ハイブリッドワーク時代における「雑談」のススメ 

04 7月 2023

マーサーアカデミックコラム第7回

職場における雑談は「良いこと」なのか?

コロナ禍が企業活動にもたらした変化の一つに、働き方の転換が挙げられる。職場等に移動をせずとも働くことができるテレワークは、感染症への罹患リスクを回避しながら業務継続を可能とすることから多くの企業に導入され、新型コロナの感染症法上の位置づけが移行し、「コロナ明け」を迎えた現在も、時間や場所を有効に活用する働き方の一つとして積極的に採用されている。また昨今では、テレワークと従来のオフィスワークを組み合わせるハイブリットワークが広がっており、その効果的な在り方について試行する企業も多く見られる。

一方、オンライン上での業務コミュニケーションが主流となることで、業務上で関わりを持つ人との気軽な相談や会話が難しくなっていることが指摘されている。総務省の調査1では、テレワークにおいて上司や部下、同僚と気軽に相談や会話することに対し、「容易に行えない」、「どちらかといえば容易に行えない」、「どちらともいえない」の回答が62.9%を占めた。

 

出所: 総務省「令和3年版 情報通信白書」※赤線囲み枠は筆者

 

また、厚生労働省がまとめた報告書2によると、テレワーク業務において「上司への報告・連絡・相談の機会」は「増える」と「減る」の割合が同程度である一方、それ以外の「ちょっとした問題や困りごとの相談」「同僚とお互いの仕事の進捗を気にかけ、助け合う機会」「雑談や思いつきレベルのアイディアの共有」「感謝の言葉をかけたり、かけられたりする機会」については、「減る」が「増える」を上回っている。

 

出所: 厚生労働省「令和3年版 労働経済の分析-新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響-」

 

これらを踏まえると、コロナを経て、職場での気軽なコミュニケーション、特に仕事と直接的に関連しない雑談の機会が以前より失われているとともに、雑談自体が「意図しなければ生まれない」ものになりつつあることが見て取れる。

そもそも、職場での雑談は社員が関係性を築く、または、会社が組織を活性化させるうえで「良いこと」なのだろうか。我々は意図してでも雑談の機会を持つべきなのだろうか。職場での雑談は気晴らし・リフレッシュとなりえる一方、それ自体を「無意味なもの」「集中の邪魔」として捉える向きもあり、雑談することを好む人・好まない人が分かれるのも事実だろう。

Academy of Management Journal掲載の『社会的儀礼としての職場でのおしゃべり: 活力を与えながらも気を逸らす雑談の効能3』という論文によれば、答えは「Yes、ただし自分を客観視できていることがより望ましい」となる。本コラムでは、当該論文における雑談の位置づけや調査概要・結果に触れながら、よりよい社内コミュニケーションとしての雑談のあり方を考えていきたい。

 

雑談の位置づけ

雑談は、一般的に「自由で無目的な社会的談話4」として捉えられており、仕事に関連するタスクの達成を目的としたコミュニケーションとは区別されている。職場での雑談は比較的定型的で、問いかけや答える言葉が決まっていることが多く、ある種の「台本」に近い形で会話が進むといわれている5。したがって、職場における雑談は、組織におけるある種の儀礼と位置付けられる。

また、雑談は日常における役割の移行を促す働きを持つとされている。例えば、子供を持つワーキングペアレントが退社すると、当人が果たす役割は「ある企業における従業員」から「親」になる。退社時に少し周りの同僚と雑談してから「お疲れ様でした」と声をかけることは、当人の果たす役割が職場に帰属するものから家庭に帰属するものへと移行することを促す。職場における雑談は、ある関係性や役割から別の関係性や役割にシフトする一助となりえるのである。

 

調査概要と結果

社会的な儀礼かつ役割移行の区切りとなる職場での雑談は、実際どのような効果をもたらすのだろうか。先の論文で、ラトガース大学のMethot教授らは100人の対象者に対してアンケート調査6を実施した。本調査では下図のように、雑談(small talk)が雑談をする本人の一日の終わりに感じる幸福感(end-of-day well-being)や同僚への手助け(組織市民行動、OCB: organizational citizenship behavior7)にどのような影響を与えるのかが検証された8

 

出所: Methot, J.ほか “Office chitchat as a social ritual: The uplifting yet distracting effects of daily small talk at work”

 

ここでは本調査9によって得られた結果について、特に「ポジティブな感情を通してもたらされる雑談のメリット」を紐解いていきたい。

まず本調査によって、雑談は一般的にポジティブな感情をもたらすことが示された。これは雑談によって職場への帰属意識が高まったり、雑談が仕事の合間の小休憩につながったりするからだと考えられる。

