企業年金は超長期債のリスクを取りたくない 

職場の廊下で障害のある女性起業家と歩くビジネスウーマン Copyright Maskot

16 5月 2025

国内の金利水準が改善されてきた。10年国債利回りは一時1.5%を回復した。言うまでもなく、国債を10年間持ち続ければその間の収益が年率1.5%になるということだ。予定利率を2.0~2.5%としている制度の多い日本の企業年金の運用にとって、国債で無理なく1.5%を稼ぐことができるようになった意味は大きい。つい2年前まで10年国債利回りは0.3%前後だったことを思うと、国債の収益力は5倍に増したのだ。しかし、簡単には国内債券に帰れない事情がある。国内債券に投資後さらに金利が上昇すれば、小さくはない損失が出てしまうことだ。

もちろん、これはあくまで一時的な評価損であり、満期まで持ち切れば最終的に損することはない。企業年金の投資においては「満期まで持ち切り」は一般的ではなく、償還された元本や利金収入を新たに発行された債券に再投資しつつ、株式投資におけるTOPIX連動型運用のように、債券市場全体を複製するインデックス運用が通常行われているが、それでも、図1で確認できるように、長期投資の収益率が当初の金利水準に収束していく点で、「満期まで持ち切り」とおおむね変わらない収益性をもたらす。マイナス金利環境でない限り、長期投資で最終的に損することはまずない。

図1. 債券「インデックス運用」の長期収益率

content-image-consultant-column-966-1-1920x1080 出所:Refinitivよりマーサー作成; 債券指数は野村BPI(総合)1987年3月~2025年3月

債券指数の「長期化」

では問題はどこにあるのか。収益の実現に要する時間が、かつてより長くなっているのだ。図2は、債券指数の平均残存年数(満期まで何年残っているか各時点で構成銘柄の平均を取ったもの)を示している。20年前には6年程度だったものが、金利低下とともにより満期の長い債券の発行が増え、現在は10年程度となっている。金利上昇幅が同じであっても、価格に与える影響は、残存年数が長い債券ほど大きい。金利上昇時の価格下落は大きく、かつそれを取り戻すのに要する「持ち切り」期間が長くなっているのだ。

図2. 債券指数の平均残存年数

content-image-consultant-column-966-2-1920x1080 出所:Bloomberg; 債券指数はBloomberg日本総合指数

企業年金の「短期化」

年金は、長期投資が可能な投資家である。今年入社した社員に掛けた掛金は40年後まで引き出す必要がない。それなら10年ぐらい待てそうなものだが、実態として、日本の企業年金は現在、資産を取り崩しながら給付を行っている制度が多い。定年退職のピークが続いているということもあれば、DC(確定拠出年金)化により新規加入が限定されているケースも少なからずある。そうすると、「持ち切り」による収益の回復を待たず、給付のために途中で売却せざるを得なくなる可能性も出てくる。

10年国債は10年後の給付に対応するため、10年後の給付相当額を10年持ち切り、20年国債は20年後の給付に対応するため、20年後の給付相当額を20年持ち切り、といったように、キャッシュフロー・マッチングの考え方を取れればよいのだが、「インデックス運用」していると、年限によらず「輪切り」により、回復を待っている債券も損切りすることになる。年金制度の「投資期間」が短くなっているにもかかわらず、債券指数の平均残存年数が長くなっていることが、国内債券への回帰を難しくしているのだ。

超長期債をどう考える

とりわけ満期までの期間が10年を超える超長期債の存在感に圧倒される。構成比率は市場指数の3割程度だが、リスクはここが一番大きいので、リスク上は全体の6割超を占める。米国による相互関税導入発表直後は、日本の金利は短期金利と長期金利の別を問わず低下したが、その後、長期金利、中でも超長期領域の金利が上昇に転じたように、やや市場が分断されているような動きも感じられる。いっそのこと、「超長期債を除いたインデックス運用」が利用できれば、より安全確実に利回りを得られる投資先として、企業年金が国内債券を選びやすくなるように思う。各企業年金においては、この機会に再度成熟度を確認のうえ、「許容できる残存年数」に配慮して国内債券運用を選択されたい。残存5~8年の債券に投資して、期中の利金の分配を受けつつ満期まで本当に持ち切る合同運用も提案されるようになったが、これも選択肢の一つだろう。
著者
今井 俊夫

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