資産運用における気候変動リスク どう対応すべきか? 

『オルイン』『ニュー・プロップ』(2023年6月号 掲載)

企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、今年の3月期決算企業から、有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報の開示が求められることになった。金融庁ではこの改正に際して、サステナビリティ情報等に関する「開示の好事例集」を公表し、代表的な事例として気候変動が事業に与える影響やそれに対応するガバナンス体制などの開示事例を取り上げている。

気候変動問題は、対策の必要性が叫ばれて久しく、各種の対策がとられているものの、その成果は十分とは言い難い。産業革命以前280ppm程度で安定化していた大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命後上昇を続け、今年420ppmに達した。1992年に気候変動に関する国際連合枠組み条約が採択され、「大気中の温室効果ガスの濃度の安定化」が目指されて来たが、言うは易く行うは難し。二酸化炭素排出量はコロナ禍で一旦減少したものの、その後経済活動の再開とともに上昇、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は止まっていない。気候変動は今後、世界経済に大きな影響が及ぼすことが予想されている。

このような文脈の下で、事業会社のみならず投資家に対しても、長期的に気候変動が与え得る影響について検討し、開示を求める動きが出ている。英国では2021年からプレミアム市場上場企業に加えて、銀行・保険会社および資産額50億£を超える職域年金を対象に気候変動に関するリスクおよび機会についての開示が求められるようになった。今後、開示義務の対象は順次拡大される見通しである。

気候変動はポートフォリオのリターンにどのような影響を与えるのか?マーサーでは2011年からこのテーマについてリサーチを重ねてきた。そしてリサーチを基にポートフォリオの気候変動リスク分析ツールを開発し、機関投資家における分析を支援している。分析ツールで想定しているシナリオは三つ―今世紀末までの産業革命以降の地球の平均気温の上昇が1.5℃に留まるシナリオ(低炭素社会への急速な移行)、2℃に留まるシナリオ(秩序ある移行)、4℃を超えるシナリオ(移行の失敗)。どのシナリオが実現するかによって、当然ながらポートフォリオのリターンに及ぶ影響は大きく変わってくる。

上述したように気候変動問題への対応は、必要な水準に達しておらず、今後あらゆる分野でさらなる対応が求められてくるだろう。運用における気候変動リスクについても、対応が進むことを期待したい。

著者
物江 陽子

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