タイの企業年金制度が義務化される? 

タイの年金

15 3月 2024

タイには、製造業を中心とする日本企業の現地法人が多くあり、ジェトロ・バンコク事務所が実施した調査によると、2021年3月時点でその数は5,863社に上る1。タイの人口は6,609万人2であり、日本と同じく近年は少子化・高齢化が進み、タイ政府は、60歳以上人口の割合が2020年の18.1%から2040年には31.4%程度になると見込んでいる3。高齢者の所得補償を強化することを目的に、加入が任意の企業年金制度が義務化される法令の施行が間近に迫っている。本稿では、タイの年金制度の概要、法改正のインパクトについて解説したい。

タイの年金制度の概要

下記の図は、タイの年金制度の枠組みを表したものだ。民間企業については、日本と同じく4階建て(個人年金含む)である。
1階・2階部分は公的年金となっており、1階部分は貧困を防ぐための最低限(一律月額800 THB)の老齢福祉手当(Old Age Allowance, OAA)、2階部分は日本の厚生年金保険制度と似ている社会保障制度(Social Security Office, SSO)である。その上の3階部分には任意加入4の企業が運営する確定拠出年金制度の積立基金(Provident Fund, PF)、4階部分は個人年金という構造だ。
4 タイ証券取引所(SET)に上場する会社は義務加入となっている

タイ政府による年金制度法改正の経緯

現時点では3階部分は企業の任意加入となっているが、前述のとおり、高齢化が進むことが予見される中、タイ政府は、公的年金部分の保障だけでは高齢者の所得保障には不十分とし、任意加入の3階部分を義務加入とする方針だ。すでに、本法案は2021年3月に下院に可決され、現在上院にて詳細な法整備を行っている。今後は国務院の可決を経て、タイ国王の承認を得たその日に施行される予定である。

法改正の内容

本法案の施行により、(1)PFに加入していない企業は本法案により新たに設立される国が運営する国民積立基金(National Pension Fund, NPF)に加入させ、(2)すでにPFに加入している企業に対しては、その加入者の事業主合計拠出率について、NPFが定める最低拠出率を下回らないようにする、とされている。今まで、拠出率が2%~15%のなかで収まれば良いとされていたPFが、本法案により制約が課されることになる。

ただし、事業主に対する激変緩和措置として、最低拠出額は施行日から段階的に引き上げられる予定である。具体的には、施行日から3年以内に月給の3%、4年以降6年以内に月給の5%、7年以降9年以内に月給の7%、10年以降に月給の10%、とされている。
本法案の具体的な法整備はいまだに議論されている最中であるため、上記の最低拠出率やどのような階段を設けるかもまだ変わり得るものの、現時点で将来のコストインパクトを確認しておくことは望ましい。

事業主・従業員拠出率

モニタリングの必要性

世界中には、法改正の施行タイミングが見込みにくいタイのような国が少なくない。そのため、各国拠点の年金制度の動きをあらかじめ把握しておかなければ、ある日突然コスト増を迫られる可能性は多いにある。年金制度は、それ自体複雑で各種判断も難しく、なかなか手を付けにくい分野である。しかし、法改正によっては大きなコストインパクトをもたらすため、常時からモニタリングできる体制を整えておくことが望ましい。その第一歩として、現状の各拠点の制度内容の把握(見える化)を推奨したい。
著者
リー・マイケル
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