ヘッジファンド投資とポートフォリオアプローチ 

08 12月 2024

市場環境の変化と投資の課題

債券の期待リターンの高まりに伴い、株式というリターンドライバーの見直しが進んでおり、従来型ポートフォリオに代わる投資機会を検討する重要性はより一層高まっている。ボラティリティの上昇や銘柄間の格差といった近年の課題をアルファの創出源とすることができるヘッジファンドは、改めて投資の役割を再考する余地がある。その一方、ヘッジファンドのパフォーマンスは、多様な資産クラスの中でも目立たない状況が続いている。日本の投資家にとっては、高いヘッジコスト水準も背景の一つとなっているが、短期的なパフォーマンスを持ってヘッジファンドをそのような存在とみなす必要はない。市場のボラティリティが高まる中で、ヘッジファンドが提供する戦略の柔軟性と分散効果は再び投資家にとって魅力的な選択肢となりうる。ヘッジファンドの持つ独自の価値に改めて注目したい。

オルタナティブ投資とヘッジファンドの役割

オルタナティブ資産への投資への期待は、伝統的な株式や債券にはない独自のリターン源泉の提供にあるが、オルタナティブ資産の中でもヘッジファンドは、異なる特性がある運用資産であると整理できる。例えば、プライベート資産は、一般的にアクセスが難しい非上場資産に投資することで、公開市場と比較してより高いリターンを期待できる資産である。一方で、ヘッジファンドは、実質的に運用制限を持たないため、柔軟な投資戦略を展開する資産として区分される。市場環境が悪化する局面では、ショートを活用しディフェンシブ効果を発揮する戦略も見られるように、他の資産とは異なる動きがポートフォリオに分散効果を生み出す。多様な運用手法を活かすことで、相対的に安定したリターンの追求と、結果的にポートフォリオのリスクリターンの効率性を向上させる効果があるといえるだろう。

ヘッジファンドのポートフォリオアプローチ

マーサーでは、ヘッジファンド投資においては、多様性を確保しながらも、過度な分散を避ける「ポートフォリオアプローチ」の採用が理想だと考えている。各マネージャーのポジションサイズは、マネージャーのリスクと反比例させることで、通常は残高配分ではなくリスク配分を基にしたポートフォリオの構築が望まれる。すなわち、リスクの高いファンドは、ヘッジファンドポートフォリオにおける相対的な配分比率を下げる必要がある。また、短期的なパフォーマンスに基づいて、投資先を頻繁に変更する追随型の行動も、長期的には非効率な結果を招く可能性がある。さらに、ヘッジファンドの投資で最も重要な要素の一つは、適切な運用マネージャーの選定であると考える。同一のスタイルの戦略でも、パフォーマンスやリスク特性には大きなばらつきがあることは、ヘッジファンドの特徴の一つであるともいえるが、運用手法やリスク管理の質は、長期的なリターンを大きく左右するため、慎重な選定が重要となる。
このように、ポートフォリオアプローチでは、異なる優良なマネージャー、スタイル、ファクターでバランスの取れた配分を構築する必要があるが、投資家が自らマネージャーを選択し、モニタリングまで行うのは困難である。また、マーサーでは分散の幅が広がりすぎるとリターンが平凡化するため、理想的には12~18のマネージャーに分散し、リスクとリターンのバランスを最適化できると考えているが、投資リソースの制約がある場合は、これも実現が難しい。そこで、ヘッジファンドポートフォリオの構築は、ファンドオブファンズや優良マネージャーへのアクセスを提供するゲートキーパーの利用が有効な選択肢となりうるだろう。これによって、スタイル、ファクターでバランスの取れた配分にとどまらず、国内からはアクセスが難しい優良なファンドマネージャーへのアクセスも可能となる。
著者
北川 春香
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