マーサーM&Aお悩み相談室 第2回 

17 10月 2023

質問

日系製造業人事部の者です。当社では米国企業の買収を検討しており、ディールチームに初めて加わりました。事業部からは、ディール成立後も現経営陣が続投することが極めて重要なので、人事部としてもしっかり見てほしいと言われています。実務は人事アドバイザーに依頼する予定ですが、本当に経営者を辞めないようにすることはできるのでしょうか。もし辞めてしまったらどうするのでしょうか。

回答

結論から申し上げますと、買収先の経営者を絶対に辞めないようにすることはできません。

ただし、辞めにくくすることはできます。この方法を「リテンション施策」と言い、代表的なものは次の通りです。

  • 金銭的な動機づけ(クロージング後一定期間の在籍を条件に支給されるリテンションボーナス等)
  • 非金銭的な動機づけ(買収後の事業成長に対する期待感の醸成、その中でより大きな役割を付与する等) 

この例を見ていただければお分かりの通り、絶対に辞めないよう確約することはできません。仮に、クロージング後N年間の雇用契約を締結したところで解約できますし、途中で辞めることを完全に防ぐことは不可能です。

では、もし辞めてしまったらどうするのでしょうか。

答えは、3つしかありません。対象会社内で(1)昇格させる、(2)買い手から派遣する、(3)外部から採用する、のいずれかです。

なんだ当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、この準備(「プランB」)ができているかどうかが、万が一経営者が辞めてしまった場合の企業価値の低下を最小限にとどめられるかどうかの分かれ道になると言っても過言ではありません。

人事部としては、効果的な「リテンション施策」を検討するのに並行して、万が一これが失敗した場合のプランBを念頭に対象会社のサクセッションプランの検証、貴社内の人材プールの有無、外部採用の場合に想定される報酬水準の確認を進めておくべきでしょう。

──えっ、「この経営者がいなくなったら、この会社を買う意味なんかない」と担当役員が言っている?

それが人事部に発破をかけるための言葉ではなく、本音なのでしたらこのディールはかなりのギャンブルと言わざるを得ないかもしれません。

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著者
野坂 研
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