月刊『企業年金』「資産運用コンサルタントの視点」(2026年7-8月号掲載)
1.はじめに
2.株式のホームバイアス
一方で、ホームバイアス是正にあたっては留意すべき点もある。国内株式からグローバル株式へ移行することは、ホームバイアスの解消に資する一方で、結果として米国株式への偏重につながり得る。実際、グローバル先進国株式の代表的な指数であるMSCI Worldでは、米国株式の構成比率が足元で約7割を占めている。
米国株偏重を抑制する手段としては、一般に指数対比で米国株式の組入比率が低い傾向にあるアクティブファンドの活用が考えられる。しかし近年は、β(市場リターン)ではなくα(超過収益)の獲得という観点で、グローバル株式のアクティブ運用が総じて苦戦しており、投資家によっては積極的な選択肢として採用しにくい面もあるだろう。こうした点を踏まえると、米国株偏重を回避する目的で、理論的な「適正値」よりも国内株式を相対的に多めに保有するという選択も、直ちに否定されるものではない。
3.債券のホームバイアス
負債対応主導型の場合、年金負債評価の割引率は自国の国債・社債利回りを基に算定されるため、負債対応部分の資産が国内債券中心となることは、ALMの観点から合理的に説明できる。
一方、負債対応主導型ではない資産配分では、債券は負債対応に加えて「許容リスクの範囲でリターンを向上させる役割」も担う。この場合は、リターン・リスクの観点から望ましいポートフォリオを構築する必要があり、株式と同様に実務上は代表的なグローバル債券のベンチマークであるBloomberg総合指数に沿った配分を「適正値」とみなす選択肢が考えられる。主な債券指数の長期実績を見ても、国内債券よりもヘッジ外債が総じて健闘しているが、これは、多様な金利環境の国への分散やクレジット収益の上乗せが主な要因と考えられる(【図表4】)。特に、国内債券市場の国債比率は約85%と、クレジット投資の機会が限られる一方で、外国債券ではより多様な投資機会にアクセスできることから、リターン向上の面では外国債券の活用が欠かせない。
また、足元の国内金利の回復により、国内債券の期待リターンが向上していることから、リターン・リスクの観点からも国内債券の配分を増やす動きが出始めている。日本では長らく低金利環境が続いたため、利回りを求めて国内債券の代替としてヘッジ付外債の活用が進んできた。しかし現在は、代替策として外債に依存せずとも、国内債券そのものの保有で一定の利回りを確保し得る環境になりつつある(【図表5】)。これは「ホームバイアスの拡大」というより、基本資産である国内債券への回帰と捉えることができ、ALMの観点から合理的に説明できる。
さらに、これまで日本の低金利環境を背景に資産と負債のマッチングを行っている投資家は多くなかったが、国内金利が回復した今、LDI/CDIも投資家の現実的な選択肢になり得る。
4.まとめ
株式のホームバイアスは、リターン・リスクの観点から適正値を導く必要があり、基本的には是正していく方向が望ましい。一方で債券は、ALMの観点から適正値を導くことが重要であり、国内債券の保有比率が高いこと自体が直ちにホームバイアスを意味するとは限らない。ただし、負債対応を主目的としない配分では、株式と同様のアプローチで適正値を検討することになる。
そのうえで、最も避けるべきなのは、投資家が意図せずホームバイアスを取っている状態である。過去の実績からは、ホームバイアスが長期的リターン低下の要因となり得ることも示唆されるため、あえてホームバイアスを取るのであれば、投資家として合理的な理由と説明が求められる。まずは、ホームバイアスを投資家が管理すべきリスクの一つとして再認識し、「投資家自身にとっての適正値」を整理することをお勧めしたい。