新たな章のはじまり
社員起点のリスキリング
17 11月 2025
社員主導の英語学習
筆者はLet’s Speak Englishという名前で毎週1回お昼時間帯の30分間を使用し、社員起点での英語を話す会を開催している。始めたきっかけとしては筆者を含む部門内の社員数人から「英語に慣れたい」、「英語をブラッシュアップしたい」、「英語のレベルをキープしたい」というような声が多く上がっていたことだ。自主的に事務局を作り、週一回のオンラインで自由参加型のセッションの時間を持つようにした。
内容としては、近況報告でアイスブレイクを行ったあと、事務局が用意した5分程度の英語の動画題材を閲覧し、その後はそのテーマについて関わることを話したり、意見交換をしたりしている。勿論英語で話すことが基本ではあるが、自分が言いたい単語や伝えたい表現が分からない時は日本語で説明し、セッション内でどういう表現になるのかお互い確認しあうということも行っている。
当初は部門内だけで始めた本企画であったが、1年を過ぎた頃にこの取り組みが会社全体のタウンホールミーティングで取り上げられ、その後は部門横断で誰でも参加出来るような形になった。参加者を限定しているわけではない為、仕事での関わりの有無にかかわらず、本セッションに参加をすることで、社内の知り合いを増やせる機会にもなった。
最近ではネイティブスピーカーの社員も参加をしており、話している中で日本人が良く使いがちな英語であっても不自然な英語を指摘してもらったり、良く使用する表現を教えてもらったりということも出来ている。
取り組みとしての効果
個人差はあると思うが、この取り組みを行なった効果として大きく2つあったように見受けられる。
一つ目は参加者の英語に対するハードルが低くなったという点だ。日本に住んでいて、英語に触れる環境にない場合には知らず知らずのうちに英語への苦手意識が高まってしまい、英語での文章やコミュニケーションを見聞きするだけでも避けたくなるということがあると思う。毎週英語を聞くだけではなく、自分から話すことにより、「全く英語に触れなかった時よりも英語そのものを近しい存在に感じられるようになった」といった意見や「クライアントの前で英語を話す機会があっても、以前よりも気負わずに話すことが出来るようになった」という声も耳にするようになった。仲間内であれば分からないことを日本語で聞くことが出来る、というのもハードルを下げる要因となっているのかもしれない。
二つ目は副次的な効果であったが、チームを超え、更に部門横断で社内に知り合いができたことにより、社内コミュニケーションの促進を図ることができた点だ。部門が違うと仕事上では関わることがあまり無いのだが、毎週の会に参加をすることで、接点が全く無い人とも自然に話す機会を提供する場になっていた。もちろん、毎週30分英語に触れただけで一足飛びに英語が流暢に話せるようになるわけではないが、上記で述べたようにポジティブな影響が与えられているのではないかと考えている。
この取り組みを始めて3年が経っているが、同様の取り組みを個々人がそれぞれで行った場合、3年以上の継続ができただろうか。私自身、一人で英語学習を行なおうと試みていたらここまで続いていなかったのではないかと思う。一緒にやるメンバーがいるからこそ、継続が出来ているというのは紛れもない事実である。
リスキリングに対する会社のねらいと社員の理解
上記は英語に関しての「リスキリング(学び直し)」の話であったが、近年話題になっているリスキリングについて、読者の皆様の会社ではどのような取り組みをしているだろうか。
仕事の在り方が多様化し、社会の変容に応じて求められるスキルも変化している昨今、会社としても従業員にリスキルを求め始めている。また、過去に必要であったスキルと今日必要なスキルも変わってきている。しかし、スキルといって何を思い浮かべるだろうか。そもそも、社員は何が求められているか明確に分かっているのだろうか。
マーサーには「マーサースキルスライブラリ」というスキルのカタログがある。これはグローバルにおいて数百万もの求人情報や職務経歴書、政府データなどからスキル情報を取得し、マーサージョブライブラリ*のジョブとスキルを紐づけ、各ジョブに求められるスキルを一覧化したものである。
このようにジョブに紐づくスキルを可視化するツールは、企業と社員の共通言語になり得る。たとえば、会社主導の施策的なリスキル・配置転換では素養がある人材の発掘やモチベーション向上が困難という課題がある会社において、過去に導入された事例としてはこのツールを使用し、需要が高いジョブ及びそのジョブに対して紐づく各スキルを社内で可視化・提示することにより、社員が何を習得すべきかをクリアにして社員の自律的な専門能力向上の動きを高めるという使い方をされた。
従業員は明示されているスキルを元に自己学習を行い、会社は需要に応じて育成施策を用意する、という内容のもので、この取り組みにより、キャリア自律したプロフェッショナルが揃う社内労働市場が形成され、スキルを習得した社員は需要の高いジョブへ手上げ出来るような仕組みが出来上がることが期待されている。
*マーサーが職種や階層別に各ジョブ(ポジション)を定義し、体系化したカタログ
リスキリングを継続させる為に効果的なものとは
この場合、社員が自己学習することが求められるが、一人一人が個々にモチベーションを保ちながら長い間スキル習得への努力を続けられるだろうか。
最初に触れた英語学習の取り組みに話を戻すが、「英語を上達させたい」という個々の気持ちが根本ではあるが、3年間取り組みが続いているのは会社全体のミーティングにて取り組みを紹介してもらった結果、部門横断のセッションになったり、所属チームや部門を超えた社内間のネットワークがあったり、一緒に英語を学んでいるメンバーという仲間意識を持ったりしているからこそ継続が出来ているのではないかと考える。そして更に社内コミュニケーションの向上にも繋がっている。
これを鑑みると、個人それぞれにスキル取得を支援するのに加えて、社員が自主的に形成した学習グループの活動を会社が支援することも、会社・社員双方にとって有益ではないかと考える。
厚生労働省が2024年に行った、令和6年度「能力開発基本調査」の結果の内、「自己啓発を行う上で会社から受けたい支援」(複数回答)の質問に対して「受講料などの金銭的援助」という回答が74.7%で第1位に挙がっている中で、注目したいのは「社内での自主的な勉強会等に対する援助」という項目が36.3%と5位につけていることだ。ある一定層においては社員が自主的に勉強会を行っていることが分かる。