プライベート資産投資の投資ビークルに関する考察
『ニュー・プロップ』(2025年11月号 掲載)
かつてプライベート資産への投資は、コア・コアプラス型の不動産ファンドやインフラファンドを除き、主にクローズドエンド型の投資ビークルが中心であった。しかし近年、プライベート資産が富裕層などに広がる中、多様な資産クラスでエバーグリーン型ファンドが提供され始めている。本稿では、新たな選択肢として注目されるエバーグリーン型ファンドの主なメリットと留意点を考察する。
クローズドエンド型ファンドは、ファンド募集期間中にのみコミットメントが可能で、常に投資できるわけではない。また、コミットメント金額と実際の投資残高が必ずしも一致しないため、目標投資残高を達成するには毎年一定の投資を継続する必要がある。さらに、キャピタルコールや分配対応を含むキャッシュ管理や事務手続きが複雑であり、特に社内リソースが限られる投資家にとってはプライベート市場への参入障壁となってきた。こうした課題を抱える投資家にとって、エバーグリーン型ファンドの活用はプライベート市場へのアクセスを容易にし、投資の柔軟性を高める有効な手段である。クローズドエンド型ファンドに対応可能な投資家でも、数年ごとのデューデリジェンスコストや資本効率の観点から、エバーグリーン型ファンドの方が適している場合がある。
一方、エバーグリーン型ファンドは流動性が必ずしも保証されているわけではない。償還条件はファンドによって異なり、分配された元利金を基に償還する「スローペイ型」と、基準価額(NAV)で償還する「ファストペイ型」がある。ファストペイ型では、ファンドレベルで償還制限が設けられていることが一般的である。また、流動性確保のために流動性スリーブが設定されている場合、パフォーマンス低下のリスクも存在する。このため、クローズドエンド型ファンドに対応可能な投資家は、潜在的なパフォーマンス低下を受け入れるよりも、クローズドエンド型ファンドに投資する方が投資目的に適う場合もある。さらに、優良マネージャーへのアクセスも重要な要素である。特にプライベートエクイティやバリューアド型のインフラストラクチャー、不動産のプライマリー戦略においては、優良マネージャーへのアクセスは依然としてクローズドエンド型ファンドが唯一の選択肢となっている。
エバーグリーン型ファンドの増加により、投資家の選択肢は広がっている。投資家は自身の内部体制や投資目標に応じて最適な投資ビークルを選択し、プライベート市場への投資をより効果的かつ効率的に進めることが求められるだろう。