雑談によって上向きになった感情は、さらに①一日の終わりに感じる幸福感の度合いと、②同僚への手助けにもつながることが分かった。ポジティブな感情が①一日の終わりの幸福感につながるのは、ネガティブな感情を有している時に比べ終業後に仕事で頭がいっぱいになりにくいから、プライベートの時間にも仕事からのポジティブな感情を持ち込むことになるからといった理由が考えられている。また雑談によって生じたポジティブな感情が②同僚への手助けを増やすのは、ポジティブな感情が他者との絆や連帯感を生むから、前向きな気持ちになることで、自身の裁量や役割を超えた自発的な組織への貢献に繋がるからといった心理メカニズムが背景にあると推察されている。

なお自分をより客観視できる社員は、相手や状況を踏まえて雑談をスムーズに進めることに長けている。そのため円滑に雑談を進め、雑談の長さや内容をうまく調整し、集中の妨げや時間の浪費といった雑談のネガティブな影響を軽減できることが示された。

生産性の重要性が指摘される昨今、業務効率を低下させる要因として雑談を忌避する傾向があることは否定できない。しかし、従業員の幸福感や同僚に対する手助けへの影響を踏まえ、今一度企業や個人が雑談の意義を捉え直してみても良いのではないだろうか。

 

より良い「雑談の場」を実現するために

職場での雑談がメリットをもたらすとはいえ、先述のように意図しなければ雑談が生まれないテレワーク環境下で「雑談の場」を確保することは容易ではないだろう。では、具体的にどのように取り組んでいけば良いのだろうか。以下では企業の実際の取り組み施策を、対面・オンライン、それぞれのケースに分けて紹介したい。

下図の通り、対面では、偶発的であれ意図的であれ、「業務に直接関係ない場で他者と接点を持つこと」が施策の大きな狙いであるように伺える。その方法として①自然に雑談が発生する「空間」を作る(オフィス環境)、②社員が集まる「機会」を意図的に作る(イベント)といった取り組みがみられた。①の空間アプローチでは、一度オフィス環境を整えてしまえば、その後は特段手をかけずに社員の自然なコミュニケーションを促すことができる。一方、そのようなスペースやリソースがない場合でも、②の機会アプローチは都度イベントを企画するのみという点から比較的容易に実施できるだろう。

 

「雑談の場」を実現するための取り組み: 対面

出所: BUILT「古河電工が新本社にABWを導入、多様な執務席と会議室を設置」10、コクヨ株式会社「コクヨの働き方の実験場『THE CAMPUS』で、』社長のおごり自販機』の実証実験を実施」11、mercan「シャッフルランチ」でコミュニケーションを活性化♪」12

 

オンラインでは、ジェスチャーやその場の空気感などを感じにくい、他の参加者のリアクションが見えにくい、発言のタイミングが分かりにくいなどの理由から、対面に比べコミュニケーションのハードルが上がりやすい。そうした点をどのように緩和するかが施策のポイントであり、会話や質問をするうえでの「気軽さ」をいかに創出するかが重要であるように思われる。具体的には会議前後で気軽に雑談できる時間を意図的に設定する、オンラインの性質を利用して他部署とのネットワーク機会を設け社内で気軽に会話しあえる人を増やすといった試みが行われている。

 

「雑談の場」を実現するための取り組み: オンライン

出所: 大嶋祥誉「マッキンゼーのエリートが大切にしている39の習慣」13、日刊工業新聞「仮想オフィス、じわり拡大 テレワーク環境の“職場”」14、日経ビジネス電子版「リモートワークは理想の働き方か 増幅する孤独 進む企業の弱体化」15

 

「雑談」のススメ

コロナが大流行していたさなか、テレワークで働かざるを得ない状況で、筆者は雑談を避けるよう試みていたことがある。本来、人と話をすることが好きな筆者にとっては辛いものだったが、「相手の業務時間を奪ってしまうのではないか」「業務に関わらないことを口にすると、相手の集中を妨げてしまうのではないか」という不安やうしろめたさが勝った。

しかし、業務に限定したコミュニケーションを繰り返す中で、「自分の発言が相手の思索・行動の邪魔になってはいけない」という考えから業務関連の要件を口にすること自体に緊張を覚えるようになり、しまいには周囲から発言の少なさを指摘されるに至った。振り返れば、当時は業務との関係性の有無に関わらず、職場で話をすること自体に心理的安全性を得られなくなっていたのだと感じている。そのような状況を見かねて、上司や同僚がミーティング中に意図的に雑談を織り交ぜてくれるようになり、事態が徐々に好転し始めた。業務以外の会話の内容に自身が反応をする「余白」を作ってもらったこと、そしてそれを以て職場で「普通の雑談」ができる関係性を築けたことが、よりチャレンジングな「意見表明」や「提案」をする足掛かりとなったのである。それからは、状況を見ながら意識的に雑談の機会を増やし、仕事における積極性を少しずつ取り戻していった。

