デジタルインドの歩み ~デジタル人材獲得に向けた10の施策~ 

05 12月 2022

いかにしてデジタル人材大国になったのか

 

AI、機械学習、データアナリティクスの専門家やシステム開発人材の獲得競争は、今や世界中で加速しています。日本でも、実際に高度専門人材を探すとインド人に出会う確率が高く、インドのデジタルパワーを感じたことがある方も多いのではないでしょうか?マーサーインドで豊富な経験を持つコンサルタントによる解説記事を日本語に翻訳・編集してお届けします。

原文も併せて確認ください。

 

政府によるインドのデジタル推進施策とその成果

2022年度は、インドのテクノロジー産業が目覚ましい成長を遂げた年です。デジタルとイノベーションの掛け合わせを勝ちパターンにして、テクノロジー産業の成長率は過去最高の前年比15.5%を記録、売上高は2,270億USDに達しました。また、当該産業で働く就業者数が500万人を突破したことも画期的な出来事といえるでしょう。テクノロジー企業は「人材ファースト」を掲げて、いち早くハイブリッド型ワークモデルを取り入れることで、プログラム開発の能力/規模の急拡大を実現しました。

現在、インドの国内総生産に占めるデジタルの割合は30~32%、就業国民の3人に1人がデジタル技術を身につけています。これによりグローバルソーシング市場において、インドは59%のシェアを占め「グローバルデジタル人材大国」としての確固たる地位を築いています。以前は、デジタル技術の普及やテクノロジー産業の成長の一方で、技術知識を持つ人と持たない人の間に生まれる経済格差が深刻化しており、デジタル産業、ひいては国全体の成長にも影響を及ぼしていました。

この格差を埋めるため、2015年7月、インド政府は「デジタルインド」構想を打ち出し、小さな農村部までを含むインド全土におけるインターネットインフラを整備、電子政府、モバイルe健康サービス、デジタルファイナンスなどさまざまな取組みを通じて、全国民のライフスタイルのデジタル化を推進しました。

さらに、デジタル化の進展を遂げたインドでは、安価に設定されたデータ通信料のおかげで誰もがインターネットへアクセスすることができ、デジタル決済インターフェース(UPI)の利用も直近2年で倍増しました。UPI経由の取引数は、2020年3月の12.5億件から2021年3月には27.3億件(>2倍)まで伸びています。これらの政策によってインドは数年の間に、デジタルインドへと変身を遂げました。

また、政府のデジタル技術を駆使した経済施策は、すべての産業を潤すと予想され、情報技術・ビジネスプロセス管理、デジタル通信サービス、電子機器製造などの中核デジタル分野は、2025年までにGDPが3550~4350億USDへと倍増が見込まれています。

 

官民一体となったデジタル人材の育成

今日の世界では、企業だけでなく国という単位でも人材獲得競争に勝つことが、経済やビジネスの勝負を決める時代です。政府は世界中の人々が、デジタル技術といえばインドをイメージし、世界の人材市場でデジタル人材のハブとしての位置づけを確立することを目指して、National Association of Software & Services Companies(NASSCOM)と協力して、国を挙げたデジタル人材の育成施策を推進しています。

例えば、電子情報技術省とNASSCOMが立ち上げたFutureSkills Primeは、デジタル技術のスキルアップインセンティブプログラムのプラットフォームです。これは、国内のイノベーションと人材のスキルアップ・リスキリングのためのポータルです。AI技術を活用して急速に変化する市場の人材ニーズ、特に若年層の人材需給ギャップに対して、インドの就労層にデジタル技術訓練の提供を通じてギャップ解消を支援しています。インドでは、政府と業界が一体となって、デジタル人材を国の重要な競争力の1つとして育成しているのです。

 

インド企業におけるデジタル人材獲得に向けた10の施策

 

パンデミックによって、企業におけるデジタル変革は加速の一途をたどり、インドではデジタル人材市場がますます過熱しています。市場のデジタル人材は、自分の市場価値とビジネス価値を十分に認識しており、激しい争奪が繰り広げられる中、競うようにインド企業は、優秀なデジタル人材を獲得し引き留めるために様々な工夫をこらした施策を実施しています。今日はその中から10の施策をご紹介します。これらの施策の中に、現状の日本企業にとって参考となる点があるのではないでしょうか?

