新たな章のはじまり
剰余金を活用した運用を考える
『オルイン』(2025年秋号 掲載)
ここ数年の堅調な株式市場を背景に、年金財政上の剰余が潤沢に積み上がっている制度が多く見られる。新しい年金財政基準では、年金資産が、[1] 将来の給付のために現時点で必要な額に、[2] 財政悪化リスク相当額(20年に1度程度の発生が見込まれる損失額)を加えた金額を超える部分を剰余と定義するが、ここでは、よりシンプルに [1] の負債額を上回る部分(すなわち旧基準の剰余)を剰余と捉える。そのうえで、運用資産を「負債対応部分」と「剰余」に分けて管理し、剰余を積極的に活用する方法を考えたい。
負債対応部分と剰余を分けて考えることで、剰余は年金債務から切り離された資産として整理されるため、負債対応部分と比べて、投資期間や流動性の観点から自由度の高い運用が可能な資産と位置付けることもできる。アセットオーナーは剰余に対する考え方をあらかじめ整理することで、その考え方に沿った運用方法を選択できる。
剰余に対する3つの考え方と運用方法
日本の年金制度は明示的にインフレに連動した給付設計となっていないが、今後日本でもインフレが定着していけば、給付の目減りを補うために給付改善の検討を行うケースが想定される。原資がなければ検討もままならず、剰余を蓄えておくことは将来の選択肢を広げることにもつながる。ただし、留意点として以下のような点が挙げられる。
- 積立水準に応じて「負債対応部分」と「剰余」間のリバランスが発生することで、より高度なポートフォリオ管理が必要となる
- 管理するポートフォリオが2つになることで、資産全体として最適とならない可能性がある(「負債対応部分」と「剰余」それぞれの部分最適となってしまうケース)
ポートフォリオ管理の高度化にはそれに対応できるOCIOの導入という選択もある。足元の剰余を有効に活用することによって、制度変更などの将来の選択肢を増やすと考えるならば、その運用について改めて考える絶好のタイミングであると言えるだろう。
著者
岸田 理恵
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