役員指名における社外取締役の機能強化に向けて
10 6月 2024
「取締役候補者は次の通りであります。本候補者の選定に先立ち、当社取締役会の諮問機関であり、社外取締役が過半数を占める指名委員会での審議を経て、各候補者を決定しております」
株主総会招集通知の取締役選任議案における定番フレーズだ。指名委員会はいまや機関設計を問わずほぼ設置され、一般的にその構成員は社外取締役が過半数を占める。役員の指名は、このような外部性の強い指名委員会での審議という客観性・透明性の高い手続にて行われており、役員選任の監督機能が強化されている。
CGコード以前の時代における役員指名といえば、「社長の脳内人事」あるいは少数の右腕を含めた「密室人事」と揶揄されるほど執行側の一存およびプロセスが秘匿な状態で行われるものだった。2015年のCGコード制定を皮切りにコーポレートガバナンスに関する一連の改革が進み、少なくとも上場企業において脳内・密室人事は淘汰され、役員指名プロセスは冒頭のフレーズが定番化するほどに透明性が高まってきた。その一方で、筆者の経験上、社外取締役、CEO・社長、そして指名委員会事務局の方々の多くが、当然現状に満足せず数々の課題に向き合っており、形式・表面上の進化に実態が未だ伴いきっていないというのが実情ではないだろうか。
本コラムでは、コーポレートガバナンス改革を経ていまや当たり前の存在となった指名委員会の現在地を確認するとともに、投資家の期待や社外取締役自身の抱えるハードシップを踏まえて、今後の役員指名におけるさらなる社外取締役の機能強化に向けた処方箋について考えてみたい。
一連のコーポレートガバナンス改革後の指名委員会の現在地
コーポレートガバナンス改革が進んだことで、指名委員会への社外取締役の関与度合いは高まってきているのか。その実態を把握すべく、2024年4月時点のTOPIX100企業1の指名委員会において、社外取締役が過半数の企業の数、指名委員会委員長が社外取締役である企業の数を調査している。
[指名委員会において社外取締役が過半数の企業]
● 96社(その他は、社外取締役・社内取締役が同数の企業1社、指名・報酬いずれの委員会も設置なしの企業2社)
[指名委員会委員長が社外取締役である企業]
● 84社
- 指名委員会・報酬委員会分離開催企業:61社(94%)
- 指名・報酬委員会統合開催企業:23社(72%)
以上2つの調査結果より、CGSガイドラインでも提起2されている委員会における社外取締役過半、社外取締役委員長はデータで見ても概ね浸透してきたと言える。
さらに外部性・客観性を強めている企業では、社外取締役を過半どころか社外取締役のみで構成される委員会を設置する策をとっている。具体的にはTOPIX100では15社が該当する。
[指名委員会が社外取締役のみで構成される企業]
● 15社
- 指名委員会等設置会社:11社
- 監査等委員会設置会社:2社
- 監査役設置会社:1社
このように委員会の外部性は高まる一方、執行トップが委員としてメンバーに加わることを重要と考えている企業も依然多い。指名委員会に執行トップが含まれている企業は62社と全体の半数を超えていた。
[指名委員会のメンバーに執行トップを含めている企業]
● 合計62社
- 指名委員会・報酬委員会分離開催企業: 37社(57%)
- 指名・報酬委員会統合開催企業:25社(83%)
指名審議における客観性を求める度合い、企業として執行の意見を反映したい度合いによって各社考え方が分かれていると言える。当然ながら「あるべき正解」はなく、客観性・透明性の担保を前提として各社の経営の意思次第で色が分かれるのは自然だと筆者は考えている。
指名委員会における経営トップの関与度合いはバリエーションがあるとしても、これまで見てきたように委員の過半が社外取締役、委員長も概ね社外取締役が務め、そして執行トップが不在の指名委員会も存在することを鑑みると、指名委員会の実効性強化には社外取締役の機能強化が肝であることは言うまでもないだろう。
2 CGSガイドライン(2022年7月19日)における4.3 指名委員会・報酬委員会の活用を参照
投資家の社外取締役に対する期待
社外取締役が指名審議で抱える苦悩
役員指名における社外取締役の役割強化に向けて取りうる処方箋
上記のハードシップのうち、①②を生じさせている情報の非対称性については、社外取締役自らが情報を獲得して情報の量・質を高めていく必要がある。大変地道な取組みではあるが、候補者と直接対話し一次情報を収集することが求められる。現に、執行側・事務局にてあらかじめセットアップされた面談では素の人柄・ビジネススキル・センスを完全に見抜くのは困難なこともあり、「経営の現場」である経営会議等に陪席する社外取締役も存在する。情報の量としては常に候補者と接している執行側に勝ることはできないものの、自らより良質な情報を求め、情報の非対称性を改善しつつ外部者として新鮮な視点で有益な意見を言う確度も高まるのではないだろうか。
また、こういった取組みを社外取締役の自主的な姿勢・行動に任せるのではなく、仕組みとして確立することも望ましい。例えばエーザイ5では、「取締役の選任システム」としてどのように候補者を絞り組むかを仕組み化し、候補者の個別情報収集や指名委員による面談の組み込み等意思決定前に候補者をよく知る機会を設定している。
エーザイ
オムロン「社長指名諮問委員会」
ディスコ「代表執行役評価委員会」
当コラムでは、指名委員会の現在地を確認するとともに、今後の役員指名におけるさらなる社外取締役の機能強化に向けた処方箋について考察してきた。指名委員会の実効性強化に際し、参考になれば幸いである。