なぜ組織能力が企業成長の鍵となるのか ORCAを用いた効果的アプローチ
24 1月 2025
組織能力とは何か
組織能力とは、企業が戦略を効果的に実行するための「人材」と「組織」の能力基盤を指す。具体的には、人材(リーダーシップ、スキル)、組織(構造、プロセス、システム)、方向性とカルチャー、未来志向(学習、コラボレーション、エンゲージメント)といった多様な要素が組織能力を構成する。類似した言葉で組織力(Organization Strength)があるが、これは組織が有するエンゲージメント、コラボレーションなどの総合的なエネルギーを指し、組織能力の一部と考えていいだろう。また、今日の経営環境下で、組織能力の構成要素である「人材」つまりは人的資本への適切な投資と活用もますます重要になってきた。
組織能力の強化は企業にどう影響するか
市場環境の変化や技術革新に迅速に対応し、競合他社と差別化を図るためには、戦略やビジョンだけでなく、それを実行するための強固な組織能力が必要となる。戦略の賞味期限がより短くなる中で、入念に精度の高い戦略立案をするのではなく、立案した戦略を都度、現場レベルで見直し・修正できる組織能力を高めていくことこそが、サステナブルな競争優位性の源泉として機能するのである。また、イノベーションを促進するカルチャーが根付けば、企業は変化する環境に柔軟に対応しながら新たな機会を捉える力を持てるようになる。このように、組織能力の向上によって柔軟性、効率性、革新性が向上し、競争力の強化だけでなく、長期的な成長基盤が確立される。
組織能力を強化するためにはどうすべきか
組織能力を向上させるための第一歩は、現在地を正しく把握し、どの領域で改善が必要か特定することだ。現在地を把握するためには、組織全体の診断を行う必要がある。診断を通じて、リーダーシップや従業員のスキル、組織構造、プロセス、システム、企業文化などの多面的な要素を評価し、強みと弱みを洗い出す。
この診断結果から、特定された改善領域に対して戦略的なアクションを計画し、優先順位をつけていく。例えば、リーダーシップが不足している場合には、マネジメント層の育成に注力すること、プロセスが非効率的であれば業務プロセスの改善や自動化などが有効となる。ただし、課題があるからといって一足飛びに解決策につなげるのは避けたい。多くの要素は相互に依存・影響し合っているため、慎重に解決への影響度合いも総合的に考慮すべきだろう。そのためには、診断について、リーダーシップを含めた関係者でこの結果について議論するワークショップを開催するなど、状況の理解と合意を進めるのも一案である。
ORCA — 組織能力の診断ツールとしての活用
組織能力の診断を行うためのツールの一つとして、マーサーのOrganization Capability Assessment(以下、ORCA)がある。ORCAでは、組織能力を構成する4つの次元(方向性・カルチャー、人材、組織、未来志向)と、それに紐づく9つの要素を評価する。この診断ツールは、戦略的に重要な領域を特定し、組織能力の強化に向けた具体的な改善策を示す点で非常に有用である。
Mercer Organization Capability Assessment - 組織能力診断ツール
ORCAは、対象とする組織の従業員に対して10分程度のオンラインサーベイを実施、従業員の意識評価をし、結果を部門や階層ごとにレポートする。この結果をもとに経営者やマネージャーは具体的なアクションプランを立て、どの領域に重点を置くべきか考える材料として活用できる。特に、組織全体の動向を把握し、定量的なデータに基づいて意思決定を行うための有力なツールだ。
診断結果のイメージ
ORCAの活用事例と効果
ここでは、いくつかの具体的な活用事例を3つ紹介する。
1. M&Aにおける組織能力診断の活用
M&Aのプロセスでは、買収前のデューデリジェンス(DD)の段階で、対象会社に対し組織診断を実施することは現実的に不可能な場合が多い。しかし、買収後の組織診断は実行可能であり、特に統合を伴うM&Aに有効だ。統合後の文化やプロセスの融合状況を定期的に評価し、時間の経過とともに統合度合いや必要な追加の取組みの必要性を把握するためのデータとして活用できる。
2. HR機能の変革に向けた現状分析
ORCAは、HR部門の変革をサポートするツールとしても活用できる。特に、従来のオペレーショナルなHRから、より戦略的な役割を担うHRへの移行に向けた現状分析の一環として有用だ。HR部門の業務やプロセスを評価し、どの領域でスキル強化やプロセス改善が必要かを明らかにすることで、より効果的な人材マネジメントへの改善を可能にする。
3. スタートアップ企業の成長支援
スタートアップ企業では、急成長に伴い企業規模が拡大すると、組織能力も大きく変化する。経営者の目が届く組織体制から、社員数の増加に伴い組織階層が増えると、組織が複雑化し様々な課題が出てくる。対症療法的に「点」として解決するのではなく、包括的に「面」として課題を捉えることで、課題の棚卸しと取るべきアクションが明確になりやすくなる。これを頻繁に行えば、組織規模の変化に対して柔軟かつ迅速に対応できるようになる。
組織能力を高め、持続的成長を実現するために
組織能力の強化は、企業の持続可能な成長のために欠かせない。現状を診断・理解し、改善すべき領域を特定して戦略的なアクションを取ることで、企業は変化するビジネス環境に迅速かつ柔軟に対応できるようになる。そのためにも、ORCAのような組織診断ツールを活用した取組みを検討されたい。持続的成長を支える強固な組織能力を獲得する一助となるはずである。
著者
柳 正榮
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