国内債券運用への立ち返り 

『オルイン』(2024年春号 掲載)

投資家の関心が国内債券から遠のいて久しい。安定したインカムの確保やリスク資産との低相関によるポートフォリオ全体のリスク抑制といった役割を担ってきた国内債券だが、長引く金融緩和政策から国内金利の低下が続いていたため、投資家はヘッジ外債にその役割を代わりに求めるようになってきた。しかしながら、欧米での相次ぐ利上げによる長短金利の逆転から、欧米の長期金利は為替ヘッジコストを勘案すると国内金利を大きく下回るようになっている。依然として外国債券市場の方が、国内債券市場よりも投資先となるサブ資産クラスの豊富さという優位性はあるものの、ヘッジ外債の相対的な利回り妙味は薄れてきている。
※為替ヘッジコストは3カ月フォワードレートから推定

更に、金融政策を巡る思惑が二転三転する中で、外国債券のボラティリティは総じて長期平均を上回っており、リスク資産との相関の高まりも考慮すると、足元ではヘッジ外債投資がポートフォリオ全体のリスクを押し上げている可能性もある。国内金利水準が以前と比べて多少なりとも上昇していることを鑑みると、ヘッジ外債から国内債券への運用先の回帰は、投資家の選択肢として妥当性を増してきている

一方で、現時点では国内債券運用への回帰といった動きはそこまで大きな流れとなっていない。その背景には、内外での金融政策姿勢の違いがある。欧米では金融緩和の時期を探っている一方で、国内では金融引き締めへの転換タイミングが投資家の関心となっている。結果的に、国内金利の先高観が根強くあることが、国内債券運用への回帰を躊躇する要因となっている。

国内金利の先高観が薄れるまでタイミングを図るという選択肢もあるが、その場合、ヘッジ外債を取り巻く金利環境が大きく変化しない限り、為替ヘッジコスト控除後でのマイナス利回りを受け入れる必要がある。そのため、国内債券運用への回帰とともに、国内金利上昇への対策を講じるのは有力な選択肢となると見込まれる。具体的には、デュレーションに対する許容乖離幅が大きいアクティブ運用や、同値がマイナスとなることも厭わないような国内投資家向けの絶対収益型債券戦略が挙げられる。リターン源泉に対する運用者のスキル依存度が高まるので、投資家においても慎重な運用商品選定が求められるが、金利上昇耐性を持ちつつ、利回りがプラスである資産へ投資している点は魅力的と考えられる。

著者
木下 智雄

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