リテンションボーナスのグローバルでの活用動向
15 2月 2024
リテンションボーナス
- 付与対象
約7割のディールで対象会社のCEOにリテンションボーナスを付与している。データの母数に偏りがない前提で比較すると、2017年調査では6割程度であったので、この5年余りでより手法として一般化したと考えられる。CEO直下の階層に対しては約8割がリテンションボーナスを付与しており、CEOよりも高い付与率となっている。また、特定の業界(ハイテク、ライフサイエンス)では特に活用率が高く一部の階層では9割に達する。
- 支給条件
リテンションボーナスの7割は、在籍条件のみで支給される設計である。業績条件との組み合わせも一部にみられるが、業績条件のみでの支給はほとんど見られない。
- 支給手段
約6割が現金のみ、残りの約4割は株式報酬や株式報酬との組み合わせである。2017年調査では8割以上が現金であったので、株式報酬の活用が進んだと言える。
- 支給額
基本給に対する比率で設定するだけではなく、固定額での設定も一般的である。
トランザクションボーナス
- 付与対象
対象会社・事業のCEOへの付与率は6割程度。執行役員・部長クラス未満の従業員についても付与されている例がある。
- 支給条件
ディールのクロージングなど所定の条件のもと、定額で支給される場合が過半数を占めるが、ディールバリューなど変動要素を設けた設計も見られる。
日本企業におけるリテンションボーナス・トランザクションボーナスの傾向
さて、気になる日本企業におけるリテンションボーナス・トランザクションボーナスの活用状況であるが、本調査に含まれる日本に本社がある企業(日本企業)のサンプル数が限定的なため、現時点で明確な傾向の分析やコメントはやや難しい。
筆者の肌感覚では、海外企業買収における経営者リテンションは引き続き日本企業の重要課題となっているものの、一部の企業においては、株式報酬の繰り延べなど複雑な制度設計・交渉を伴うケースでの成功体験も積んできており、中でも経営者をまずは引き留める点については、自信を深めてきているように感じられる。一方、引き留めた経営陣を適切にコントロールし、買収目的を達成するという点については、多くの企業がいまだ試行錯誤・発展途上の段階にある。
日本企業同士のM&Aについていえば、10年ほど前まではリテンション施策の必要性が議論されることはまれであったが、ここ数年は増加してきている。背景には、国内でも株式報酬制度の広がりにより、買収成立時の精算金が十分に大きいケースが増えてきたことや、経営者転職市場の発達により有能な経営者のフライトリスクが現実的になってきたことがあると想定している。
また、様々なステークホルダーからの要請を受けて、日本企業においても事業再編の機運が高まるなかで、対象事業を「高く、遅滞なく、手離れ良く」売却するためには、対象会社・事業の経営陣による前向きな協力を得る重要性が増している。特に海外事業の比重が高い売却案件においては、日本企業を売り手とするケースであってもトランザクションボーナスがより一般化する兆しを感じている。
マーサージャパンでは、M&Aディールにおけるリテンションボーナス・トランザクションボーナスの活用について日本企業を対象としたサーベイを実施予定である。本調査を通じて見えてきた傾向については、サーベイに参加された企業への優先開示はもちろん、マーサーのウェブサイトなどを通じて情報発信する。是非ご期待いただきたい。