ポストコロナ時代に再考したいグローバル人材の見つけ方 

ポストコロナ時代に再考したいグローバル人材の見つけ方

21 3月 2024

日本人は内向きになったのか?

「最近は海外に行きたがらない若手が増えている」

普段クライアントに接しているとこういった声をよく耳にする。この文脈では海外派遣を指しているが、確かにニュースを見ていても最近は円安の影響も相まってか、インバウンドに対しアウトバウンドに関するニュースは乏しい。2023年3月に実施された若者を対象とした意識調査1では、コロナ禍以降の海外旅行への意思について、半数近くは興味がない、もしくは行きたいとは思わないという結果が出ている。また当該調査では、6割近い若者が留学に関心がないとも回答している。果たして、そうなのだろうか。

1 SHIBUYA109 lab. 「Z世代の海外に関する意識調査」, 2023年4月

海外を経験する人は増えている

データで少し過去を振り返ろう。出入国管理統計(出入国在留管理庁)を確認すると、1960年では12万人であった日本人出国者数は、プラザ合意時の1985年では495万人、バブル期の1990年では1,100万人となり、さらに新型コロナ前の2019年では初めて2,000万人に達している。

また、30歳未満の世代に限定しても1990年から2019年では382万人から585万人と50%以上増加している。しかもこの世代はすでに人口減少が始まっている。同世代人口に対する出国者数の比率で見れば、同期間で5.8%から12.1%と倍増する。
つまり、日本人は長期にわたり、出国者数ベースでは右肩上がりで増加しており、またそれは若者世代に限定しても同様なのだ。

海外派遣者候補が足りないのはなぜか?

それでは、なぜ冒頭のような声が挙がるのか?従業員個々人の理由や、各社ごとの事情は当然あるだろうが、マクロな視点で考えてみると、事業の海外展開のスピードに対して、グローバルで活躍しうる人材(以下、「グローバル人材」と呼ぶ)の供給が追い付いていないのではないかと思われる。

そのような人材の供給について実績ベースだが、定量的な近似指標として海外在留邦人数調査統計(外務省)のデータが参考となりうる。確認できるデータは限定的だが、1996年における民間関係者の長期滞在者数2は29万人であったのに対し、2017年では46万人と、この20年強で63%増、年平均上昇率では2.3%だ。これは、日本の人口および就業者数がこの期間でともに年平均0.04%3しか伸びていないことを考慮すると驚異的な数字である。

一方で事業の海外展開を表す近似指標としては企業の財務データや政府の統計調査が有益だろう。東証市場(プライム、スタンダード、グロース)に上場している企業のうち時系列比較が可能な503社4の売上全体に占める海外売上比率は先と同期間(1996~2017年)では中央値で25%から51%へ上昇、503社合計の海外売上額は91兆円から191兆円と倍増している。また、海外事業活動調査(経済産業省)の現地法人売上高は同期間では124兆円から289兆円と2倍以上となっている。それぞれの売上総額の年平均上昇率は3.6%と4.1%であり、先述した民間関係者の長期滞在者数の年平均上昇率を1.5パーセントポイントほど超過している。

つまり、海外展開を進める事業のスピードは日本のグローバル人材のファンダメンタルに比べて明らかに速いのだ。

2 民間関係者の長期滞在者数には留学生や政府関係職員が含まれる
3 総務省人口統計および労働力調査より算定
4 Speedaよりデータを取得

海外派遣者候補を確保するには

今後も日本の企業はグローバル展開を進めるだろう。そのためには引き続きグローバル人材の確保が必須条件だ。しかし、先述してきた過去20~30年とは今後はファンダメンタルが変わり、日本はこの先人口が減少する。国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、現在1億2,400万人である人口は2050年には1億500万人5まで減少するとされる。それは年平均-0.6%ほどであり、さらに労働力人口(15~64歳)に限定すれば、それは年平均-1.1%まで悪化する。

それでは、自社のグローバル人材を確保するにはどうすれば良いのか?大きく、3つ挙げられるだろう。

1つ目は従来通り、自社の社員をグローバル人材へ育て上げる方法である。経営層から海外派遣を促すトップメッセージはこれまでどおり影響力のある手段だが、転職が当たり前となりつつある現在では離職のリスクを考慮しなければならない。注力すべきは、社員自らがそう望む環境を用意することだ。それには、海外勤務に対する金銭的なインセンティブの拡充の他にも、帰任後もしくはグローバルビジネス環境でさらなるキャリア機会の提示などが見込めなければ、社員はリスクを取らないだろう。また、近年では共働き世帯が一般的となりつつある。そのため、いくらインセンティブ等を用意したとしても、パートナーへの配慮ある施策が整備できていなければ、社員の意向を引き出す必要条件を満たすことはできないだろう。

2つ目は労働市場から予め海外派遣を望む人材を獲得する方法だ。しかし、そういった人材は新卒、中途問わず獲得競争が激しい。そのために講じられる施策は多様にあるだろうが、主な手段の一つとしてはやはり他社に負けない賃金を提案することだろう。グローバル人材の獲得フェーズにおいて、競合相手は同業他社だけではない。商社や外資系企業も競合となりうるため、弊社が提供する総報酬サーベイといった客観的なデータベースに基づいた競争力のある報酬の制度設計が必要となる。

最後は、海外法人の社員を日本へ派遣して、訓練したのち帰任させる方法である。この方法は概念上では1つ目に含まれるが、日本の企業の多くは日本人の海外派遣を前提としているケースが大部分であるため区別したい。この方法は従来の日本人を海外へ派遣させる方法に比べ時間も掛かり、また派遣者当人の言語面での負担も大きい。ただし、日本人を派遣するよりもコスト削減となるケースも考えられ、また帰任後は離職されない限りは人材のローテーションが生じないため、従来の方法と異なり現地で継続的な効果が期待できる。また、実際に日本の本社で企業文化や企業哲学を肌で学んだ社員は、帰任後には現地の人間の気質と日本企業のカルチャーを融合・昇華して、より望ましい職場環境を築けるだろう。何よりこの方法では、人口による制約をほぼ考慮する必要がないどころか、人口の増加という恩恵を享受することも可能だ。

日本は人口が減少する国である。国内需要の縮小を前提とすれば、日本の企業はより一層グルーバル市場の中での競争が求められる。しかし、その事業を担う人材を国内のみに依存するのは、今後は困難となる。従来通り、日本人を海外へ派遣するには人材コストが増加していくだろう。教育コスト等を考慮しても、海外の人材を活用する方がコストベネフィットを享受できる時代はいずれ来る。今後は日本の企業文化も、日本人以外の手によって広げていく試みが必要になってくるかもしれない。

5 国立社会保障・人口問題研究所の出生中位(死亡中位)推計
著者
白根 啓史
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