市場競争力のある報酬とは?報酬構成見直しのススメ
03 12月 2023
「市場競争力の強化」が賃上げの大きな目的
2023年は「昇給」に関して大きな関心が寄せられた年であった。経団連は、「2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)」*1として、毎月決まって従業員に支給する月例賃金の引き上げ率が3.99%となったと発表し、1993年以来30年ぶりの引き上げ率となった。2023年9月にマーサーが実施した調査*2では、回答企業の半数以上が24年以降も賃上げを行うとしている。賃上げの動きは来年以降も継続するものと予想される。
同調査によると、賃上げ検討の際に参照する要素として「業界内の競合の報酬水準・賃上げ動向」および「採用市場・採用競合の報酬水準・賃上げ動向」を挙げる企業は全体の回答数のうち45%を占め、各社賃上げ検討においては報酬の市場競争力の強化を重視するケースが多いことが分かる。
総報酬サーベイによる市場報酬ベンチマークへの関心の高まり
各社が市場競争力の強化を重視される中、それに伴い弊社の総報酬サーベイ*3を活用する企業は年々増加傾向にある。
総報酬サーベイとは、各社が自ら提供する従業員の給与データを、汎用的に活用できるようにデータベース化したものであり、 産業別、企業規模別、職種・職位別、年齢別等の比較条件を組み合わせて市場水準を参照できるサービスだ。最新の2023年調査には1,237社が参加し、うち日系企業の参加企業数は579社にのぼり、ここ5年で約10倍に増加した。
総報酬サーベイに参加する目的としては「市場競争力のある報酬制度への改定」・「中途採用の際の報酬ベンチマーク」・「離職引き留めの際の報酬ベンチマーク」の3つが代表的であるが、いずれもまずは総報酬サーベイを活用し市場の中での自社の立ち位置を確認したい、他社よりも報酬総額が優れているのかを確認したいと相談を受けるケースが多い。市場競争力のある報酬を考える際に、最初に報酬総額のベンチマークをするのは重要であるが、報酬の内訳・構成がどうなっているかを検証することも重要であると考えている。
そこで今回は報酬構成にスポットを当てて日系企業と外資系企業とで比較をしていきたい。
変動報酬割合が高く、会社有利の報酬制度となっている日系企業
役割の大きさ(ジョブサイズ)別年収(総現金報酬)に占める変動報酬の割合
上の図は弊社の規定する役割の大きさ(ジョブサイズ)別に年収(総現金報酬)に占める変動報酬の割合を2023年の日本の総報酬サーベイ内での日系企業と外資系企業、そしてUSの2023年の総報酬サーベイのデータと3種類にて比較したものとなる。
役職についてはそれぞれ一般的な企業で該当する役割の大きさ(ジョブサイズ)にて示している。
読者の皆様にとっては意外に感じるかもしれないが、日系企業の変動報酬の割合が高い背景には固定賞与が含まれているケースが散見されることがある。日系企業の人事担当者の方によると、日系企業の賞与は毎年の労使交渉結果によって決定し、その年によって支給額が変動し経営状態によっては0にもなり得るため、賞与は全て変動報酬に含めサーベイデータを提出すると言うのだ。日系企業において賞与は会社の状況に応じて支給額を変動することが可能で、年収に占める割合が高いため、人件費の調整弁となっているのである。
一方、従業員にとってはその年によって受け取る報酬に大きな変動が起こる可能性があり、特に比較的報酬の低い若手層にとっては生活費の見通しが立てづらくなり、その結果、離職につながってしまう可能性が高まる。また、会社業績に責任を持たない若手層においても変動要素を高く持たせており、総じて日系企業の報酬制度は会社側にとって有利なものとなっているのである。
これから考えるべき市場競争力のある報酬構成とは
前段を踏まえ、今後の検討としては役職に応じて変動報酬の割合を見直し、階層が上がるにつれて変動報酬の割合を引き上げる仕組みに変化させることが考えられる。
若手層は固定報酬の割合を高めて生活の安定を保証することでエンゲージメントの向上につなげることが期待できる。一方で管理職以上には徐々に変動報酬の割合を高めつつ、目標達成時には市場よりも高い水準の報酬を支払う設計にすることで成果に見合った納得感の高い報酬を実現することができる。
報酬構成の見直しによって、社員にも一定の配慮を持った報酬制度というメッセージ性を持たせることが出来、結果としてエンゲージメントも高めることの出来る市場競争力のある報酬となるのではないか。
より市場競争力のある報酬制度を構築するために
資料出所
*1 2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)
*2マーサー 『昇給・新卒初任給に関するスナップショットサーベイ』(2023年9月実施)