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「グローバル債券」枠の使い方 

月刊『企業年金』「資産運用コンサルタントの視点」(2026年9月号掲載)[

本欄では前回、資産運用のホームバイアスについて資産別に取り上げ、債券は、年金制度が負債として抱える「将来支払うべき円建ての給付」との相性の良さを考えれば、国内債券中心のポートフォリオを「適正値」とすることは合理的に説明できると整理した。それでは、逆に外国債券は必要だろうか。為替ヘッジをしなければ、円安進行時に収益を上げることができたり、外国の高い金利収入の恩恵にあずかったりすることができる。これらは国内債券投資では得られない要素だ。しかし、為替ヘッジをすると、これらの要素はたちまち消えてしまい、国内債券と大して変わらない投資になる。実際、図1に国内債券とヘッジ外債の10年リターンを比較したが、「国内債券とヘッジ外債の収益性は長期的には同じ」と言ってしまって差し支えない結果だ。

図1. 国内債券とヘッジ外債の10年リターン

1987年4月~2026年3月; 野村FR&C, FTSEよりマーサー作成。
企業年金の間でヘッジ外債投資が急速に広まり、いっそ国内債券と統合して「グローバル債券」でいいではないか、となったのは、言うまでもなく、長く続いた超低金利環境が背景にある。しかしそれだけではなく、2008年のグローバル金融危機への対応として、米欧までが緩和的な金融政策を取り、その結果、為替ヘッジコストが著しく低下したことが何よりこれを後押しした。図2に、国内の長期金利と、米ドルの為替ヘッジコストを示した。グローバル金融危機後に大きく低下した為替ヘッジコストは、2015年末からの米国の緩やかな利上げにより上昇したが、2020年に新型コロナウィルスのパンデミックへの対応により再び低下した。2022年からの利上げで本格的に為替ヘッジコストが上昇するまで、13年にわたり、為替ヘッジコストが低い環境が続いた。図3に2009年4月からの内外債券指数の推移を示したが、2022年に利上げが開始されるまで、ヘッジ外債は国内債券を上回る収益を獲得してきた。当該期間におけるヘッジ外債の優位性は図1でも確認できる。しかし、いま一度図2でその前後を見ると、こうした環境はかなり異例のことだったようにも思う。

図3. 国内債券とヘッジ外債 (国債型) の累積収益率

野村FR&C, FTSEよりマーサー作成。

環境は変わった。今や、為替ヘッジコストは高く、長期金利も企業年金の平均的な予定利率を上回っている。そこで冒頭の問いに帰る。外国債券は必要だろうか。「グローバル債券」とは何だったのか。本稿のメッセージは、端的にまとめるなら、国内債券代替としての機能はもはや必要ない、しかし、超過収益源の分散の手段として「グローバル債券」枠は活用できる、というものだ。

図1に米国投資適格社債 (為替ヘッジ) を追加して、図4を作成した。ヘッジ外債 (国債型) の10年間の収益性はほとんど国内債券と変わらないが、米国投資適格社債はこれをほぼ確実に上回ってくる。国債型を下回るデータもあるが、詳しく見ると、10年の投資期間が、グローバル金融危機など、クレジット・スプレッドが拡大した直後に終了する場合がほとんどだ。つまり、投資適格社債のクレジット・プレミアムは、かなり確度の高い超過収益源であることを示している。国内債券市場においても、社債のリターンは国債を継続的に上回っており、国内債券アクティブ・マネジャーの多くがベンチマークを上回っているのは、結局社債をオーバーウェイトしているからとも言われるぐらいだ。しかし、海外のほうが市場規模、銘柄数とも圧倒的に充実している。国内債券の代表的な収益率指数である野村BPI (総合) における社債の時価総額は65兆円 (金融債と事業債の合計; 6月末)程度だが、ブルームバーグ債券指数における投資適格社債の時価総額は米欧合計で2,000兆円近くに上り、銘柄数も14,000近く「選びがい」もある。確度の高い超過収益源としてクレジット・プレミアムは捨てがたく、そして、クレジット・プレミアムを取り込むなら、国内にとどまっている理由はない。

図4. ヘッジ外債10年リターンの国債型と社債型の比較

1993年4月~2026年3月; 野村FR&C, FTSE, Bloombergよりマーサー作成。

多種多様な債券が取引されていることも外国債券市場の魅力だ。とくに日本の投資家にとって今後とも使いどころがある債券として注目したいのは、変動金利型の債券だ。時の短期金利に連動して利金が決まる変動金利型の債券は、元本の金利変動リスクを負うことなく、上乗せスプレッドのみを収益源とできる点で、ポートフォリオの効率性改善に資するのだが、国内には適切な債券市場が見当たらない。海外でも決して市場規模が大きいわけではないが、資産担保証券やトレード・ファイナンス、スペシャルティ・ファイナンス等の領域にこうした債券がある。海外の変動金利債券には、単に金利リスクを回避するだけでなく、為替ヘッジコストに対する耐性も期待できる。外国短期金利の上昇は為替ヘッジコスト上昇要因になるが、このとき変動金利債券の利金も同じだけ上昇するからだ。

「グローバル債券」枠だからと言って、グローバル債券インデックスを意識しなければならない根拠は乏しい。「国内債券にも外国債券にも投資できる枠」と解釈すれば、今のように長期金利が十分な水準にあれば国内債券中心に構成し、再び超低金利環境がやってくるようであれば国内債券を減らすなど、その時々の環境に合わせて対応できる。短中期的視点で政策アセットミックスを変更する必要に迫られないのは、「グローバル債券」化の意義と整理できる。

「グローバル債券」化されたポートフォリオを引き継いだ運用担当者は、そういうものだと受け止めているかもしれないが、過去の市場環境に対応しようとした努力の跡であって、必ずしも「進化」ではなく絶対のものでもない。資産運用のフレームワークはその背景を理解し、アップデートの必要がないか、つねに検証が欠かせないのだ。

著者
今井 俊夫
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