 

デジタル人材とは?

デジタル人材は、年齢、職業、性別、就業地などの項目によって定義されるものではありません。デジタルマーケター、ソーシャルメディア戦略担当、データサイエンティストなど、新しいジョブのキャリアパスは従来のテクニカルスキルとビジネススキルの組み合わせによって形作られています。テクニカルスキルとしては、単に技術の使い方を知るだけでなく、その背景も含めた理解が求められます。デジタル人材とは、テクノロジーとビジネスを等しく使いこなす、進化したプロフェッショナルといえるでしょう。

 

デジタル人材獲得・育成・リテンションは世界的な重要課題

ここ数年、ハイテク業界に限らずデジタル技術を駆使できる人材の獲得・育成・定着は、すべてのリーダーや人事担当者にとって重要な課題の一つです。デジタル人材の需給ギャップが広がっているだけでなく、適切な人材を適切なタイミングで確保できないことによる機会損失に直面しています。この職種の離職率の上昇と人材不足は、世界的な現象です。

 

デジタルベースの仕事観やマインドセット

技術の進展は、人材に求めるスキルだけでなく、業務戦略や仕事の進め方、職場環境、マインドセットにも影響を与え、伝統的な環境では、デジタル人材を十分に活用できない、または職場に引き留められないケースも見受けられます。デジタル人材の多くは、Z世代、ミレニアル世代などデジタルネイティブ世代です。彼らを惹きつけるには、組織の文化にもデジタルを導入していく必要があります。技術的側面だけでなく、革新的で柔軟な思考や多様性の確保など、組織は組織文化の改革を加速させることが不可欠です。

 

  伝統的な仕事観 デジタルベースの仕事観
戦略 効率 イノベーション
文化 階層 協働
人材 低コスト 高スキル
テクノロジー システム構築 クラウド、モバイル、アプリ開発
プロジェクトマネジメント ウォータフォール式 アジャイル
ビジネスモデル サービス・サポート提供 提携・パートナーシップ

