新たな章のはじまり

市場混乱時におけるリスク資産比率とリバランスの再考  

『オルイン』(2025年夏号 掲載)

2025年度は、4月2日に米トランプ大統領が発表した相互関税政策を受けて、グローバル市場は急速にリスクオフに傾いた。リスク資産が大幅に下落する波乱のスタートとなった。大規模な市場の変動の影響から、リスク資産の比率などポートフォリオのアロケーションの適正性について議論が生じやすい状況にあったのではないだろうか。

その一方で、異なる方向の考え方も同時に存在している。2020年のコロナショックから5年が経過し、過去5年間のリスク指標から当時の急落が除外されつつある。クレジットなど一部の資産では標準偏差が見かけ上低下しており、リスク許容度が拡大したかのような印象を受けやすい。

しかし、リスク指標の変化はあくまでも過去の変動幅を反映したものであり、将来の不確実性が本質的に低下したことを意味するわけではない。標準偏差の低下といった短期的な数値の変化や、足元の相場見通しに過度に反応してリスク資産の比率を調整することは、長期的な資産運用の視点からは慎重になるべきだと考える。特に、想定外の地政学リスクや政策変更による急激な市場変動が繰り返し起きているような現状においては、短期的な数値の変化に過度に依存することは長期的な視点に立てば慎重であるべきだろう。

実際、市場の大きな変動はしばしば短期間に集中して起こる。2008年の世界的な金融危機や、2020年のコロナショックにおける市場の急落からの回復と同様に、今年度の相互関税による市場の変動もまた、急落から数日で急反発するような動きが見られた。長期投資の成果はこうしたごく限られた上昇日に支えられているということも実証されている。マーケットタイミングを正確にとらえ、上昇局面だけを選択的に享受することは至難の業であるからこそ、アセットミックスを維持することで市場に居続けることが、長期的なパフォーマンスにとっては不可欠である。

その意味で、リバランスとは、単なる数値上の調整ではなく長期的な資産形成の中で下落局面に機動的に対応し、回復局面に参加する仕組みであり、長期投資の再現性を担保する役割を担っている。市場が混乱する局面こそ、基本に立ち返り、リバランスの方針を維持することが重要であると考える。

著者
北川 春香

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