ウェルビーイングを意識した海外派遣者処遇を目指して
14 2月 2024
海外派遣規程および福利厚生制度調査(IAPPS)の活用方法
近年、ウェルビーイングの重要性が注目されている。この背景にはコロナ過を経て人々が生き方や働き方について再考する機会を得たこと、そして企業が社員のウェルビーイングの向上が社員の生産性やエンゲージメント、ひいては企業価値の向上につながると認識し、様々な施策を打ち始めているということがあるだろう。これは海外派遣者に対しても同様で、これまでは金銭的な処遇に注目されがちであったものが、ウェルビーイングに関わる施策、つまり海外派遣者の身体的、精神的、社会的な健康のための施策が重要だという意識が広がりつつある。ウェルビーイングの視点をもって自社の規程を見直してみてはいかがだろうか。
マーサーではこのたび「海外派遣規程および福利厚生制度調査(IAPPS)」2023年版の結果レポートをリリースした。およそ2年に一度日本企業を対象に海外派遣に関わる人事・給与・福利厚生制度を調査したもので、最新調査では過去最多となる648社の日本企業が参加しており、日本企業のプラクティスを確認いただける貴重なデータと言える。調査内容は海外給与の計算方法から各種手当の水準、福利厚生施策の中身、そして最新の調査で新たに追加したウェルビーイングに関する施策まで幅広く、海外派遣者処遇で考慮すべき項目が網羅されている。
本レポートの活用方法として最も多いのが特定の手当の水準を確認するものだ。例えば「一律10万円」としている海外勤務手当の水準が他社と比較して十分なのかを検証したい場合は、手当額の結果を確認することができる。そして、もう一つの活用方法が、処遇・施策の網羅性の確認である。本コラムでは、派遣者およびその家族のウェルビーイングに影響があると考えられる項目の結果をいくつか取り上げながら、どのような視点で自社の規程の網羅性を確認いただけるかをご紹介したい。
赴任前視察と異文化研修
海外派遣者のウェルビーイングの向上には、まず赴任前の施策から関係してくる。例えば赴任前視察だ。これは派遣先の住居や⽣活環境を視察することを目的に着任前に渡航することを会社が補助する施策で、着任後に派遣先での生活設営をスムーズに進められることに加え、「こんなはずではなかった」というギャップを埋めるために有効な施策だ。最新の結果ではこの施策を規定している企業は22%(140社)と少ない印象だ。また、目的が類似する施策として派遣先の慣習を事前に知っておくための異文化研修の提供もあるが、実施している企業は25%(156社)とこちらも低い割合に留まっている。なお、派遣者に限らずその家族が派遣先の環境に適応できず早期帰任に至る残念なケースも少なくないことから、施策の対象者についても注目してみたい。赴任前視察においては、規定はしていないが運用上補助しているという企業を含め、日本においての補助対象は本人のみとしている企業が多く、配偶者や子女を補助対象としている企業はそれぞれ47%(116社)と22%(54社)に留まる。
マーサーグローバルの調査1では89%の企業が家族も補助対象とする結果となっており、日本のプラクティスとの乖離が見られる。また、異文化研修についても日本では派遣者本人のみを対象としている企業が多いのに対し、グローバルの調査1では8割を超える企業が家族も補助対象としている。少しでも不安を減らして派遣先での生活をスタートし、任期を全うして帰任してもらうためにも、これらの施策は派遣者本人だけでなく、その家族も含めてぜひご検討いただきたい。