インド企業におけるデジタル人材の獲得のための10の施策

  1. 人材獲得の基本は4C(Career、Communication、Celerity、Compensation)重要人材には思い切った報酬の差別化を
    人材獲得の基本的な戦略は、キャリア(Career)、コミュニケーション(Communication)、スピード(Celerity)、報酬(Compensation)といえます。この4Cアプローチで効果的に人材を獲得できます。一方で、重要なデジタル人材には、躊躇することなく市場競争力、公正な給与原則、コスト最適化のバランスを考慮した差別化された報酬のアプローチを取りましょう。
  2. 報酬はジョブベースからスキルベースへ
    近い将来、ジョブはスキルクラスターに変化し、スキルが仕事・成長・人材流動性・報酬のベースとなっていくでしょう。その中で、企業はスキルに焦点を当てた報酬の決定を求められるようになります。報酬の定義はより広義なものになり、報奨プログラム、単発のボーナス・インセンティブ、モチベーションを上げるキャリア機会、スキルアップ、リスキル機会の提供などを含めて、報酬の競争力を考える必要が出てくるでしょう。
  3. フレキシブルな報酬と福利厚生
    働き方だけでなく、報酬や福利厚生など、あらゆる面でのフレキシビリティは、デジタル人材を調達し、引き付け維持するための重要な手段となります。
  4. 従業員スキルアップ・リスキルのためのオンライン学習の充実化
    変化するビジネスニーズに応えて、従業員のスキルアップ・リスキルは所属人材の価値向上だけでなく、従業員の定着(引き留め)にも役立ちます。オンラインをベースにしたスキルアップ・リスキルプログラムの充実化は、喫緊課題です。
  5. Tier2人材の採用とリスキリング
    デジタル人材として第一線に出ている人材(Tier1)を争奪するのではなく、ターゲットをスキルや経験が未熟な人材(Tier2)に変えることで、より大きな人材マーケットに低コストでアクセスできるようになります。多くの企業が、こうして採用したTier2人材を社内で教育・育成し活用する方が効率的と考えるようになりました。また、技術者以外の人材でも必要なスキルを身につけさせることを前提として、大学新卒採用を強化する企業も増えています。
  6. インターナショナル採用とクラウドソーシング
    採用対象マーケットを広げるという意味では、リモートワーク環境を確立して場所を問わずに世界中から国をまたいで優秀な人材を採用することも考えられる施策の一つです。また、社内のリソースだけでなく、クラウドソーシングのプラットフォームを通じた様々なスキルを持つより多くの人材の活用も含めて検討されるべきでしょう。
  7. コラボレーションプラットフォームとハイパーオートメーション(AIや機械学習を活用した自動化)
    デジタル人材には、コミュニケーションのスピードと効率化なコラボレーション環境が欠かせません。Covid-19の影響がまだ残る中、企業にとって最適なコラボレーションプラットフォームは重要な職場環境の要素です。場所の制約を受けずにチームが常に連携・協業することができ、生産性を高められる環境を整えておく必要があります。また、ハイパーオートメーション(AIや機械学習を活用した自動化)によって、従来の非付加価値業務や硬直化した組織構造から従業員を開放し、優秀なデジタル人材の価値を最大限に引き出すための業務インフラを提供することも大切です。
  8. 退職者面接の一歩先を行く「在職者面接」
    有能な人材が組織に退職の意思を表明してから慌てて引き留め対応を行うのではなく、対象者が在職中から積極的に組織が彼らを十分に評価し、重要視していることを伝える「在職者面接」は離職の予防に効果を上げています。
  9. 人材市場における企業のブランディング
    過熱する人材争奪戦において、人材市場に対する企業ブランディングの重要性が高まっています。人材を採用するところから始まり、オンボーディング、トレーニング、生産性・業績評価、退職に至る従業員のライフサイクル全体を通じて“あの会社で働けて良かった”という印象を、従業員に持たせなくてはなりません。オンボーディングだけでなくその他のプロセスもデジタル化されスムーズに提供される必要があります。また、退職する従業員も大切に扱われなければなりません。適切に扱われた元従業員は、退職後も長きにわたるブランドアンバサダーになってくれる可能性があるのです。特に人材需要が供給を上回っている局面で、所属社員の声は、潜在的な応募者を含めた人材市場において重要な要素の一つです。GlassdoorやIndeedなどのジョブサーチサイトでの高評価や前向きなレビューは、就職希望者の背中を押すにも、離職希望者を思い留まらせるにも、大いに役立つことでしょう。
  10. 従業員に対する就業体験の提供
    企業は、従業員を労働力と考えるのではなく、従業員に対して“より良い就業体験を提供する”という考え方にシフトすべきです。単に、労働と対価(報酬)の交換だけでなく、キャリア開発、スキルアップ・リスキル機会、福利厚生、報酬など、総合的な就業体験を従業員に提供することでより人材競争力の向上が見込めます。例えば、マイクロ・エンゲージメントと呼ばれる小さなやる気を引き出す仕組みも重要です。サンクスカードや小さなアワードなど、個別に設計されたエンゲージメントアクティビティの積み重ねが、従業員のエンゲージメントを揺るぎないものにします。

 

Sources

  • National Association of Software & Services Companies (NASSCOM) (Technology Sector in India 2022 : Strategic Review | NASSCOM)
  • India Brand Equity Foundation (IBEF)
  • National Association of Software & Services Companies (NASSCOM) (India as a Digital Talent Nation | NASSCOM Strategic Review Report 2022 - YouTube)
  • Mercer Mettl Survey: Closing the Skill gap – Recruit or Reskill 
  • Mercer’s 2022 Global Talent Trend Study 
  • Mercer High-tech & SSO Industry Overview

 

著者
Shalini Sharma
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