生産性向上を意識した海外人事業務の見直し 

01 7月 2024

日本の労働生産性は世界と比べて低い

日本生産性本部より2023年末に公表された「労働生産性の国際比較2023」によると日本の国民1人あたりの労働生産性は85,239ドルでOECD加盟38ヵ国中31位と、最も低い順位となっている。また、日本における時間あたりの労働生産性は52.3ドルで38ヵ国中30位とこれも世界と比べ決して高くない。

そこで今回は、筆者が接している人事業務の中でも、とりわけ海外人事業務において、生産性をより向上させるための方策について考察する。

海外人事における業務

海外人事業務には、以下の通り海外駐在員の処遇制度を軸に、大きくは改定業務と運用するための様々な業務がある。
  1. 処遇制度(規程)の改定業務
    - 市場競争力を意識した、最新トレンドの把握と処遇制度への反映検討
  2. 制度に基づく業務
    - 駐在員候補の選定・育成
    - 赴帰任時の渡航に関する手続業務
    - 駐在員・家族状況(扶養状況)の管理
    - 海外給与計算(毎月の円貨/外貨支給、定期改定、臨時改定、赴任形態の変化による給与精算、通知業務 等)
    - 福利厚生面の運営(住宅・家具、自動車補助、子女教育、定期健康診断、医療、一時帰国等の支援等)
    - 駐在員からの問い合わせ対応
    - 各規定項目(例、一時帰国)における駐在員からの申請と承認業務

海外人事業務の生産性を高める

海外人事業務の中で、筆者が相談を受けることが多い項目として、海外給与の計算業務がある。給与計算では、一旦ミスをすると、単純な修正では済まされず、関係者への説明にも多くの時間と労力を投下することになる。このためミスをしないのは当然のこととして、時間をかけて慎重に執り行われている。よって、海外給与計算業務は、様々な海外人事業務の中でもとりわけ工数を掛けられている項目であることから、生産性の向上を考える上で、本業務に焦点を当てる。

海外給与の計算業務において、未だにエクセルで計算を行っている企業は少なくない。国内社員の給与計算業務はシステムを利用しているにも関わらず、海外給与計算は数百名単位で海外派遣を行っている企業でもエクセルで行っているケースが多い。

この理由に、自社内での国内社員と海外駐在員の人口比率が異なるためシステム化が国内と比べ劣後している点や、海外給与制度で一般的に採用されている購買力補償方式の場合、国内の給与計算システムに単純に当該制度を乗せることが困難であるという点が挙げられる。

一方で、エクセルによる計算を維持継続することの弊害として、海外給与計算業務の専門性が高いが故に業務が属人化してしまい、業務の標準化が進まない可能性もあるだろう。また、ある企業の人事担当者によると、海外給与の定期改定業務時には、2~3週間掛かりっきりだという。また、エクセルでコピー&ペーストが誤っていたり、行・列ズレが生じてしまったりすることもある。給与計算過程でミスに気が付けばよいが、それに気付けないまま、駐在員に給与通知すると、既述の通り関係者への説明・リカバリーに時間・労力を費やすことになる。

本業務に関しては企業規模や派遣規模によるところがあるのも事実だが、本業務を生産性という観点で見た場合、果たして生産性が高い業務といえるだろうか。海外給与の業務効率を改善し投下時間を削減できれば、処遇制度の改定業務といった企画業務に充当することも十分考えられるだろう。

生産性向上に向けた検討方向性

ここまで海外人事業務における海外給与業務を例に挙げたが、生産性を向上させる方法として考えられるのは、自社内で執り行うべき業務と、必ずしも社内で行わなくてもよい業務をあらためて棚卸しすることが重要だ。特に海外給与計算業務のように一定のルール(計算方法等)が確立しているのであればなおさらのこと、そのまま自前で行うのかを検討することが重要だろう。

その上で、当該業務における業務プロセスの見直しやシステム化ができないか、具体的には業務を専門性の高いベンダーにアウトソーシングすることで、属人化を解消する、計算業務を短縮することが実現できる。繰り返しになるが、ここで短縮できた時間を企画立案業務に投下することが可能となる。

数多くの日本企業における海外人事人事業務を見てきたが、海外給与計算業務に代表されるように、本業務は自前で遂行するというのが、日本企業ならではのスタンスだった。一方で、働き方改革やDX推進の流れの中で、これらの業務も今後変化の可能性を秘めている。業務の生産性の向上を図るためにも、海外給与計算業務のアウトソーシングの活用も含めた業務の見直し検討時期になっているのではないか。

著者
瀧川 輝政
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