上昇と、マーサーが示すマネージャー層の育成の最重要テーマ化──調査設計の異なる二つの調査が、同じ方向を指し示していることは重要な意味を持っている。

技術が進むほど「人を育て、導く力」への投資が重要になる。テクニカルとヒューマンの二層を統合的に評価・育成する仕組みが鍵となるといえるであろう。

【図表2】エージェンティックAI時代に求められるスキルの二層構造

区分 スキル領域 概要
テクニカル AIリテラシー/エージェント連携構築/データ検証 AIの原理・限界の理解、複数エージェントの連携設計、出力の批判的検証
ヒューマン 創造的思考/リーダーシップ/レジリエンス 論点設定、共感・コーチング、変化への心理的耐性と学習姿勢
出所:Mercer[7][13]、WEF[12]等を基に筆者作成

4. 等級・評価・報酬 ── 人事制度設計への示唆

組織における人の働き方、付加価値の出し方が変わるなら、人事制度の前提も変わる。筆者は以下のような変化が起きると考えている。

等級は、日本企業ではジョブベース(職務型・役割型)とコンピテンシーベース(職能型・発揮能力型)が混在している。いずれの型であれ、今後は「AI協働力レベル」を新たな軸として加える必要があるだろう。そして、等級制度の設計にあたっては、ワークフォースの転換をトップダウンで実装しやすい「ジョブ」を等級の骨格に据えつつ、そこに「AI協働力レベル」を含めた「スキル&イネーブラー」(≒業務遂行・価値創出力)の軸を重視する構成が必要になると考えている。

「スキル&イネーブラー」は、米国で議論されているSkillsという考え方を、日本の文脈で捉える上で最適な用語であると筆者は捉えている。米国でのSkillsという概念は、日本においてスキルという言葉から想起されるものよりも幅広くとらえている。米国のO*NETでは、同概念を、Skills(≒遂行スキル)+Knowledge(≒体系的知識)+Abilities(≒基盤能力)+Work Styles(≒行動傾向・所作)を組み合わせたものとして定義している。特に、AIがSkills(≒遂行スキル)、Knowledge(≒体系的知識)の領域を続々と代替している昨今では、Abilities(≒基盤能力)、Work Styles(≒行動傾向・所作)の重要性が高まっていると議論もされている。

この変化は、今もなお現在進行で生じているものである。だが、その変化のインパクトは大きい、今後のあるべき姿を正しく見通した改定を進めていくべきであろう。

評価は、「AI込みでどれだけ高い成果を出せるか」と「AIなしでもどれだけ考え抜けるか(思考力・人間力)」の二層評価が求められるようになると筆者は考えている。前者については、AI活用による効率化・成果の高さの度合い──AIを用いて同じ成果をどれだけ短い時間で達成できたか、あるいは同じ時間でどれだけ高い成果を生み出せたか──が評価の観点になる。残りは、前述の「スキル&イネーブラー」にあたるものである。

この「スキル&イネーブラー」の評価そのものが、今後より重要になっていく。ガートナーは、2026年末までにグローバルの50%の組織が「AI不使用(AI-free)」でのスキル評価を導入すると予測している[14]。一部の先進的なプロフェッショナルファームでは、採用・評価においてAI活用力を見る場面と、AIを使わせず候補者本人の思考力を見る場面を分離する実装が進んでいる。方向性は明確である。「成果」においては変化への適応を促すために「AI込みでどれだけ高い成果を出したか」を適切に評価して報いると共に、個々人の「スキル&イネーブラー」を適切に評価する視点の導入と評価運用の実装が問われていくということだ。

最後は、報酬である。短期的には、グローバルでは市場報酬データ上でAIスキル保有者への賃金プレミアムが顕在化している。が、今後は、「AIが使えるだけ」で一律にプレミアムを付けるということは適切ではなくなるであろう。今後は、個々人の持つ「スキル&イネーブラー」を伸ばすことに適切に報いていく必要性が増すであろう。そして、その土台を適切に活用し「AIを用いて成果を増幅できる人材」にも厚く報いていく制度も求められる。

この二つを適切に評価することを怠ると、AIへの適応で後塵を拝するとともに、一方でAIに依存した組織となってしまうことにつながる。双方を同等にバランスよく報酬に結び付けていかなくては、組織力の足腰が弱まり、将来の変化への対応力を失うことになる。もし、現在、成果を評価するという考え方が強すぎる組織である場合、新たな「スキル&イネーブラー」へのインセンティブを正しく盛り込む変革が求められるであろう。

5. 今から始める「ジョブ×スキル(コンピテンシー含む)」の設計

エージェンティックAIによる働き方の変革は、現時点では米国を中心とした日本以外の国々での動きである。だが、HSBC等の事例が示すように、その影響はテクノロジー企業から金融・法務といった業種へと急速に拡大しており、日本企業にとってももはや喫緊の取り組みテーマとなりつつある。

ただ、DeNAの「効率化パラドックス」が教えてくれるのは、AIを導入するだけでは組織は変わらないという事実である。構造変革に繋がるようジョブの枠組みを用いて経営の意思で組織を再定義し、同時に広義のスキル≒スキル&アトリビュートに基づいて個人を適切な成長の方向に導く──「ジョブ」×「スキル&イネーブラー」を土台とする仕組みの適切な構築と両軸を動かす人材マネジメントの実行力こそが、AI時代に問われる人材戦略の本丸となるであろう。

エージェンティックAIの波が足下に届いてから制度を整えるのでは遅い。

変化の輪郭が見え始めた今こそ、人材マネジメントの再設計に着手すべきであると筆者は考えている。

引用元

[1] 南場智子「DeNA × AI Day 2026」クロージングセッション(2026年3月6日) 書き起こし:エンジニアtype

[2]宣伝会議 AdverTimes「南場智子氏が警鐘」(2026年3月10日)

[3]Bloomberg, "HSBC Mulls Deep Job Cuts From Multiyear AI-Fueled Overhaul," March 19, 2026

[4]CNBC, "Salesforce CEO confirms 4,000 layoffs 'because I need less heads' with AI," September 2, 2025

[5]Crunchbase News, "Tech Layoffs: US Companies With Job Cuts In 2024 And 2025," updated March 18, 2026

[6]Programs.com, "List of Companies Announcing AI-Driven Layoffs," updated 2026

[7]Mercer, "How will agentic AI challenge and change your business?" 2025  

[8] Gratton, L., "The Blended Workforce," Harvard Business Review, 2024 (ブレンド型ワークフォース概念の提唱)

[9]Mercer, Global Talent Trends 2026, 2026  

[10]Mercer, 2025/2026 Skills Snapshot Survey, 2025   

[11] WEF(World Economic Forum:世界経済フォーラム)。ダボス会議の主催者として知られる国際機関。

[12] World Economic Forum, "The Future of Jobs Report 2025," January 2025

[13] Mercer, Global Talent Trends 2024-2025(12,200名+1,800名HRリーダー調査), 2024-2025

[14] Gartner, “Gartner Unveils Top Predictions for IT Organizations and Users in 2026 and Beyond,” October 21, 2025(Gartner IT Symposium/Xpo 2025にて発表)


本コラムは公開情報に基づく分析であり、特定の投資・人事施策を推奨するものではありません。

著者
中村 健一郎

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