フランスから学ぶ公的年金制度改革の苦悩 

18 2月 2022

フランスは自由の国だという。

こちらの写真はフランス・パリにてコロナウイルスのワクチンパス導入に反対するデモの一団だ(2022年1月・筆者撮影)。パリでは非常にデモが多く、時には日本でもニュースになるような過激なものもあるが、多くのデモは穏やかだ。この日の参加者には、笑顔の老夫婦などもおり、市民の日常に権利運動が浸透している印象を受けた。

2019年、フランスの公的年金制度に抗議する市民が抱えていた不安

さて、フランスのデモといえば、2019年の年金改革デモを思い出される方もいるだろう。この時は交通機関のストライキや、警察と暴徒の衝突を含む大規模なものとなった(BBC (2019年12月6日) 「フランスで80万人がデモ、警察と衝突も - 年金改革に抗議」)。

高齢化する先進国各国において、公的年金の改革は大きな課題である。平均寿命の延伸や少子化が進む中で、既存の年金制度をそのまま運営していてはいずれ財政が破綻してしまう恐れがある。そのため各国は給付水準の調整や支給開始年齢の引き下げ等の年金制度改革を行っている。

フランスの公的年金制度は現在、3階層で構成され、業種等に応じて42本に分かれた複雑な制度である。そのうち日本の国民年金にあたる基礎年金(Les régimes de base)の受給開始年齢は62歳(受給額を満額とするため繰下可能な年齢は67歳)である。

2019年にマクロン大統領の計画していた年金制度改革の目玉は、業種ごとの複雑な年金制度を整理すること、そして受給開始年齢を“均衡年齢”と再設定し、62歳から64歳へと徐々に引き上げることであった。いずれの改革も年金支払額を抑制し、年金制度の財政健全化を進める効果がある。

参考に、Mercerのグローバル年金指数(マーサー 「グローバル年金指数ランキング(2021年度)を発表」 ※リンク先から英文レポートをダウンロード可能)を確認してみよう。フランスの年金制度は十分性の評価が良い一方で、持続性や健全性のスコアは参加国平均を下回っている。こちらの分析でも、財政状況の改善が今後の課題であると推察される。

  Adequacy
(十分性)
Sustainability
(持続性)
Integrity
(健全性)
フランス 79.1 41.8 56.8
参加国平均(参考) 62.2 51.7 72.1

マーサーグローバル年金指数2021より作成

 

しかし2019年の改革案は、市民の強い反対デモによりいったん停止することとなった。特別年金として有利な制度となっていた業種の労働組合からの反対や、実質的にリタイアの年齢が遅くなり60代となっても働くことへの不安感が原因と思われる。

市民の声は年金改革にどのような影響をもたらしていくのか

一方で、当時の世論調査(Statista (2021) Opinion on the establishment of a general retirement system in France 2019)では約67%が賛成(※very favorableとrather favorableの和)を示していたとのデータもある。フランスの市民運動の力強さ、そして目線を変えれば、国民全員からは理解を得られないであろう年金制度改革の難しさを感じる。

なお、2020年以降はコロナ禍となり、年金制度改革の議論はあまり進んでいないようである。フランスでは今年4月に大統領選を控えており、そこでマクロン氏が再選されれば、年金制度改革の再開もありえそうだ。「自由の国」フランスにおいて、公的年金改革への理解をどのように国民と進めていくのか、今後の動向に注目したい。

 

参考: Linternaute (2021.12.23) "Réforme des retraites : ce qu'envisage Macron pour 2022(年金改革 - マクロン氏が2022年に計画していること)"

著者
堀口 航
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