エイジズム、エイジフリー、そしてエイジダイバーシティへ ー 意識変化の一助としてのリバースメンタリング ー 

27 8月 2024

エイジズムとは何か

エイジズム(年齢差別)とは、1969年にアメリカ国立老化研究所の初代所長であったロバート・ニール・バトラーが提唱した概念で、年齢に基づく偏見や差別(例:「〜するには歳を取り過ぎている/若過ぎる」)のことを指す。レイシズム(人種差別)やセクシズム(性差別)に続く差別であると同時に、社会で最も許容されている偏見・差別とも言われている。

グローバル・日本における動向

年齢差別禁止規制はアメリカで最初に導入され、後にヨーロッパへ伝播した。アメリカでは、1967年に年齢差別禁止法が成立し、雇入れ・解雇・賃金・昇進・労働条件などについて40歳以上の年齢差別を法律で禁止した。EUでは、2000年に加盟国に対して年齢差別を禁止する国内法の整備を義務付けた。このように法律による規制は成立したものの、DE&I戦略の一環としてエイジズムを含めている組織はわずか8%(出所:ハーバードビジネスレビュー)、企業におけるエイジズムの取り組みが進んでいるとは言い難い。確かに、ジェンダー/人種/LGBTQI+/障がい者/退役軍人に関するEmployee Resource Group(社員の自発的なグループ)の取り組みは盛んである一方、年齢を軸とした取り組みは希少だろう。

日本では、年齢相応の振る舞いが美徳とされる風潮や定年・年功序列といった雇用システムによって、年齢を基準に一律で差を設けることが他国以上に当たり前だと社会に受け入れられてきたのではないか。一方、近年グローバル化や労働力不足の解消などの観点からジョブ型雇用や定年延長が進められ、年齢に依らず誰もが活躍できるエイジフリーの労働環境が整備されつつある。このように制度面での変革は進められているが、Silent Generation、Baby Boomers、Gen X、Millennials、Gen Zといった5世代が共に働く時代に突入する中で、人々の年齢に対する考え方や組織のアップデートはこれからだと感じられる。

エイジズムからエイジフリー、そしてエイジダイバーシティへ

人生100年時代、企業における年代の多様性がさらに進む中、私たちはどのようにエイジズムに向き合うべきだろうか。

議論が先行しているジェンダーにおいては、第1段階として男女雇用機会均等法により性別・婚姻・妊娠・出産による機会や待遇の差を設けることが禁じられ、第2段階で性別による機会や待遇の差をなくすだけではなく、その違いを尊重し多様性を組織内で受け入れて活用するよう求められきた。

エイジズムも同じ段階を経るとすれば、第1段階として年齢による偏見や差別をなくし、第2段階でその違いを認め合い、組織の成長に活かすという流れがあり得る。エイジズムからエイジフリー、そしてエイジダイバーシティへ、議論を発展させていくことが重要である(図1)。

図1. ジェンダーダイバーシティ/エイジダイバーシティ実現に向けて

出所:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」
定年・年功序列の見直しなどエイジフリーに向けた動きは進みつつあるが、エイジダイバーシティに向けた取り組みはまだ途上である。そこで、エイジダイバーシティを推進するためのヒントとして、「世代間の交流」に係る取り組みについてご紹介したい。

エイジダイバーシティの一助となるリバースメンタリング

世代を超えて双方が対等な立場で共通の目標を追求する取り組みの一つとして、リバースメンタリング(以下RM)がある。RMは、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOジャック・ウェルチが導入したと言われており、経営幹部がエンジニアから最新のIT知識を学んだことが始まりだという。

RMには、①若手からシニアへ、➁役職下位から上位の者へ、メンタリングを実施するというパターンがあり得る。例えば、日本のジョンソン&ジョンソングループでは、Employee Resource Groupの一つとして「すべての世代の多様性を活かすことを目指すGenNOW」を掲げ、「全世代がつながり、主役となれる会社を目指す」ために、経営層やベテラン社員がメンティー(相談する側)・若手社員がメンター(相談を受ける側)となるRMに取り組んでいる。効果として、アンコンシャスバイアスへの気づき、エンゲージメントの向上、若手や現場の意見の活用が挙げられている(図2)。

図2. リバースメンタリング事例

出所:日本経済新聞、各会社のリバースメンタリングの取組み記事
本コラムの執筆にあたって、実際に筆者自ら社内でRMを実施してみた。結論として、RMは世代や立場に関するアンコンシャスバイアスに気付き、考え方や行動の変容に繋がる施策として有効だと感じた。

RMの良い点

  1. 世代や立場を超えて、共通の悩みを抱えていると互いが気付き、それぞれの視点から解決案を提示し合える。普段はこのような機会は少なかったため、他者を知るとともに新たな視点を得ることにもつながった。
  2. 日頃の疑問を率直に共有し合うことで、それが個人の価値観によるものか、その世代における「常識」が反映されたものなのか理解を深められる。世代を意識し過ぎると、ステレオタイプで人を判断することにつながり兼ねないが、一方で世代間の違いが誤解やミスコミュニケーションを生んでいる場面もあるだろう。RMによって、自身がもつアンコンシャスバイアスに気付く。
  3. 若手社員がメンターになると、マネージャーに、組織やマネジメントの要望を率直に伝えやすい。マネージャー側から見ると、マネジメント力の向上に活用できるだろう。

RM実施上の留意点(図3)

  1. RMの実施目的を丁寧に設定・周知することが重要だ。知識・スキルのティーチングなのか、価値観や悩みの共有なのかにより、メンターの役割は大きく異なる。通常と立場が逆転するメンタリングだからこそ、毎回のテーマ設定や時間の使い方に迷いが出やすい。
  2. 他のメンタリングと同様、マッチングは重要な要素だ。RMの目的や対象者のニーズを反映せず、年代の違いだけでマッチングをしても対象者は十分に、この機会を活用し切れない。
  3. メンターである若手社員が積極的に発言するためにも、心理的な安全性を高める必要があるだろう。例えば、メンターが自由にアドバイスをして良い場であると周知したり、彼らの発言が今後のキャリアや評価に不利益を及ぼしたりしないよう工夫が求められる。
  4. 一方、シニア社員にも同様に心理的な抵抗や不安が生じると予想される。通常のメンタリングのように個人的な悩みは相談しづらい傾向があるため、抽象度を上げて一般的な課題へ昇華させるなど、参加者が対話しやすいようなテーマをガイドする必要がある。
  5. 他のメンタリングと同様、一度のRMがもたらす効果は限定的であり、継続して粘り強く取り組むことが重要だ。

図3. RM実施上の留意点

すべての世代が主役となれる組織・社会へ

本稿では、エイジズム・エイジフリー・エイジダイバーシティへという流れ、そして「世代間の交流」を促進する取り組みとしてのRMについてご紹介した。昨今内閣府が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年」において定年や役職定年の見直しを求めるなど、エイジフリーにむけた動きは活発化している。多世代が共存して働くこの時代、エイジフリーにとどまらず、世代間交流を通じて意識的に自身の価値観や既存の仕組みをアップデートするエイジダイバーシティまで見据え、すべての世代が主役となれる組織・社会となることを願っている。
著者
大野 翔子
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