スタートアップ企業の成長を支援する報酬サーベイ
08 4月 2024
スタートアップ企業の報酬状況
「スタートアップ企業に転職すると年収が下がる」
少し前までこのような認識が一般的であったと思う。しかし、直近ではどうだろうか。2023年12月、日本経済新聞に「スタートアップ、平均年収700万円超え 上場企業上回る」1と題した記事が掲載された。調査対象企業内で23年度の平均見込み額を比較すると上場企業を上回ったという。
私自身、過去2度の転職活動を行った際、複数のスタートアップ企業から話を伺ったところ、2年前でも大手企業と遜色のない水準が提示されており、過去からのイメージが大きく変わった実体験がある。
現職では、スタートアップ業界の人事担当者様から市場報酬データに関するお問い合わせを多く受ける。よく耳にする課題としては「採用力強化のため自社報酬水準を調査したい」、「退職理由で報酬の点が指摘されており、リテンション強化のためにベンチマーク企業の水準を把握したい」などだ。
冒頭の記事の通り、スタートアップ企業の報酬水準は上昇しているものの、報酬に関する課題が多いというのだ。内容を詳細に伺うと、スタートアップ企業全体を平均としてみれば、各社が報酬を上げているのは明白だが、業界や職種によって上昇幅も報酬水準も実際は大きく異なっているという。中でも、ハイテク関連職種の採用や引き留めが年々困難になっており、その一つの要因が報酬だ。
例えば、2024年3月22日に第2回速報があった連合の賃上げ平均は5.25%と、5%超の上昇は1991年以来33年ぶり2となった。マーサー総報酬サーベイ(後述)で、ポジション別の水準変化を分析してみると、2023年のサイバーセキュリティ職種課長レベルの基本給は2022年と比較し9.5%も上昇3しており、世間的な昇給率をはるかに超える変動が起こっている事実が見て取れる。
市場動向に限らず、業界や職種、職層別の適正な報酬水準の変化を常に把握しておくことが、今後ますます重要だろう。
2 日本労働組合総連合会 2024 春季生活闘争 第 2 回回答集計結果について
3 2023 Japan TRS YoY Trends Report, Same Incumbent - Percentage Change in Compensation (by Job, Org Weighted)
マーサーが提供する報酬データソリューション
スタートアップ企業における人事担当者の方々に、「今までは競合他社の報酬水準をどのように把握していましたか?」と聞くと、以下の回答が多く寄せられる。
- 今までの人事経験を通じた肌感覚
- 転職サイト掲載のオファー金額を目検で確認し参考にしている
- 中途採用の従業員から他社オファー金額ヒアリングする
昨今、容易にアクセスできる情報は数多くあるが、より正確な報酬水準を把握いただけるツールとして、マーサー総報酬サーベイについて触れたい。当サーベイは各社参加型の報酬データベースであり、業界別、企業規模別、職種・職層別、年齢別等の比較条件を組み合わせて市場水準を参照できるサービスだ。報酬項目も基本給、役職手当など各種手当を含んだ報酬額、変動賞与は短期・長期インセンティブを含んだ項目など、細かく指定しデータ抽出・比較が可能である。
日本における最新の2023年調査では1,237社が参加し、うち日系企業の参加企業数は579社に上り、ここ5年で約10倍に増加した。スタートアップ業界(メガベンチャーを含む)からの参加企業数も年々増加しており、2023年は約50社(前年比+10社/25%)が参加し、報酬水準調査に対する関心の高まりがうかがえる。
特にスタートアップ企業の採用は、大企業からの転職者数も増加傾向が続いているため4、日系大企業のベンチマークはもちろんのこと、規模に関わらず同業界や外資系企業のベンチマークも必要となり、柔軟な切り口で比較分析ができる本サーベイの利用価値は大きいと考えている。
スタートアップ企業に向けての様々な支援
マーサーでは、今後の日本の成長を担うスタートアップ領域の企業の皆様を支援できるよう、様々な施策を検討、実施している。
2022年にはスタートアップ企業の人事制度に関わる調査、2023年にはスタートアップ企業のエンジニア職報酬調査を無償で行った。結果、エンジニア職報酬調査は113社のスタートアップ企業の参加へとつながった。
参加特典として約80ページもの分析レポートを提供しており、スタートアップ業界内での報酬水準が把握でき昇給の参考材料として活用したとのコメントも複数いただいている。
調査期間終了後も「調査のことを知っていれば参加していた」等、強い関心を寄せた企業が多かったため、この度スタートアップ企業エンジニア報酬調査を再開し、いつでも調査に参加いただき、最新のレポートを入手いただける仕組みに変更した(レポートは年2回刷新予定)。現フェーズで必ずしも報酬サーベイが必須でない場合でも、マーサーが継続発信している情報やツールの活用を通じて、自社制度にお役立ていただけるのではないだろうか。
報酬調査だけでなく、スタートアップ企業様に対しての組織人事領域の幅広い支援実績も多数ある。また、スタートアップx組織人事|noteでは、組織・人事コンサルタントの有志が集まりスタートアップ・ベンチャー企業の役に立つ情報を日々発信している。
報酬サーベイの活用で得られる課題の解消
あるスタートアップ企業に本サーベイの活用についてヒアリングを行ったところ、筆者にとって新鮮な意見を頂いた。
「報酬サーベイを継続して利用した結果、ベンチマーク企業群の水準が把握でき、自社報酬の修正に役立った。根拠のある数字を用いて説明できるようになったことで、以前に比べ社内の納得感も得られやすくなった。以前は議論をしても報酬が課題の着地点になることが多々あったが、ミッションやビジョンの訴求など他のポイントへと議論が活発化し、幅広い課題に対応できるようになった」
このように、不安材料を不安のまま残さず、次の一手に進めることにつながった点は非常に有意義だと感じた。マーサーでは総報酬サーベイに限らず幅広いソリューションを取り扱っており、それぞれの企業が抱える本質的な課題に一つずつ向き合い、変化させることができるものだと考えている。スタートアップ企業様の企業価値向上に貢献すべく、日々の提案活動を継続していきたい。