上記の経験から、筆者は本コラムで扱った論文の結果に大きな納得感を抱いたとともに、雑談は仕事を「ビジネス上の成果」としても「組織に属する個人同士の協働によって創出される結果」としても、より豊かで意味あるものとするために有効な手段になりうると考えている。読者の皆様も雑談の機会が減少しつつある今だからこそ、その意義を再確認し、組織活性化の一助として「活用する」意識を持ってみてはいかがだろうか。

 

***

 1 総務省. (2021). 「令和3年版 情報通信白書」(2023.3.24閲覧) 

2 厚生労働省. (2021). 「令和3年版 労働経済の分析-新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響-」(2023.3.24閲覧)

3 Methot, J. R., Rosado-Solomon, E. H., Downes, P. E., & Gabriel, A. S. (2021). Office chitchat as a social ritual: The uplifting yet distracting effects of daily small talk at work. Academy of Management Journal, 64(5), 1445–1471.

4 Malinowski, B.(1972). Phatic communion. Communication in face-to-face interaction. Harmondsworth. U.K. Penguin Books. (Original work published in 1923.)

5 例えば「お元気ですか?」と問われて「元気です。あなたは?」と答えることが一般的であり、自分が今いかに嫌な気分なのかということを口に出すことは少ない。

6 一日3回、15日間連続で、雑談やポジティブな感情などの尺度が含まれたアンケート調査を実施した。

7 組織市民行動は先行研究において、「職場や組織に対する役割外の自発的な行動」として扱われている。

8 なお、各変数は下記の方法で測定された。これらの関係は主にマルチレベルパス解析によって検証された。
・雑談: 筆者らが文献のレビューに基づいて独自に作成した雑談の定義に資する項目のうち、10人の専門家による妥当性の検証や予備調査の結果を経て、最終的に4つの項目を特定した。これらを用いて対象者の雑談の程度を測定した
・ポジティブ感情・ネガティブ感情: 社会的感情尺度の13項目を用い、項目として記載されたそれぞれの感情を対象者がどの程度感じているのかを調査回ごとに測定した
・仕事への集中度合い: 仕事への集中度合いに関する既存の尺度から3項目を用い、対象者がどの程度仕事に集中しているかを午前・午後の調査回で測定した
・一日の終わりに感じる幸福感: 仕事が終わる夕方の調査のタイミングで、対象者が既存尺度の3つの項目を用いて自身のその日のウェルビーングを振り返った結果の値につき、平均値を算出した
・組織市民行動: 各日の就業時においてその日にごとの組織市民行動を、既存の尺度における6つの項目を用いて評価した
・自己に対する客観視: 既存の尺度のうち、肯定的な言葉を用いた8項目を用い各々がどの程度自身を客観的に見つめるかを測定した(「異なる状況下や異なる人といる場合、私はしばしば本来の自分とは全くの別人のように振る舞う」「私は必ずしも見かけ通りの人間ではない」などの質問が含まれている)

9 なお本研究では研究の限界として、以下3つが述べられている。
・日常的な雑談と解釈されうるゴシップや意図的な無礼、タスクに焦点を当てたやりとり等は、本研究における雑談の対象としていない
・調査結果は対象者の自己報告に基づいており、客観性を欠いている可能性がある(実際と報告の内容が必ずしも同一ではない)
・相手によって雑談の内容は変わり得るものの、本研究では相手を調査の対象としていない

10 BUILT. (2021). 「古河電工が新本社にABWを導入、多様な執務席と会議室を設置」(2023.3.26閲覧)

11 コクヨ株式会社. (2021). 「コクヨの働き方の実験場『THE CAMPUS』で、『社長のおごり自販機』の実証実験を実施」(2023.1.6閲覧)

12 mercan. (2017). 「『シャッフルランチ』でコミュニケーションを活性化♪ #メルカリな日々」. 株式会社メルカリ(2023.1.4閲覧)

13 大嶋祥誉. (2014). 『マッキンゼーのエリートが大切にしている39の習慣』. アスコム.

14 日刊工業新聞電子版. (2022). 「仮想オフィス、じわり拡大 テレワーク環境の“職場”」(2023.3.28閲覧)

15 日経ビジネス電子版. (2022). 「リモートワークは理想の働き方か 増幅する孤独 進む企業の弱体化」(2023.3.28閲覧)

監修

著者
河原 沙也加

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